プロローグ
一度問いたい。異世界転生と言われたら何を思い浮かべるだろうか?
うんうん、そうだよね。美形、チートスキル、ハーレム。すぐに思い浮かぶだろう。
では、俺の姿を見てもらおう。
黒い線五本で構成された自然で洗練された体。まん丸でツルツルな頭。
そう、まさにそう。俺は棒人間として異世界転生したのだ。
ああ、俺、外れたよ。母さん。
天を仰ぎ出ない涙を流す。人生の負け組だ。こっちでも負けるなんてな。懲り懲りだよ。全く。
こんなふざけた見た目でどうやりくりすればいいのか。検討もつかない。
「う、うだぁぁぁああぁああぁぁぁぁあ!!」
もう何もかもどうでも良くなった。どこから声を出してるのかすら分からなかった。ただ、いま出せる分の声を全部出した。
◇◇◇
叫び疲れた。動きたくなくなった。俺は馬鹿だ。
その時、遠くからずさずさと足音がし始めた。
「ぇ……だっ……て!」
何言ってんのかさっぱりだ。もっとでかい声で喋って欲しいものだ。
「だーかーら! こっちから音なんてしてねぇよ! こんな変な場所に人がいるわけねぇだろ!?」
どうやら人の足音だったみたいだ。
「い、いや! います! 絶対います! 私、嘘はつきませんから!」
「あぁそうか! じゃあほんとにいたら銀貨十枚渡してやるわ!」
どうやらイチャイチャしているみたいだ。
「どうせ魔獣かなんかだろ? 帰ろうぜ?」
「い、いや。もし人だったらどうするんです! 私らただでさえパーティーメンバー足りないんですから……」
どうやらメンバーが足りていないみたいだ。
「お前は人に飢えすぎなんだよ。こんな森の中に人がいるわけねぇっての」
実はいます。いるんです。
二人が言い合ってるのを聞いてると、知らぬ間にその声は間近まで近付いていた。
そして、目が合った──
男、いかにもチンピラ。女、胸デカい! 魔法使い! 顔かわいい!
俺は、この二人に着いていくことを決意した。
◇◇◇
「なぁ」
「はい?」
「俺さ、お前らに敵意はないしついて行くって言ったよな?」
「はい」
「なんで俺は縄でぐるぐる巻きにされてんの?」
現在、俺は縄でぐっるぐるに縛られ、身動きひとつ取れない状態だ。敵意はないことは伝えたし、もちろんパーティーメンバーになることも言ったはずなのだが、どうやら伝わらなかったのか。
「だ、だって怖いじゃないですか! 変な棒が喋り出すなんて!」
怖がりなだけだった。そしてしばらく俺は放置された。
「この人どうします……?」
「どうするもこうするも、持ち帰るしかないだろ」
「俺ってもしかして荷物?」
「まぁそんなところだろ」
「ひでぇ」
チンピラが肩をすくめる。
「お前、名前は?」
「あー……あるけど言いたくねぇ」
「それじゃあ棒で」
「いくらなんでも舐めてるだろ」
「お前が言わないのが悪いんだろ」
「はいはい……もう棒でいいですよ」
女が小さく手を合わせる。
「ご、ごめんなさい……でも、街に行けばパーティー登録が出来ますから、そこで色々ステータスもわかるかと……」
なんか嫌な予感がしたが、まぁ、いいだろう。そして、俺の運搬は勝手に始まった。
縄のまま、引きずられる形で移動。
「いっででででで!?」
もちろん、痛くないはずがなく。
「我慢してくれ」
「ざけんな! 殺す気か!」
それ以降、返事はなかった。
森を進む度、空気が変わっていく。先程の静けさは薄れていき、人工的な気配が漂ってくる。
「ここを抜けりゃ街だ」
「結構近いな」
「見えるだけだけどな」
「……」
そして、崖に着いた。
「ほら、見ろ。あれが今から行く場所だ」
「おお……」
アニメやゲームでしか見ない光景だった。石や木で作られた外壁、そして門。小さく虫のように動いているのは門番だろうか。
雲ひとつない青空が、この街をよりよく見せている。
街、というよりかは国の方が正しそうなくらいでかいところだった。
近付けば近付くほど、見たこともない紋章が見えるようになったり、金属がぶつかり合う音がしたり。
それは、中途半端だった俺の心の葛藤を洗い流し、切り替えろと言っているようだった。
俺の異世界生活は、本気で始まったみたいだった──




