2.個性強めなパーティー
冒険者ギルド。思ったより大きいところだ。かなり高い天井に、太い木の柱。周囲では朝から飲んでる大男たちが木製のジョッキを交わしていたり、二つのパーティーの受注したいクエストが被って喧嘩していたり。受付カウンターの方では数名の受付嬢が羽根ペンを走らせたり、書類関係の手続きをしていたり。
意外となんでも揃っているこの空間でボウ達が真っ先に向かったのは他の何でもない、クエストが貼られている掲示板だった。
「うっしゃ! 高額クエスト探すぞ!」
ギルドに着いて最初にすることは高額クエストがないかを確認することだ。基本的にボウ達が安全にクリア出来るクエストは銅貨十枚前後なので、正銀貨一枚いけば高額クエストと呼んでいる。
普段なら一つや二つ高額クエストがある。なぜ高額クエストが真っ先に消化されずに残るのかって? 高額依頼は面倒くさい、ないしは難易度が高いものが多い。それに、普通のクエストで一般的な生活は送れるので受注する必要がないのだ。皆が避ける、そんなクエストを受けざるを得なくなっているのがボウ達だ。
「って……ない……?」
無かった。高額クエストが一つも無かった。
他の依頼はたくさんある。ただ、どれも銅貨九枚や十一枚など、どれもその日凌ぎの金額にすぎない。こんなんじゃ到底あの金額を支払うことはできない。
「え……ないんですか……?」
「あぁ……ひとっつもない」
「嘘だろ……いつもあるのにか!?」
セレシア、レオン共に驚愕の表情を浮かべ、掲示板に顔を寄せる。
「本当だ……綺麗に高額のクエストだけ消えてますね……」
「これじゃまともに払えねえぞ……」
二人は顔を顰める。
「受付嬢にまだ掲示板に貼ってないクエストがないか聞いてみるのはどうだ?」
ボウは掲示板から顔を離す。
「あ、それいいと思います!」
セレシアも同意し、それに伴いレオンも相槌を打った。そして三人はカウンターの方へ向かった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
マニュアル通りの挨拶をする受付嬢、カウンターにレオンが身を乗り出す。
「昨日まで貼ってあった正銀貨一枚以上のクエストは何処にいっちまったんだよ! 流石にまだ期限切れじゃねぇよな!?」
勢いよくいまにでも飛びかかりそうなレオンに動じず、受付嬢は「少々お待ちください」とだけ言って奥に引っ込んでいってしまった。
◇◇◇
「申し訳ありません、恐らくですが昨日今日の間に受注されてしまった可能性が高いです」
しばらくして戻ってきた受付嬢から放たれた一言は、容赦なくボウ達の心を抉った。
「マジか……」
「ただ、一件だけ受注されていないクエストがございます」
「何だって!?」
諦めかけていたその時、唐突に投げかけられた一縷の希望。ボウは目を光らせた。まぁ、目なんて他人視点は見えないらしいが。
「正直に申し上げますと、受注するのをおすすめしません」
「良いからそれを教えてくれ! どんな内容でもやってやる!」
レオンがさらに身を乗り出す。それに見かねたセレシアがレオンを引っ張って元の位置に正す。
「了解しました」
受付嬢は紙を一枚取り出し、それを提示する。その内容に、ボウ達は驚愕した。
「未開拓山であるエルグレンド峰の生態系調査、及び記録。金貨三十枚が報酬となっております」
ボウ達の驚愕は、金額に驚いたのもそうだし、内容についてもだった。
未開拓山、エルグレンド峰。かつて様々な国が部隊を派遣したが全員が消息不明で終わったと噂の山らしい。標高は三千四百メートルと言われている。
「なるほどな……確かに内容と金額は見合っているか」
流石のレオンでも、内容を見てしまえば少し奥手になっていた。
山にいる魔獣やらの生態系を把握し、記録する。それだけで金貨三十枚。内容だけで見ればかなりおいしい話だが、死亡率が尋常じゃない。なんせ未開拓。先人によるエスコートも無ければ未知の毒があるかもしれない。そんなところに三人で突っ込むのはかなりまずい。一応聞いてみよう。
「それ以外って」
「ございません」
「ですよねー」
はっきりいって、これを受注しないと返済は厳しいだろう。銅貨十枚ぽっちのモノをコツコツやっていけるほど甘くは無い。
三人は顔を合わせる。誰も口を開かない。危険なのは分かっているが、それ以外に道がない。
「受注しようか」
「ですね」
「そうだな」
受注することにした。
「受理しました。依頼期間は七日間です。七日経過しても冒険者ギルドに帰って来なかった場合、死亡とみなし、クエストは無効とします」
(なるほどな……期間は七日。その間にエルグレンド峰を制覇する……三人じゃあまりにも厳しいな)
設けられた期間、難易度、人数。全てが厳しい。
「分かった。行こうか」
「ですね」
時間がない。とにかくやる事をやらなければいけない。
ボウ達は軽く挨拶をし、ギルドを出ようとした。
「ちょっと待てぇい!」
ギルド内が静まり返る。
「ん? なんだ?」
ボウ達は足を止め、声をする方に視線を向ける。
「君たちの先程の会話、聞かせてもらった」
どうやらボウ達に言っているようだった。
青と白のキッチリとした革鎧を装備しており、青髪の短髪が特徴的な男だ。
(なんだ……? ライバルか……?)
クエストの取り合いはよくあるので、コイツもその類かと、ボウはため息をついた。
「どうやらエルグレンド峰に行くらしいじゃないか?」
男がそう発した瞬間、ギルド内がざわつき始めた。
「アイツらがエルグレンド……?」「死に急ぎだな」
様々な声がヒソヒソと聞こえる。
「それでなんだよ。クエストは譲らねぇぞ?」
(今回に関しては流石に譲れねぇ……!)
今まで何度か譲ったこともあるが、今回に関しては背水の陣。流石に受け渡すことは不可能。
「いいや。俺はそこまで野蛮ではない」
(じゃあなんだよ)
「その登山、俺も参加させてもらおうか!」
「……は?」
あまりにも意外な回答で、ボウは口が開きっぱになった。
「俺だけだと信用ならないと?」
「いや、そんな────」
「ならばいいだろう! 出てきたまえ!」
そう言って男が合図すると、ついさっきまで誰も居なかった気がする男の背後から四人の人間が出てきた。
「魔術師担当、アルト・ユーリス」
男の右側から出てきたのは紫の三角帽子にローブ。ライトブラウンのロングヘアが特徴の美人さん。セレシアと違ってポーションを多く持っているので少しゴツイ。杖を抱きしめるようなポーズでコチラを見ている。
「無駄にあざとくすんな」
「タンク担当、ケイン・オークルス」
アルトの右から出てきたのは黒っぽい鉄鎧を身にまとい、自分の背丈ほどの盾を持った男。タンクというのだからゴツイのかと思ったらかなりヒョロヒョロだった。
「こんなんで守ってくれるのか?」
「荷物持ち担当」
「急にしょぼくなったな」
「オルフェウス・テューケだ」
リーダー格の男の左側から出てきたのは赤いラフな格好をしたかなりガタイのいい男。確かに筋力はありそうなのでかなり荷物は持ってくれそう。
「学者、クロノ・ヴィンス」
オルフェウスの左から出てきたのは深緑のローブを纏い、腰掛け鞄にインク壺を持っている男だった。
「お、おぉ……」
特にこれといったツッコミどころがなく、面白みのない男だった。
「そして最後、この俺だ!」
ポーズを決めたまま硬直する四人に気にもとめず、リーダー格である男は前に一歩踏み出す。
「俺の名前はラインハルト・フォン・エルクレイストだ!」
リーダーに相応しい声に立ち振る舞い、そして名前だった。
「俺ら五人、名をフォルゲス!」
後ろからそれぞれのカラー煙幕が出てきそうなくらい戦隊モノの挨拶。
「お、おお……まぁ、よろしく」
(変わったやつらだな……)
勢いで返事をしてしまった。
(まぁ、コイツらならなんか信用できるし大丈夫だろうな)
確信は無いが、勘がそう言っていたので信じることにした。
「取り敢えず、俺らはもうギルド出るけど、どうする?」
「俺らも準備が必要だからな。明日またギルドで会おう」
「ああ、分かった」
そう言って解散した。
◇◇◇
「明日が不安だな……」
「ですね……」
「そうだな……」
ギルドを出た三人は、頭を抱えていた。




