決着
木剣に炎を纏わせたはいいが、剣術で応戦するわけにはいかないだろう。
といってもこのまま回避し続けるわけにもいかない。あまりに余裕な様子でいればフロストがおかしさに気づいてしまう。
俺はジークたちに戦闘能力ではなく戦術で勝たなければいけない。力はあくまで最低限にし、全力で挑んでいるのを演じなければならない。
「おらぁっ‼」
すれすれでハルトの攻撃を避け、ニヤリと口角をあげた。攻撃をせずとも勝つ方法を思いついたのだ。
こいつらはあくまで剣術が優れているだけ。所詮スキルに依存している戦士の一人だ。ならば剣がなければジークたちが打つ手立てはなくなる。
俺が見せた魔法は炎属性だ。扱いやすいから顕現させただけなのだが丁度いい。木剣を使い物にならなくさせるのに違和感は抱かれないはずだ。
「グッ……‼なんで僕の剣が届かない!こんなのおかしいだろ‼」
「俺に言われても、避けるだけだったら意外と簡単なんですよ。馬鹿正直に防ごうとする兄上たちには分からないかもしれないですけど」
「ッ⁉庶子のくせに……‼」
ジークはハルトに比べて煽りに耐性がある。だがプライドはハルトよりも数段高いのでそこを突けば冷静さなど簡単に奪うことが出来る。
ハルトに関しても同じことだ。プライドを折るような真似をしてしまえば冷静さを奪う事が可能であり直線的な動きを誘発できる。
そこまでくれば剣の軌道を読めたとしてもおかしなことはない。少なくとも実力を疑われることはないだろう。
「捕まえた」
ニヤリと微笑んでジークとハルトの木剣を受け止めると、木剣にゼロ距離で炎が襲い掛かる。
「グッ……!離せッ……‼」
「この野郎……」
ぐぐぐっと力が込められていくのが分かる。しかし剣術を磨き技だけの二人にはこの拘束を解くことは出来ない。鍛えていようが無駄な話だが。
しかし無傷という訳にはいかないのでたとえ木剣であろうとも血をにじませておいた方が本当っぽくなるだろう。
身体強化の魔法を解くと先ほどよりもかなり圧力がかかる。二人の必死さに思わず後ずさりそうになってしまったが、俺の炎が木剣を焼き切る方が早かったらしい。
「なッ……⁉」
「そんなっ……どうして」
己の武器を失った二人はその場に立ち尽くしもはや戦う意思はなかった。
棄権まではしなかったが、決着がついたのは誰の目から見ても明らかだった。
しかしそのまま決着にしてしまえばこの後暴動を起こすのは分かり切っていたので木剣を振るって二人とも気絶させた。戦意喪失した相手を気絶させるのに実力は不要だからな。
勝負はついたと言わんばかりに審判に目配せすると、審判は勢いよく手をあげて宣言する。
「ジーク・グレンハルト様並びにハルト・グレンハルト様の戦闘不能により、この勝負……アレク・グレンハルト様の勝利‼」
審判の宣言を聞き届けた俺は木剣を放ってフロストに一礼して部屋に戻っていった。道中でわなわなと顔を青くして震えているカティアを見た時は少し気分が高揚してしまった。ここまで馬鹿にしていた庶子が自慢の息子を破ったともなれば冷静にいられないのも分かるが。
ともあれ、これでこの家に残る選択肢を得た。それに学園にも通えるという事で目的を達成するための行動がしやすくなる。
「流石です!アレク様!」
部屋に戻ってくると、セレナが興奮した様子で待っていた。俺が決闘すると聞いて心配そうにしていた使用人はどこへやら、キラキラした視線を俺に送ってきている。
「せ、セレナ……落ち着いて。だから言ってたでしょ?俺は大丈夫だって」
「そ、そうは言いますが……ジーク様もハルト様も剣術の腕は確かです。ジーク様に至っては学園でもトップクラスの剣術の成績をおさめているんですから心配するのも当然です」
はへぇ、ジークってそんなに強い判定受けていたのか。学園の成績優秀者ともなればそれなりの実力が必要だと思うが、手合わせをしてみてジークの強さはそこまで感じなかった。冒険者で言うCランクレベルか。
そこまでレベルが落ちてしまっているのか、それともジークが周囲を買収して成績優秀にさせているか。幼いころに会ったBランク冒険者のドリントさんよりも数段階劣っている。
まだ今代の騎士団を見ていないので何とも言えないが、Bランク冒険者レベルの実力者が騎士団に集まっていると考えれば少し腑に落ちるところもあるが。
「見ての通り、俺にはなんの問題はないさ。さて、俺は一度父上と話してこようかな」
「では私も……!」
「いや、セレナはここで待っててよ。すぐ終わる話だしさ」
二ッと笑って俺はセレナを置いてフロストの所に向かった。ジークやハルトを倒したことにより使用人からの視線が怖かったが普段と変わらぬ様子だったので安心することが出来た。
「父上、お話したいことが」
フロストの書斎へとおもむき、今後の事を相談する。学園に通う事を許可されたことで入学までの期間は作戦を考えることが可能になった。
入学費用も気にする必要はないので、自由に使える金が増えるのも良いポイントだ。もっとも、俺の所有している総資産から見れば学費などちっぽけなものだが。
今回フロストに提案するのはもっと別のものだ。学園にセレナを生徒としての形ではなく連れていくと言ったことに関連される。
「アレクか。先の戦いは素晴らしかった、よくぞ二人に勝利したものだ。勝ち方はあまりスマートではなかったがな」
「ありがとうございます。兄上たちに正面から挑んでも勝てないことは分かっていましたので、剣術を扱えなくさせる手を選びました」
「そうやって先頭に頭脳を使うのは良いことだ。対して二人はてんで駄目だな……いくら学園で優秀な成績をおさめようが、実際の戦闘で相手のペースに飲まれ直線的になればすぐに命を落とす。せめて私の顔に泥を塗らないように願うばかりだ」
俺はフロストが二人の事をかなり気に入っていたと思っていたので、この感想は正直意外だった。いや、気に入っていたが先ほどの決闘を見て冷めてしまったと考えるのが妥当か。
「それでアレクよ。私に話とは何だ?」
「……俺はあと3年すれば王都の学園に通うことになります。通常学生寮を利用するのが基本ですが、入学するまでの3年間、王都で融通を利かせたいので家を買わせていただけないでしょうか?もちろんお金は俺が払います。そしてこの家の使用人を雇わせてもらいたいのです。愛着も湧いている事ですしね。引き抜いた分は俺が新たに雇います。どうでしょうか?」
「……好きにしろ」
思った通り、フロストは俺の動向に興味はない。決闘で圧倒的な実力を見せていては今回の交渉はまた形が違っていたはずだ。
実力主義のフロストにとって、感情とは邪魔なものだ。ならばここの使用人に愛着が湧くはずがないし、逆に愛着を湧かせている俺の事を憐れんでいるかもしれない。それならそれでいい。
転生してから人との直接的な関りは避けていたが、ここで過ごしていて使用人に愛着が湧いてしまったのは事実だ。だから一刻も早くこんな屋敷から出してやりたかったのだ。もっとも、望む者だけだが。
使用人たちに話したところ、8割がたの使用人が俺が買う新たな屋敷に勤めることになった。……そこまで大きいところじゃないんだけど。




