4.疑問
セレシアはラインハルト、オルフェウス、ケインと共にエルグレンド峰を登っていた。目的はエルグレンド峰の生態系の記録。
エルグレンド峰はかなりデカイので二チームに分かれて探索することになった。親睦を深める事も兼ねたのでセレシアはレオンとボウとは別のチームに分類された。
「セレシア殿」
「あっはい!」
「君は何魔法がどの程度使えるのかね?」
「あ、ええっと……」
ラインハルト率いるフォルゲスには、自分よりも優秀そうな魔術師「アルト」がいた。それに、自分は平均的に様々な属性魔法が使えるのではなく、水だけしか使えない。ので、答えるのに抵抗があったが、チームの貢献のため、答えた。
「えっと……水だけです……」
そう言った瞬間、胸が痛んだ。
『水属性しか使えない魔術師なんていらねーよ』
『あー……悪いけど、回復も出来ないとな……』
過去に言われた痛恨の言葉がセレシアの脳裏によぎる。
横目でチラチラとラインハルトの様子を伺う。
「……そうか」
(あぁ終わった……)
反応は最悪だった。これは失望された。もう無理。帰りたい。
「一極集中型か。ならば信頼できるな」
「……え?」
「一極集中ならばその属性が突出して使えるということ。様々な属性を半端に使う魔術師なんかより全然信用できる」
「そ、そうなんですか……!」
顔が明るくなる。今まで一極集中はいらないとパーティーから追い出され続け、誰からも認めて貰えてなかったので、その言葉はグッときた。レオンは、貶したり見下しはしてこなかったが、認めてもくれない人だった。
「まぁアルト姉さんは──」
「少し黙っていろ」
これ以上喋らせまいとラインハルトがケインの喉元に剣を向かわせた。ケインの言いたかったことは、何となくわかった。
◇◇◇
登り始めてから約十分。虫も見えない。
「本当にいるんですかね……生き物」
「いるぞ」
「え?」
ラインハルトは前を強く睨む。
「前方二十五メートル、一体」
「な、何も見えませんけど……」
「まだセレシア殿には見えないだろうな」
ラインハルトは剣に手を添える。
「ただ、俺にはわかる。魔力の奔流が発生している」
「……確かに」
ケインもラインハルトも気付いているらしい。オルフェウスも無言で頷いていた。
「どうやら奴は俺たちが向こうの存在に気付いていないと思っているようだ。ならば──」
ラインハルトがそう言った時には、既に地面を蹴っていた。
「こちらから行くまでッ!──」
ラインハルトが片手に持っている剣が青白く光り出す。周囲の光が吸い込まれ、より輝きを放ち始める。
「捉えたッ!」
そしてラインハルトは剣を斜めに切り落とした。セレシアからしたら、大地を蹴る音と本当に何も見えなかった。ただ、鮮血が宙を舞った。
ラインハルトが剣を引き抜くと、何もない空間から巨大な魔獣が姿を表す。
「こ、これは……?」
「擬態していたのだろうな。奇襲して俺たちを襲おうって寸法か。ケイン殿、念のためセレシア殿の近くにいろ。オルフェウス殿、この魔獣の特徴を記録してくれ」
「「了解」」
二人の声は意気投合していた。
「む……この肉の感じ……少なくともこの近辺の国で出回っている肉ではないな」
「なるほど。つまり別大陸からの流れモノか」
「? 何故そうと分かるのです?」
セレシアが単なる疑問で投げかけた問いに、ラインハルトは当たり前に答えた。
「オルフェウスはこの大陸にいる動物の肉をすべて食ったことがあるんだ。もちろん、生肉も見たことがある。触るだけでどんな動物かを当てることができるんだ」
「お、おお……?」
(この人、変なところが強みですね……)
持てる荷物の重量やら、肉を触るだけでこの大陸のものだと分かるとかいうものやら。
「いや」
セレシアの護衛についていたケインが口を開く。
「その魔獣、海を横断できるようには見えないぞ……? 俺みたいにトロそうだしよ……」
セレシアは少し離れていたので、魔獣の身体を上手く確認することができなかった。ので、近付いて確認した。
かなりの巨体で四足歩行で触手のような触角が生えており、かなり剛毛だった。水かきが手足にあるようにも見えない。
「確かにな……そう言われるとそうだ」
ラインハルトは難しい顔をし、しばらくの思案の末、発言した。
「誰かが意図的にこの大陸へ運んだのか?」
「そう考えるのが自然だよな……」
ケイン、オルフェウス、ラインハルト共に納得をしていた。
「ちょっと待ってください」
それをセレシアが静止させた。
「なんだね? セレシア殿」
「一見それで間違いないように見えますが、不可解な点があります」
セレシアは自分の思っている事をありのまま話す。
「この大陸に連れてこられたとしたら、いくらなんでも情報が出回っていなさすぎです。つまり、エルグレンド峰にだけいる魔獣です」
「エルグレンド峰にだけ生息している魔獣か……」
「私もその線は考えました。ですが、エルグレンド峰にだけいるのならばここまで攻撃性の高い体質になるとはとても思えません。エルグレンド峰に近寄る人なんて、基本的に居ませんから。いたとしてもごく少数。段々と魔獣たちは人間を積極的に狙うような進化はせず、生存性に長けていくはずです」
「つまり……」
ラインハルトが一拍置いて口を開く。
「この山に……この魔獣を放った者がいる……」
「そう考えるのが自然でしょう」
そう言うと、皆虚をつかれたような顔をした。
船などで連れてこられたのならば、魔獣達は本能のままに動き、国を襲っているはず。ならば、エルグレンド峰で生まれ、エルグレンド峰から出ないように制限をかけられている。とセレシアは考えたのだ。
「それに、彼ら魔獣は私たちを獲物として見ていました。ここエルグレンド峰に来た人間は極わずかです。それだけであそこまで適応できるとは到底思えません」
「自然では説明がつかない……ということか」
「いるとすれば山頂ですかね……確信はありませんが」
「見事だ、セレシア殿」
「え?」
「魔法の扱いが魔術師の全てでは無い。観察眼や思考力も、必要とされるからな。先程の推理、見事だった」
マジトーンで言われるものだから、セレシアも困惑しながらお礼を言った。
「え、あ、ありがとうございます……?」
「そうとなれば……ボウ殿らにもこのことを伝えたいのだが……流石に無理だな」
「ま、向こうはクロノとアルト姉さんいるし……大丈夫でしょ……」
オルフェウスが魔獣の屍を軽々と持ち上げた。
「? 持っていくのですか?」
「クロノにな」
「あぁ」
記録のためか。と思った。たしかに、ココに今すぐ記録できる人間はいない。
「生態系調査は引き続き続行。ただ、山頂にいち早く向かうぞ。ボウ殿らがこの事に気付いてない前提で動くぞ」
ラインハルトにそれぞれ返事をし、山頂へと向かった。果たして、セレシアの推測は合っているのか。
◇◇◇
一方その頃、ボウの方でも同じ考察が飛んでいた。
「この魔獣たち……よくよく考えれば何か不可解だね」
「ええ。恐らく……この山にしか生息していないのでしょうね」
「だとしてもここまで凶暴であるこたねぇだろ? 少なくとも、俺らを重点的に狙ってるように見えるぜ?」
「としたら、人工的なものの可能性もあるね……」
「あー……」
(こういうの、山頂に誰かいるのがお決まりなんだよなぁ)
「山頂とかに居るんじゃねぇの? 勘だけどよ。死ぬ確率が一番低いだろ?」
「僕もそう思っていたところさ」
「そうと来たら、山頂に行くか」
アルトとクロノ、ボウもレオンのその言葉に賛成し、山頂へ向かった。
「向こうは気付いてなさそうだよな」
「だね。僕らは彼らが気付いてない事前提で動きを作っていこう」
了解──




