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1.衝撃の事実

 目を閉じてからほんの一瞬。気が付けば視界が明るくなっていた。窓から差す陽光が朝になったという証拠だった。

(……もう朝かよ)

 寝てから体感三秒くらいしか経っていないので、彼はすこし苛立っていた。ただまあ、二度寝は宜しくないので彼は体を起こした。体が棒なので、起こすのにそこまで力はいらなかった。彼の名前は(ボウ)。年齢は一応二十歳。性別? 棒人間にそんなのあるのかすら分からない。

 現在、ボウがいる場所はセレンティア王国の王都にある宿。最初、この街に来た時は金もなくて野宿ばっかりしていたのはいい思い出。

 ボウは剣を腰に携え、宿を出る。今日はとある人らと会う約束をしているのだ。

 チェックアウトをして外に出る。かれこれ数ヶ月王都で生活しているので、もう周りから好奇の目で見られることも少なくなった。

(そういえば……昔の俺ってどんな感じだったかな?)

 移動中の暇つぶしがてら、過去の自分を想起する。

(えーっとぉ……? 魔物扱いされて殺されそうになったり……研究のためとか言われて拘束されて挙句の果てに食われそうになって……)

 考えるのをやめた。これ以上は虚しくて仕方がない。

 そんなことより今日だ今日。過ぎた過去より今を大事にするべきだ。

 待ち合わせ場所は王都中央広場の噴水。掲示板やらベンチやらがあるため待ち合わせ場所としては最適だ。

(にしても……本当にザ・異世界みたいなところだな……)

 中世のような雰囲気。魔法、馬車、アニメなどでよく見るあの異世界だ。

 石畳を歩いていると、待ち合わせ場所が見えてきた。昼なのでかなりの人集りだ。会う人は誰かって? そりゃあ決まっているじゃあないか。あの二人だよ。ほら、森で会ったあの二人。

「あ! ボウさーん! こっちですこっち!」

 ボウのことを認識したのか、一人が手を振って存在をアピールしてきた。

 青いローブに青い三角帽子、黒髪ロング。いかにも、魔法使いな見た目の女性だ。この魔法使いの名前は「セレシア・ルベル・アルエルド」長いのでセレシアと呼んでいる。

「もう、遅いですよ!」

「いやぁ悪ぃ悪ぃ。少し目覚めが悪くてよ」

 時計台を見てみれば現在時刻は12:03。集合時間から三分遅れていた。

「あれ? そういやレオンは?」

 セレシアの相方であるチンピラがどこにも見えない。怒るべきは俺ではなくアイツではないのか? ふと、ボウはその考えに至った。

「あぁ……あの人は……」

 セレシアは気まずそうに人差し指を合わせて目を逸らす。

「魔導サイコロに今行っておりまして……」

「あー……成程」

 魔導サイコロとは、いわゆるギャンブルだ。サイコロの目を予想するだけのシンプルなもの。レオン・レインハウザーという名のチンピラは最近魔導サイコロに爆ハマリしているらしい。

「ま、待ちゃ来るだろ」

 ボウはベンチに座り、くつろぎ始める。


 〜数分経過〜


「……」

「……」


 〜十数分経過〜


「……」

「……」

「なあ」

「はい?」

「遅くね? あいつ」

「ですね……」

「どんくらい前に行ったんだ?」

「えっと……一時間程前でしょうか」

 いくらなんでも遅すぎる。何してんだ。

 ボウは呆れたように立ち上がる。

「レオンの所行くか」

「ですね……」

 そしてなんやかんやあって、魔導サイコロ会場へ。


 ◇◇◇


「クッソ! もう一回だもう一回!」

 まだやっていた。金髪を無造作に立たせ、革鎧を着崩した青年。目つきも悪く口も悪い。結構険しい顔をしているので恐らく負けている。

「俺は一点賭けで四に正銀貨二枚賭けるぜ!」

 何となく負けてる理由がわかった。

「そうですか……では私は二点賭けで一と四に……そうですね」

 二点賭けは片方が合っていればお金が倍になるオススメの方法だ。その代わり、あまり倍率は高くない。

 レオンの相手をしているのは堅実な見た目で将来のためにコツコツと貯金をしてそうな女性だった。ギャンブルをしているという所以外は堅実だ。

「金貨三枚といきましょう」

「「おぉっ!?」」

 店全体が湧いた。それもそのはず。金貨、というのは一枚で安い宿であれば何十泊も、まともな飯を何十回も食えるほどの価値がある。名前も見た目も雑だが価値は雑ではない。そんな代物をこの女性は三枚も出したのだ。

「おいおい……いくらなんでもやばくねぇか? 外しちまったら人生一気にドボンだぜ?」

「私の予測は外れないのですよ」

 余裕の笑みを浮かべる彼女。

「い、いざ尋常に!」

 賭博師が二つのサイコロを振る。会場が静まり、全員が息を飲む。結果は──

「っふふ……私の勝ちみたいですね」

「だぁぁっちくしょぉぉぉお!!!」

 一と六だった。

「金貨七枚と銀貨五十枚だ。受け取りな」

「どうも」

 二・五倍になって帰ってきていた。

「おい、レオン」

 この世の終わりみたいな顔をしているレオンに声をかける。

「あ? なんだボウか。来てるんなら言ってくれよ……」

「いや、あんな白熱してたしよ。にしてもお前一点賭けとかアホじゃねぇのか」

「んだとこの野郎!」

 口は悪いが、意外といいやつなので捨てきれない。これがまた面倒くさい。

「ほら行くぞ」

 ボウとセレシアは魔導サイコロの会場から出ようと背を向ける。

「お、おおい待ってくれ」

 それにレオンも着いていく……が。

「お客さん。少し待ってくださいな」

 レオンがかなりガタイの良い店員に止められた。ボウとセレシアも一旦止まり、レオンの方を向く。

「半年前に借りた銀貨四十枚、返ってきてないですよ」

「……は?」

 ボウは開いた口が塞がらなかった。それはセレシアも同じだったみたいだ。

「え、ちょ……レオン?……借金……?」

「利子含めて金貨一枚と銀貨二十枚。払ってもらいますからね」

「は、はぁ!?」

 レオンが目を見開き声を荒らげる。

「半年でそんな行くわけねぇだろ!」

「お客さん」

 店員がレオンを蹴り飛ばす。そのままレオンは壁にぶつかり、空気を吐く。

「借りたんだから返してくださいよ」

 そう言いのこして店員はどこかへ行ってしまった。


 ◇◇◇


「た、助けてくれよぉ……」

 王都中央広場にて、ボウとセレシアはレオンに泣き縋られていた。

「とは言ってもだな……俺らだってそんな大金持ってねぇんだぞ……?」

「そこをなんとか……」

 借金していることを知らなかったボウとセレシアは、とにかく呆れの目を向けるしか無かった。いい歳した大人が昼下がりに棒人間と女子に縋りついている光景。うーん何とも気味が悪い。

「と、とりあえず、クエストを受注するしかありませんよ……コツコツ返済すれば必ずゼロにいつかなりますから」

 そう言ってセレシアはレオンに手を差し伸べる。

「ほら、冒険者ギルド行きましょ?」

(にしても……ほんとセレシアってお人好しだよな)

 つくづく思う。どんな時も結局見捨てられずにいたのだから。

「そうだよ。俺らも協力してやる」

(一つのクエストでだいたい銅貨十枚とかだからかなりきついぞ……?)

 銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨十枚で正銀貨一枚、正銀貨十枚で金貨一枚。そう考えるとかなり先は長い。

「お、お前ら……」

 レオンはセレシアを手を取り、立ち上がった。

「ありがとう……お前ら……」

「うし、三人で地獄見るか〜」

「そうですね……」

 すぐに冒険者ギルドへと歩き出した。なんかいい感じに締めようとしているが、一応かなりマイナスだ。

 とはいえ、言ってしまったことはやらなければならない。レオンの借金完全返済をボウ達は引き受けなければならない。ある意味、これもクエストなのだろう。

「もうこれからは魔導サイコロなんてしないでくださいよ?」

 セレシアがため息をつきながら言う。

「分かった分かった。競獣(きょうじゅう)にしとくからよ」

「返済やめときましょうか」

「そうだな。これからは二人でよろしくセレシ──」

「ちょいちょい待て待て!」

 ガチトーンで返されてしまえば冗談は通じないという事。レオンは素直に謝った。

 そうして三人は、絶えず会話をしながら冒険者ギルドへと足を進めた。

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