3.エルグレンド峰
早朝、冒険者ギルドにてボウ達とフォルゲスは落ち合った。
「おはよう! 諸君!」
相変わらずなテンションで挨拶をしてくるラインハルトに、ボウたちもそれぞれフォルゲスの面々に挨拶を交わす。そこである程度自己紹介をした。
「おはよう……エルグレンド峰に登るのはいいんだけどさ……その……」
ボウはそこまで言って発言をやめると、荷物持ち担当、オルフェウスに視線を向けた。
「お前はどんだけでかい荷物持ってんだ?」
彼の背丈の三倍くらいはありそうな荷物を背中に抱えているオルフェウス。オルフェウスは恐らく百八十はあると思うのでかなりのデカさだ。
「彼はいつもこれくらいの荷物を持っているぞ?」
「マジで⁉︎」
「あぁ、すべて肉だ」
「絶対こんないらないだろ」
八人分だとしても量が多すぎるくらいだった。多分というか絶対一ヶ月以上は持つので、明らかオーバーだった。
「っはっはっはっはっは! ボウ殿も面白い事を言うものだ!」
「え、何が?」
「オルフェウスがいるではないか」
「いやいるけ……いやちょっと待て」
嫌な予感が脳裏をよぎった。
「もしかしてそれ……オルフェウスが全部食うのか?」
「その通り!」
「馬鹿なの?」
思わず言ってしまった。その時、クロノが小さく笑った。
「……否定は出来ないね」
笑いの余興が残ったまま、クロノが呟いた。
「っつーか、こうして話してる間にも時間は進んでんだろ? 場所が場所だしとっとと行かね?」
さっきまで眠そうにしていたレオンが急に喋り出した。
「そうね。会話なんて移動中にもできるし……あまりここで留まるのも得策とは思えないわ」
アルトも頷きながら賛成の意を見せる。ケインとオルフェウスは終始沈黙だった。
◇◇◇
そして、着いた。
「着きましたね……エルグレンド峰」
「っぱデケェな……」
レオン、セレシアは改めてエルグレンド峰の威圧感に気圧されていた。
(始めてきたけど確かに……)
エルグレンド峰は名前しか知らなかったので、別に大したことないと思ってたのだが、さすが三千四百メートルといったところだろうか。威圧感がとんでもない。
この山に、何十、何百もの骸があると考えると身の毛が弥立つ。毛無いけど。
「作戦は移動中に話したもので構わないな?」
「勿論」
「よし、それでは行こうか」
ラインハルトのその一言で、全員がエルグレンド峰に足を進めた。
◇◇◇
作戦としては、とにかくこの山はデカイので四人ずつのチームに分かれて探索する。でなければ六日の間にエルグレンド峰を探索しきるのは不可能と考えたからだ。
ボウ、アルト、レオン、クロノ。そしてラインハルト、セレシア、オルフェウス、ケインに分かれた。
「っだああぁ……疲れた。俺もう帰りてぇよ〜」
「何バカ言ってんだよ。まだ十分しか経ってないだろ」
「だってよぉ……なんも見えねぇじゃねぇかよ。動物どころか虫すらいねぇ」
「まぁ……確かに」
ボウとレオンが生産性のない会話をしている時、クロノが口を開いた。
「麓辺りの生物は奇襲型と僕は踏んでいる。興味本位で近付いてきた人間を狩るためにね。目を光らせて、静かにして」
「えー? 確証ないんだろ? だったら別に良くね?」
「良いから」
クロノからの圧を受け、はいはいとレオンは従った。
「アルト、魔力感知を頼んでもいいかい?」
「えぇ。構わないわ」
二人は軽い会話を交わすと、アルトは持ち前の凄そうな杖を地面に刺した。
さすれば、その杖を中心として水色の波紋が辺りに広がった。
「この辺りに三つ、魔力の塊があるわ」
「了解。場所は?」
「右、上、左にそれぞれ一。頭上を気をつけておきなさい」
凛々しい顔で話している二人の会話内容を聞いて、レオンも気を引き締めた。どうやら、魔力の塊が三つあるらしい。人だろうが、魔獣だろうが、こんなところにいる時点でまともではない。
「……来るッ!」
アルトの声が、戦場の火蓋を切った。
上空から聞いた事もない甲高い鳴き声が聞こえてきた。ボウとレオンは咄嗟に構えを取り、アルトはクロノを守るようにシールドを張った。
「あっぶね!?」
野獣から放たれた鋭い鉤爪はボウを襲ったが、俊敏な動きでそれを間一髪で回避した。
「なるほど……全長おおよそ二メートル……鋭い鉤爪を持ち合わせており、上空からの奇襲……」
ボウが間一髪で攻撃を交わしてる時、クロノは必死に羽根ペンを走らせていた。
「ボウとレオン! 出来る限り耐えるんだ! 奴の攻撃パターンを出し尽くさせろ!」
「お前自分が戦わないからって無理難題押し付けんじゃねぇ!!」
そうは言ったものの、コイツの攻撃は案外単調なモノで、容易に回避出来る。それはレオンも同じくだった。
そして一度、クロノを狙って攻撃を仕掛けにいったが──
シールドに阻まれ、牙は跳ね返された。
「コイツだけなら余裕だな。ほらかかってこいや!」
レオンは余裕だと悟ったのか、調子こいて挑発を開始した。
「ッハハ! まるで当たりゃしねぇぜ──ってどぅわぁぁぁぁ!?」
レオンがチラッと横を向いた瞬間、レオンの眼前に別の魔獣が居た。
ボウはすかさず蹴りをいれて即座に剣を握っている右腕を伸ばし、若干吹っ飛んだ魔獣の喉元を切り裂いた。
これがボウの能力、加減描法だ。自身の肉体を好きなように変化させられるのだ。何かを切りたかったら手をハサミにして切ったりできる便利な能力だ。今回は腕をのばしてその場から切れるようにした。
「ああもう! 殺すんじゃないよ! 彼らのデータが取れなかったらどうするんだ!」
「馬鹿か。仲間の命の方がデータより優先だろ」
「データだよ!」
「なんでだよ……」
ここまで無情だとは思っていなかった。流石にボウはそんな無情ではないのでレオンの命を優先したが、意見の衝突がよく起きそうで先が思いやられた。
まだ上空を羽ばたいてる鳥獣と左側に居ると言っていた魔獣が残っている。
とにかく、待ちを選択した。何故かって? 普通に、攻める理由がないからだ。
「……」
しばらくして。
「魔力が遠ざかっていったわ。恐らく勝てないと判断したのね」
アルトから戦闘終了の告知がされた。特に怪我もしておらず、いい準備運動となった。
「にしても君、凄く面白い能力を持っているんだね」
クロノがボウに近付いて好奇の目で話しかけてきた。
「ん? あぁ。この体に相応しいだろ?」
「そうだね……君のその体も見たことがないから是非研究対象──」
「よし、登ろうぜ」
「分かったよ」
そう言って、登山を再開した。
エルグレンド峰、険しくはない。ここ麓付近ではかなり緩やかな道が続いている。途中からかなり険しくなっているが。
「っつーか俺たち、飯とかどうすんの? あの肉オルフェウスが持ってっちまったし」
そういえば飯のことを完全に忘れていた。ということで周りに聞いてみた。
「現地調達だよ」
「オーケー。俺は下山させてもらう」
「ダメだよ?」
「なんで得体の知れない魔獣の肉食わなきゃいけねぇんだよ!」
「まぁまぁ落ち着きたまえ。毒性があるかどうかはアルトに見てもらおう」
「便利だなソイツ」
平坦な声でツッコむ。魔術師が人権役職なのは知っていたが、まさかここまでとは。
「まぁ、夜になるまでまだ時間は沢山だ。今のうちに高いところまで登ってしまおう」
「そうだな」
この選択のせいでこの四人は、死ぬほど後悔した。




