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エピローグ -1-

十月二十三日(水)

 

「これでアタシからの報告は終わり。他に何か聞いておきたいことある?」

「ま、計画したのは私だしね。特にこれといってないよ」

 

 リアルの質問に彩音が答えた。

 

 二人がいるのは因縁の場所、西校舎の屋上。

 他者の姿はない。

 

「ところで、リアルちゃん。指、大丈夫? 二本折れたんでしょ?」

 

 ギブスと包帯で固定されたリアルの左手を見ながら尋ねる。

 

「まあね。ちょっと不便だけど、概ね好調よ」

「それを聞いて安心したよ」

 

 吹き抜ける風に髪を揺らしながら、彩音は安全柵の近くまで歩くと校庭を見下ろした。

 グラウンドには所狭しと模擬店が並び、行き交う人々でごった返している。

 

 今日は神有祭の最終日。

 

「大成功なんだって。来客数が凄いって聞いてるわよ」

 

 リアルが隣に並ぶ。

 

「その分トラブルも多くてさ。沙耶はあちこち走り回ってるよ」

「なのに会長様は屋上で油を売ってるわけだ」

「ち、違うわよ。事件の報告を聞く為に、抜け出してきたの」

「よく言うわ。アタシが来た時には、隅っこで熟睡中だったくせに」

「あれは、その、休める時に休んでおくのは、会長としての職務の一環なの」

「立派な会長様ね。呆れちゃうわ」

 

 大袈裟に溜息をこぼす。

 

「そうだ。礼を言っておくわね。ハチのこと」

「あれは妥当な決着ってやつ。あの時のハチちゃんは普通じゃなかったもん」

 

 ハチが美佳子に怪我を負わせた件は不問となった。

 怪我がそれほどでもなかった事と、美佳子自身が本土の捜査を頑なに拒んだ事で、生徒会内部で処理が完了した。

 もちろん、美佳子に対し、なんらかの提案や圧力があったのは、想像に難くない。

 

「あのさ、リアルちゃんはアカデミーが好き?」

「嫌いじゃないかな。それなりに楽しく過ごせてるし」

「私はね」

 

 ふと視線を上げた。雲ひとつない秋空が眩しい。

 

「私はね、ここが大っ嫌いなんだ。こんなとこね、なくなっちゃえばいいと思ってる」

「また、それは随分と過激な意見ね」

「母さんもアカデミーで会長をやってたんだよ。二十二年前に」

「二十二年前?」

「二十二年前ね。夏休みの終わりに体育館から小火が出たの。バカな連中の持ち込んだ蝋燭が地震で倒れてね。そいつらは即刻退学になったんだけど、生徒会長だった母さんも責任を取らされてね。会長の任期が終わる春に、自主退学させられたんだ」

「それってまさか」

「つまりさ、母さんが六人目だったってわけ」

 

 予想すらしていなかった事実に、リアルにしては珍しく言葉を詰まらせる。

 

「酷い話でしょ。母さんは全然悪くないのにさ」

「だから復讐ってわけ?」

「うん。子供の頃から考えてた。いつか母さんに代わって復讐してやろうって。アカデミーに入学して、下らない七不思議を聞いた時、確信したんだ。これは運命に違いないって。だってそうでしょ。六人目の来訪者、その娘が七人目の来訪者になって復讐を遂げる。なかなかにメルヘンチックだと思わない?」

「どうだろ。アタシにメルヘンってのは似合わないからさ」

「リアルちゃんは、リアリストだもんね」

「メルヘンに浸ってるほど暇じゃないだけよ」

「暇がないってのは充実してるってことでしょ。いいことよ」

 

 彩音が大きく伸びをした。

 

「結局、目論みは達せられたんだし。今年の盛況は来年の集客減に繋がる。これでアカデミーの破綻は間違いないね」

「陰鬱な話ね。ところで、来年の生徒会長には立候補しないの?」

「するわけないでしょ。破綻する生徒会に付き合うなんて冗談じゃないよ」

「困った会長様ね。ま、アンタがなにしようと、アタシには関係ないから。好きにすればいいんじゃない」

「あれ。リアルちゃんらしくないコメントだね。非難の一つくらいあるかって思ってたんだけど」

 

 絡み付くような彩音の視線を、小さく肩を竦めてやり過ごす。

 

「六寮の少女にも不可能があるってことね。あ、そうだ。聞きたいことがあったよ」

「ん、なに?」

「私が七人目の来訪者だって、いつから気づいてたの?」

「最初から」

「会長室で最初に会った時だよね。やっぱりなぁ。ちょっと怪し過ぎたって自覚はあったんだよね」

「違うわよ。もっと前から」

「え? どういうこと?」 

 


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