十月二十三日(水) -14-
「何故、お前は意識がある? お前は本当に人間なのか?」
「アタシはね。人間とは違うの。こう見えても天使様なんだから」
「それは面白い。なら天使らしく飛んでみるか」
無造作に放り投げた。
放物線を描いて、部屋の奥まで飛ぶ。
落下する寸前、頭部を抱えて、致命傷を防ぐのが精一杯だった。
床に叩きつけられた痛みに、くぐもった声を漏らす。
「お前はここで死ぬ。お前が最後の愚者、六人目になるのだ」
大股でゆっくりと来訪者がリアルに迫る。
「こんなんで、へこたれる、もんか」
痛みにめげそうになる自分を叱咤しながら、なんとか身体を起こそうとする。が、立て続けに受けたダメージは大きく過ぎた。
結局、転がったまま、来訪者を見上げるのが精一杯だった。
「さっきの威勢はどうした? ん?」
狂気に満ちた笑みを浮かべながら、リアルの小さな左手に足を乗せた。
そのままじわじわと力を加える。
ぺきっと小さい音が、嫌にはっきりと響いた。
指の折れる激痛を、リアルはぐっと奥歯を噛み締めて耐える。
「なかなかいい根性だ。だが、どこまで続くかな」
「随分と趣味が悪いわね」
「くくく、それはお前流の褒め言葉だったな」
「ね、簡単な質問いい?」
「この期に及んでなんだ?」
「アンタさ、ひょっとして勝った気でいるんじゃない?」
痛みで血の気が失せた顔に、それでも勝気な表情を作る。
「正直、危機一髪だった。数で押せば蝋燭なんて簡単に消せると思ってた。まさか、あんな奥の手があるなんて、想像もしてなかった」
「今更、己の無力さを嘆いても……」
「ホントにどうしようかと思ったわ。どうやって、アンタを蝋燭から引き離せばいいのかって」
「ん?」
「アンタと一緒なの。伝承に縛られてるの」
「なんの話だ?」
尋ねる来訪者に、右手の指を三本立てて見せる。
「だから、三つの条件を満たす必要があったの」
まったく見えない話に、来訪者が眉を潜ませる。
「最初の条件は時間。夕方以降から日の出までの間であること」
指を一つ折った。
「次に場所。ここ。六寮だけに限られる」
更に一つ指を減らす。
「最後に目撃者。一人でないとダメなの」
最後の指を折って、目蓋を閉じた。
「解る? これで、全ての条件が満たせたの。ここまで来たら、後はアンタを蝋燭から引き離すだけだったのよね。で、アンタは今、間抜け面してここに立ってる。これがどういうことか解る?」
「何を言っているのかと聞いているんだ!」
「まったく鈍いわね。後ろを見てごらん」
振り返った来訪者が、その濁った目を大きく見開いた。
視線の先、数メートル向こう。
残された蝋燭の前に、黒いセーラー服の少女が立っていた。




