十月二十三日(水) -15-
透き通るような白い肌に、ポニーテールの髪。
緊張で少し強張った瓜実の顔。
「紹介してあげる。七不思議の一つ『第六寮の幽霊』よ」
「七不思議、だと」
呻く来訪者を無視して、リアルが叫ぶ。
「ミノリ! 火を消して!」
ミノリは蝋燭に顔を近づけると、淡い唇を開き小さく息を吸った。
来訪者が床を蹴る。
人智を超えた筋力と瞬発力が、驚くべき加速を発揮した。
「うぉぉぉ!」
しかし、その圧倒的な速度を持ってしても、か細い少女が吐く一息にはあまりにも。
「止めろぉぉぉぉ! 止めろぉぉぉぉ!」
あまりにも遠過ぎた。
最後の蝋燭が。
消えた。
「こんなぁぁぁ! こんなぁぁぁ! うぅぅぅがぁぁぁぁ!」
来訪者が足を止めた。頭を抱えながら、ただ言葉にならない絶叫を繰り返す。
「おのれぇぇ! 人間ごときかがぁぁ! 人間ごときにぃぃ!」
来訪者がリアルに向き直った。
憎悪や殺意という単語では、到底表わしきれない怨みのこもった目で睨みつける。
視線を受け止めたリアルが臆する事無く、にぃっと犬歯を見せた。
「言ったでしょ。アタシと知恵比べするには、百年は早いってね」
「くそぉぉぉ! お前だけはぁぁぁ!」
ふらふらとした足取りで、リアルの方に進む。
しかし、何倍もの重力に押し付けられたかのごとく一歩一歩が鈍く重い。
「お前だけはぁぁ! 殺してやるぅぅ!」
懸命に手を伸ばす。その爪先がリアルに触れる寸前で止まった。
「うがぁっ!」
来訪者の身体から黒い蒸気のような物が立ち上った。
それは瞬く間に天井全体を覆うほどまで広がり、静かに渦を巻き始める。
ゆったりとした動きはやがてグルグルと激しい流れに変わり、そのまま床の六芒星に吸い込まれていく。
時間にして一分足らず。黒い蒸気は部屋から完全に消え去った。
「まるで排水溝ね」
ふうっと安堵の息をついたリアルの眼前で、ハチの身体が膝から崩れた。
「ハチ!」
慌てて受け止める。
が、まだ痺れの残る身体で、自分より重いハチを支えきるなんて、とてもできなかった。
押し潰される形になって、「むぎゅぇっ」と珍妙な声を漏らしてしまう。
「リアル、大丈夫?」
「うぅ、重いわ。この子、着痩せするタイプなのね」
駆け寄ってきたミノリが、相変わらずの憎まれ口に思わず頬を緩ませる。
と、その優しい表情がぼやけ始めた。
リアルが視線を動かすと、ようやく意識を取り戻した彩音達が頭を振っているのが見えた。
「あの、ごめん、私」
「解ってる。先に部屋に行ってて。今日は助かったわ。ありがと」
「うん、じゃあ、また後で」
空間に溶けていく親友に小さく手を振ると、自分の上で安らかな寝息を立てているアシスタントに目を移した。
穏やかで頼りない顔は、いつものハチに間違いない。
「まったく気持ち良さそうに寝ちゃってさ。アタシがどんな目にあったと思ってんのよ。まあでも」
部屋の隅で折り重なって倒れている二人に気付いた真樹が、名前を呼びながら走ってくる。
やや遅れて、彩音と沙耶が。
純理は一瞥しただけで、特に動こうとする気配はない。
「こんな間抜けな寝顔見ちゃったら、怒る気力も失せちゃうわね」
リアルがそっとハチの前髪を撫でた。




