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無能だと追放された底辺付与術師、実は世界で唯一の【全自動・神級バフ】持ちでした 〜辺境でスローライフを送るはずが、俺が抜けて壊滅寸前の勇者パーティーが泣きついてきてももう遅い。  作者: 終焉を綴る堕天筆聖セラフィム・夜叉王院常闇寛龍


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第19話 付与相談役って、何を相談される役なんですか

 翌朝、リーフェル村の広場に、なぜか村人たちが集められていた。


 空は晴れている。


 畑には朝露が降り、井戸の縁ではぷる太がいつものようにぷるぷるしている。世界樹の若木はシルフィの幻視術のおかげで、遠目には少し元気な若木くらいに見えていた。


 そこまでは、いつもの朝だ。


 問題は、広場の中央に村長が立ち、妙に真面目な顔をしていることだった。


「……シルフィ」


「はい、師匠」


「何か聞いてる?」


「はい」


「俺には?」


「説明すると、師匠が逃げる可能性があると村長様が」


「逃げないけど」


「本当ですか」


「内容による」


「ほら」


 シルフィは当然のように頷いた。


 俺は少し困って広場を見回した。


 ミナたち子供もいる。マルタさんもいる。門番老人は槍を杖代わりにして、妙に楽しそうな顔をしている。畑の若者たちも集まっていた。


 つまり、ほぼ村全体だ。


 嫌な予感しかしない。


 村長が杖で地面を軽く叩いた。


「皆、集まったな」


「集まったよー!」


 ミナが元気よく返事をした。


 村長は頷く。


「今日は、村として大事な話がある」


 ざわめきが広がる。


「また王都から誰か来るのか?」


「エルフの追っ手か?」


「ぷる太が正式に村長になるのか?」


「ならん」


 村長が最後の声だけ即座に否定した。


 ぷる太が井戸の縁で、ぷる? と揺れる。


 少し残念そうに見えた。


「ぷる太、お前は今のままで十分だ」


「ぷる」


 納得したのかしていないのか分からない返事だった。


 村長は咳払いし、改めて俺を見た。


「アレン」


「はい」


「前へ」


「俺ですか」


「お前さん以外に誰がいる」


 全員の視線が俺に集まる。


 こういうのは苦手だ。


 勇者パーティーにいた頃、前に出るのはいつもカイルだった。俺は後ろで荷物や装備を確認していればよかった。人前で話す役ではなかった。


 だから、広場の中央へ向かうだけで少し落ち着かない。


 シルフィが隣を歩いてくれた。


「師匠、大丈夫です」


「何が始まるんだ?」


「任命です」


「任命?」


「はい」


「やっぱり逃げてもいい?」


「駄目です」


 シルフィに袖を軽く掴まれた。


 逃げ道はなかった。


 村長の前に立つと、彼はまっすぐ俺を見た。


「アレン。お前さんがこの村に来てから、リーフェル村は大きく変わった」


「それは、皆さんが頑張ったからで」


「最後まで聞け」


「はい」


 村長の声は厳しいが、怒ってはいない。


「畑は息を吹き返し、井戸は澄み、柵は守りを得た。薬草も保存食も、以前とは比べものにならんほどよくなっておる。シルフィは魔力を取り戻し、子供たちは魔力の基礎を学び始めた。ぷる太は……まあ、ぷる太だ」


「ぷる!」


 ぷる太が元気よく跳ねた。


 村人たちが笑う。


 村長も少しだけ口元を緩めた。


「それらはすべて、お前さん一人の力ではない。村の者も動いた。シルフィも支えた。ぷる太も働いた」


「ぷるる」


「だが、きっかけはお前さんだ」


 そう言われて、俺は返事に困った。


 最近、村の人たちはそう言ってくれる。


 まだ慣れない。


 自分が何かのきっかけになったと言われるたび、どう受け取ればいいのか分からなくなる。


 でも、否定し続けると、シルフィに怒られる。


 だから俺は、小さく頷いた。


「……はい」


 シルフィが隣で満足そうに頷いた。


 どうやら今の返事は合格らしい。


 村長は続けた。


「今後、この村には外から人が来る。王都、商人、貴族、エルフの家。どこから何が来るか分からん」


 広場の空気が少し引き締まった。


 昨日までの平和すぎる空気とは違う。


 黒い鳥の気配。


 シルフィの家。


 王都で広がる噂。


 それらは、村の外からじわじわ近づいている。


「その時、アレンがただの居候ではまずい」


「居候……」


「違うのか?」


「否定はしづらいです」


「だから、村として正式な立場を与える」


 村長はそう言って、マルタさんから一枚の木札を受け取った。


 木札には、丁寧な字で何かが彫られている。


 村長はそれを掲げた。


「本日より、アレンをリーフェル村の付与相談役とする」


 広場が一瞬静かになった。


 そして、すぐに拍手が起きた。


「おお!」


「付与相談役!」


「アレンさんらしいな!」


「何を相談すればいいんだ?」


「腰痛!」


「膝!」


「棚!」


「井戸!」


「ぷる太!」


「最後は相談なのか?」


 村人たちが好き勝手に騒ぐ。


 俺は木札を見つめたまま固まっていた。


「……付与相談役」


「そうだ」


「何を相談される役なんですか」


「付与に関することだ」


「そのままですね」


「分かりやすいだろう」


「分かるようで分からないです」


 村長は真面目な顔で言った。


「肩書きとは、外に向けて分かりやすければよい。村の正式な役目を持つ者となれば、外部の者が勝手に連れていこうとした時、村として抗議できる」


 俺は言葉を失った。


 ただの思いつきではなかった。


 俺を守るための肩書き。


 村長は、それを考えてくれていたのだ。


「アレン」


 村長は木札を俺へ差し出した。


「受け取れ」


「……俺でいいんですか」


「お前さんがいい」


 短い言葉だった。


 なのに、胸に深く響いた。


 俺は両手で木札を受け取った。


 そこには、確かに彫られていた。


『リーフェル村付与相談役 アレン』


 字は少し不揃いだが、丁寧だった。


「これは、誰が彫ってくれたんですか」


 門番老人が胸を張った。


「儂だ」


「すごく丁寧ですね」


「昨日の夜、目をこすりながら彫った」


「ありがとうございます」


「礼はいい。膝を」


「そこへ戻るんですね」


 村人たちがまた笑った。


 笑いながらも、皆どこか嬉しそうだった。


 俺は木札を胸に抱えた。


 ただの木札なのに、思ったより重かった。


     ◇


 任命は、それだけでは終わらなかった。


「次に、シルフィ」


「はい」


 シルフィが一歩前に出る。


 村長は別の小さな木札を取り出した。


「シルフィには、付与相談役補佐兼記録係を頼む」


「補佐兼記録係……」


「お前さんはアレンの力を一番よく観察しておる。外部に説明する時も、村の記録を残す時も、お前さんの知識が必要になる」


 シルフィは驚いたように村長を見た。


「私に、村の正式な役目を?」


「そうだ」


「私は、外から来た者です。しかも、追われる身で」


「だから何だ」


 村長はあっさり言った。


「アレンも外から来た。ぷる太も外から来た。最近のうちの村は、外から来た者で忙しい」


「ぷる」


「ぷる太を同列にしてよいのかは分かりませんが……」


 シルフィは戸惑っていた。


 村人たちは、当たり前のように彼女を見ている。


 そこには警戒も、拒絶もなかった。


 ミナが声を上げる。


「シルフィ先生は、村の先生だよ!」


「うん!」


「魔法教えてくれるし!」


「ぷる太を的にしちゃだめって言うし!」


「それは大事なのか?」


「大事!」


 子供たちが真剣に頷く。


 シルフィは小さく笑った。


 笑いながら、少し目元が赤い。


「……ありがとうございます」


 彼女は木札を受け取った。


『付与相談役補佐兼記録係 シルフィ』


 文字を見つめる彼女の手が、わずかに震えている。


「シルフィ」


 俺が声をかけると、彼女は小さく頷いた。


「大丈夫です。嬉しいのです」


「そっか」


「はい」


 彼女は木札を胸に当てた。


「私はもう、ただ逃げているだけではないのですね」


 その言葉に、村長が頷いた。


「そうだ。お前さんは、この村で役目を持つ者だ」


 シルフィは深く頭を下げた。


 その背中は、以前よりずっとまっすぐだった。


「次に、ぷる太」


「ぷる?」


 ぷる太が井戸の縁から跳ねてきた。


 村人たちの間を、ぷるぷる進んで広場の中央へ来る。


 村長はしばらくぷる太を見下ろした。


「……木札をつける首がないな」


「首どころか体の区別も難しいですね」


 俺が言うと、ぷる太はぷるんと抗議するように跳ねた。


 ミナが手を上げる。


「ぷる太には、小さい旗を作ればいいと思います!」


「旗?」


「井戸守りって書いた旗!」


「それ、目立たないか?」


「じゃあ小さい旗!」


 村長は少し考えた。


「採用」


「採用されるんですか」


「ぷる太は本日より、リーフェル村の井戸守りとする」


「ぷる!」


 ぷる太が大きく跳ねた。


 その瞬間、体が金色に光りかける。


「ぷる太、光るな」


「ぷるっ」


 慌てて光を消す。


 村人たちが笑った。


 マルタさんが布切れを取り出し、手早く小さな旗を作り始めた。布には、後で門番老人が字を書くことになった。


「井戸守り、ぷる太」


 ミナが得意げに言う。


「かっこいい!」


「ぷるる」


 ぷる太は完全に気に入ったらしい。


 その様子を見て、シルフィが記録しようと羽ペンを取り出した。


「村の役職制度に守護獣が組み込まれた事例として」


「シルフィ、それは難しく書きすぎじゃないか」


「では、ぷる太が正式に井戸番になった、と」


「それでいいと思う」


 こうして、俺は付与相談役に、シルフィは補佐兼記録係に、ぷる太は井戸守りになった。


 冷静に考えると、なかなか不思議な村である。


     ◇


 任命式のあと、村長の家で小さな会議が開かれた。


 集まったのは、村長、マルタさん、門番老人、俺、シルフィ。それから、なぜかぷる太。


 ぷる太は水を張った木桶の中に入っている。


 正式な井戸守りになったから会議に出席するらしい。


「ぷる太、内容分かるのかな」


「ぷる」


「分かると言っているように聞こえるな」


 門番老人が真面目に言う。


「最近、ぷる太は賢い」


「そうですね」


 シルフィが頷く。


「魔力核の成長が進んでいます。簡単な言葉は理解している可能性があります」


「本当に分かってるのか」


「ぷる」


 ぷる太は自信満々に揺れた。


 村長が咳払いする。


「話を戻すぞ。今日、役職を決めた理由は先ほど言った通りだ。今後、外から者が来る。王都、貴族、商人、エルフ。すべてに備える必要がある」


 シルフィの表情が少し硬くなった。


「エルフの家からは、来ると思います」


「昨日言っていた感覚か」


「はい。黒枝の気配もありました。おそらく、私の生存は知られています」


 村長は頷いた。


「来た場合、どうする」


 シルフィは少し黙った。


 俺は彼女を見た。


 急かさない。


 彼女自身が言葉を選ぶのを待つ。


「私は、戻りません」


 シルフィははっきり言った。


「リーフェン家に戻るつもりはありません。ですが、相手は家名と血筋を盾にしてくると思います。私一人では、揺らぐかもしれません」


「揺らいでもいい」


 村長が言った。


 シルフィが目を見開く。


「よいのですか」


「怖いものは怖い。揺れるものは揺れる。それを責める村ではない」


 マルタさんも頷いた。


「そうだよ。大事なのは、揺れたあとにどうしたいかだよ」


 シルフィは唇を結んだ。


「……私は、ここにいたいです」


「なら、それでよい」


 村長は短く言った。


「そのために肩書きも作った。シルフィは村の記録係だ。勝手に連れていかれる理由はない」


「ありがとうございます」


 シルフィは小さく頭を下げた。


 俺はほっと息を吐く。


 自分の時もそうだったが、村長は本当にこういうところが強い。


 言葉が短いのに、芯がある。


 門番老人が俺を見た。


「アレンの方はどうする」


「俺ですか」


「王都の方でも噂になっておるかもしれんのだろう」


「マリナさんの手紙だと、その可能性はありますね」


 マルタさんが眉をひそめる。


「商人が来るかもしれないね」


「商人なら、いつものバルドさんみたいな人ならいいんですけど」


「全員がああではない」


 村長は言った。


「水、薬草、作物、保存棚。外から見れば金の匂いがするものばかりだ」


「金の匂い……」


 俺は少し嫌な気持ちになった。


 勇者パーティーでも、報酬の話はよく出た。


 必要なことだ。


 でも、カイルは時々、人の力まで報酬や価値で測るようなところがあった。


 リーフェル村がそんな目で見られるのは、少し嫌だった。


「だからこそ、記録と決まりを作る」


 村長は続ける。


「何を売るか。何を売らないか。誰と取引するか。村の者全員で共有する必要がある」


「霊豆や井戸水は、まだ外へ出さない方がいいと思います」


 シルフィが言う。


「品質が高すぎます。出せば必ず目をつけられます」


「同意だ」


 村長は頷いた。


「当面、外には普通の作物と薬草だけ出す。品質も抑える。保存棚は村内用だ」


「品質を抑えるって、どうやるんですか」


 俺が聞くと、シルフィがこちらを見た。


「師匠が触れないことです」


「俺が触れない」


「はい」


「それが品質を抑える方法なんだ」


「現状では最も確実です」


 少し悲しい。


 門番老人が笑う。


「アレンは高品質化しすぎるからな」


「そんな漬物みたいに言わないでください」


「漬物も触ったら高級品になりそうだ」


「なりませんよ」


 シルフィが少し考え込む。


「……可能性はあります」


「シルフィ?」


「発酵促進と腐敗防止が同時に起きれば、極めて高品質な保存食になるかもしれません」


「真面目に検討しないでくれ」


 村長が手を上げた。


「漬物の話は後だ」


「後でやるんですか」


「冬支度には重要だ」


 この村では、話がすぐ生活に戻る。


 それが少し好きだった。


     ◇


 会議の後、俺たちは保存庫へ向かった。


 昨日作った試験用の保存棚を、村の小さな共同保存庫に設置するためだ。


 保存庫は石造りの半地下で、夏でも少し涼しい。中には干し豆、麦、乾燥野菜、塩漬け肉、薬草の束が並んでいた。


 棚を置くと、空気がわずかに変わった。


 湿気が引き、嫌な匂いが薄くなる。


「……やはり効果が出ています」


 シルフィが確認する。


「保存庫全体に広がりかけています。師匠、少し離れてください」


「はい」


 俺が数歩下がると、光が落ち着いた。


 村長がそれを見て言う。


「本当に、近くにいるだけで強くなるのだな」


「俺も最近、だんだん実感してきました」


「それはよいことだ」


 シルフィがすぐに頷く。


「自己認識改善です」


「また記録?」


「もちろんです」


 保存棚に干し豆の袋を置く。


 少しだけ光る。


 シルフィが確認し、頷く。


「この程度なら外見では分かりません。保存効果は高いですが、派手な変化はありません」


「よし」


 村長は満足そうに頷いた。


「これで冬の備えが少し楽になる」


 その言葉を聞いて、俺は棚を見る。


 ただの棚だ。


 でも、この棚があれば、村の食料が少し長持ちする。


 誰かが冬に腹を空かせる日が少し減るかもしれない。


 そう思うと、胸がじんわり温かくなった。


 勇者パーティーで強敵を倒した時の高揚感とは違う。


 もっと静かで、長く残る嬉しさだった。


「師匠」


 シルフィが声をかける。


「今、いい顔をしています」


「そうか?」


「はい。記録したいくらいです」


「顔は記録しなくていい」


「文章でなら」


「それも恥ずかしい」


 シルフィは少し残念そうだった。


     ◇


 午後、村の入口に小さな板が掛けられた。


『リーフェル村 付与相談役在村』


 門番老人が彫ったものだ。


 俺はそれを見て固まった。


「……これ、必要ですか」


「必要だ」


 村長は当然のように言った。


「外から来た者に、お前さんが村の正式な役持ちであると示す」


「でも、付与相談役って書いてあると、逆に目立ちませんか?」


「ただの相談役では弱い。だが、強すぎても困る。考えた末の表記だ」


「考えた末なんですね」


 シルフィが板を見て頷く。


「悪くありません。正式な肩書きは示せていますが、神級付与や世界樹については何も触れていません」


「触れたら大変だろ」


「はい」


 ミナが板を見上げて言った。


「ぷる太の名前は?」


「井戸守りだから井戸に旗を立てる」


 門番老人が答える。


「旗できた?」


「今彫っておる」


「やった!」


 ぷる太は井戸の縁で、期待に満ちた揺れ方をしていた。


 井戸守りの旗がそんなに嬉しいのだろうか。


 夕方近く、小さな旗が完成した。


 白い布に、門番老人の字で『井戸守り ぷる太』と書かれている。


 旗は小さな木の棒につけられ、井戸のそばに立てられた。


「ぷる!」


 ぷる太が跳ねる。


 光る。


「ぷる太、光りすぎ」


「ぷるっ」


 消える。


 ミナたち子供は大喜びだ。


「ぷる太、えらい!」


「井戸守り!」


「村の役持ち!」


 村人たちも笑っている。


 その光景を見ていると、外の不穏さを忘れそうになる。


 でも、忘れてはいけない。


 村長が肩書きを作ったのは、遊びではない。


 この村を守るためだ。


 俺を、シルフィを、ぷる太を、村の暮らしを。


 守るために、村は少しずつ形を整え始めている。


 それが分かるから、木札の重みが胸に残った。


     ◇


 その日の夜。


 俺は自分の家で、木札を壁に掛けた。


 『リーフェル村付与相談役 アレン』


 何度見ても、少しくすぐったい。


 シルフィは机に座り、今日の記録をまとめている。


 ぷる太は窓辺で眠っていた。井戸守り任命で疲れたのかもしれない。


「シルフィ」


「はい」


「付与相談役って、何から始めればいいと思う?」


「まず、師匠が何をすると何が起きるのかを把握することです」


「大仕事だな」


「はい。大仕事です」


「俺、自分のことなのに分かってないからな」


「そこは、私が補佐します」


 シルフィは自分の木札を机の横に置いた。


 『付与相談役補佐兼記録係 シルフィ』


 彼女はそれをそっと指でなぞる。


「私も、ここでの役目をもらいました」


「うん」


「不思議です。リーフェン家にいた頃、私は役に立たない者だと言われていました。ここでは、記録係だと」


「シルフィは役に立ってるよ」


 俺が言うと、彼女は少しだけ目を伏せた。


「師匠は、すぐそういうことを言います」


「本当だから」


「……ありがとうございます」


 小さな声だった。


 でも、ちゃんと届いた。


 外では、虫の声がしている。


 遠くで世界樹の葉が揺れる音がした。


 村は静かだ。


 ただの静けさではなく、誰かが守ろうとしている静けさ。


 俺は壁の木札を見上げた。


「俺、この村の役に立てるかな」


 思わず呟く。


 シルフィはすぐに答えた。


「もう立っています」


「そうかな」


「はい。ですが、これからもっと役に立てます。ただし、働きすぎは禁止です」


「そこは変わらないんだ」


「変わりません」


 シルフィは真面目な顔で言った。


「付与相談役の最初の規則として、師匠の過労を禁止します」


「相談役本人に規則があるのか」


「必要です」


「誰が守らせる?」


「補佐兼記録係の私です」


「強い」


 俺は笑った。


 シルフィも少し笑う。


 ぷる太が寝言のようにぷる、と鳴いた。


 付与相談役。


 まだよく分からない肩書きだ。


 でも、少なくともそれは、俺を道具として呼び戻すための名前ではない。


 この村で、俺が俺として立つための名前だ。


 そう思うと、少しだけ誇らしかった。


 そして同じ夜。


 リーフェル村へ向かう街道の遠くで、一台の馬車が静かに進んでいた。


 荷台には商人風の男たち。


 その袖口には、王都の下級貴族家の紋章。


 さらに別の森道では、エルフの使者団がリーフェン家の旗を掲げて出発の準備をしていた。


 リーフェル村の小さな木札が、これからどれほど大きな意味を持つことになるのか。


 その時の俺たちは、まだ知らなかった。

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