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悪役貴族の息子は世界平和を望む

 今世の目的をアテナに伝えたのだが、アテナは頭を押さえてため息をついている。そんなに変なことを言ったつもりはないのだが。


「あんたねぇ……この世界を何年も見てる私だから言えることだけど、世界平和なんて絶対に無理。今だって戦争は絶えず続いていて尊き命が奪われているんだから」


「そんなの、俺だって分かってるよ。俺だってだてに数千年の時を歩んでないんだから」


 特に剣聖(けんせい)の時代なんて大変だったものだ。戦争に駆り出されるし、勝手に英雄(えいゆう)扱いされて爵位貰う羽目になるし。

 子孫を残せ残せうるさかったが、転生先で自分の子供と関わりたくなかったので丁重にお断りさせてもらった。

 とにかく子孫を残せと言うのは血筋狙いだ。強者の血を引く者の子は強者……戦争に繰り出させるために子供を産めと言うのだ。

 確かにこんな世の中では世界平和なんて謳うだけ無駄なのだろう。周りから見れば無謀に映る事間違いなし。


「ただ、貴族だからこその目的とも言えるだろ?」


「……グレンハルト公爵家(こうしゃくけ)でなければマシだったんだけどね。平和とは程遠い家系の子供が世界平和を掲げるなんておかしな話よ」


「だからこそ、熱くなれるってもんだろ?」


 ニコッと微笑みかけると、アテナは困ったように前髪をちょいちょい弄る。

 アテナは俺とは比べ物にならないほどこの世界を見て来た。そんな彼女だからこそ、世界平和の無謀さを理解しているのだろう。


「スキルで差別するくらいなんだから、平和な世界なんて難しいわよ。みんながみんな幸せなんて……あり得ないだろうし」


「確かにな……ちなみに、アテナは幸せとか感じるの?あなた今は幸せですか?」


「そんな宗教みたいなこと言われても……」


 宗教の親玉に言われてしまった。


「私は女神なんだから、余計な感情は存在しないの。ただ世界を見守るだけなんだし、世界が平和なら幸せかもね」


「だったら、世界平和をなんとしてでも達成させないとな。俺はお前にも幸せになって欲しいんだ」


「~~ッ⁉」


 プイっと勢いよく顔を背けるアテナを疑問に思いながら、俺はなんのスキルを授かるべきか悩んでいた。

 正直力で支配をしてしまえば一番簡単なのだが、世界平和をうたうものとして流石に看過できない。

 そもそもの戦闘能力を加味するに、ここで戦闘系のスキルを授かるメリットは少ない。

 となると生産系のスキルだろうか。だが世界平和につながるスキルになるかと問われるとNOと答える。


「となると……話術系のスキルが良いのかね」


「話術、って。あんた祝福がなんでもあるとか思ってない?」


「いやいや、実際ありそうなものだから」


 俺が商人だった時代、やけに口が上手かった相手がいた。

 俺も行商を続けていくうちに口が上手くなったのでそこには間違いなく熟練度が存在している。

 ともなればそれに近しいスキルを授かることが出来ると考えているのだが。


「……まぁ確かにあるけど、それで良いの?せっかくのグレンハルト家を勘当されちゃわない?」


「そこはほら、交渉だよ。スキルで得られるんなら可能だしさ」


 商人の時代に交渉術の熟練度(じゅくれんど)は13くらいにはなっているはずだ。アテナからスキルを授かることが出来れば熟練度は17くらいになりほとんどの相手を納得させられるはずだ。

 そこは俺の数世代生きた果ての話術の出番である。といってもあまり人と関わるようにはしていなかったのだが。


「それじゃ、【交渉術】で良いの?それでいいならちゃっちゃと授けちゃいましょう」


「あぁ、頼む」


 アテナは祈り、俺は目を瞑って力を抜いた。まるですべてを受け入れるかのように立ち尽くしている俺を風が包む。


「——それじゃ、頑張ってね。たまに会いに来てくれると嬉しいわ」

 そんな彼女の言葉を背に、俺は天界から下界へと戻るのだった……。


 ※


「彼が授かった祝福は……【交渉術】です」


 言いづらそうに、神官はフロストに教えた。おそらくは戦闘能力がない俺の事を憂いているのだろう。

 案の定フロストは既に俺に見切りをつけているのか見下すこともしていない。まだジークやハルト、カティナたちのように見下してくれた方が楽だったりする。

 フロストが俺を勘当するつもりならそろそろ言い出すと思うのだが、どうやって言いくるめるか。

 今後の事を考えていると、ハルトがずいっと前に出てきて口を開いた。


「おい!グレンハルト公爵家にお前のような弱い者はいらない!お父様、こいつを追放しましょう‼」


「それは良いわね!あなた、すぐにでもあの醜い子供を追放しましょう」


「……ですね。強き者は弱きものに従う、それが世界のルールですから」


 フロストを除く三人は俺の追放を推進している。だが決めるのは当主であるフロストだ。

 ならば俺が交渉すべきはフロストだ。フロストが追放しないというのならジークたちは従うしかない。


「との事だが、アレクよ。何か言いたいことはあるか?」


「そうですね。強さとは、なにも武力だけでないと考えます。グレンハルト公爵家は完全な実力主義、他の貴族からすれば完全に味方することは難しいうえ良く思っていない派閥がいる事も事実です。そこで必要なのは最低限の武力と、話術です。ですが話し合いで優位に立つには頭脳が必要になるのは必須」


 フロストは完全な実力至上主義者。そこを真っ向から否定してしまえば好感触は得られない。

 だから実力主義を肯定しつつ、現在抱えている問題にアピールするのだ。


「幸い、俺の学力はそこの兄様方を凌いでいます。そして今授かったスキルを用いれば、公爵家は更に大きくなれるかと」


「ふむ……一理あるな」


 フロストが納得するように言葉を呟くが、ジークたちは思う事があったらしく反論の声をあげる。


「ぼ、僕たちがお前より学力が低いだと⁉」


「あまり舐めたこと言ってるとまたいじめるぞ‼」


 俺が考えるべきはジークたちの説得ではない、フロストの説得だ。

 そうなるとジークたちの反論に興じる必要はない。完全無視の一択だ。


「お、おい!なに無視してるんだよ!」


 短気なハルトは俺の態度が癪にさわったらしいが、フロストが圧をかけるように睨むとすぐに黙り込んだ。


「ハルト、必要なのは最低限の武術と話術と言ったな。確かに話術……そして学力は秀でていると認めよう。この私を言い負かそうとしているのだからな。だが貴様に最低限の武力は見についているのか?」


「はい……もちろん」


 自信満々に答える俺に、ジークとハルトは強く反応した。


「お、お前如きが調子に乗るな!」


「剣術の稽古もしたことがない癖に、適当なこと言ってんじゃねぇぞ!どうせ追放されたくなくて適当こいてるだけだろ!」


「そうだ、ここで何を言っても意味はない。だから、証明してみせろ。ジークもしくはハルトと戦って勝利できれば我がグレンハルト公爵家の一員として改めて迎えよう」


 フロストが条件を提示して、俺はニヤリと笑った。

 今更ジークやハルト相手に後れを取ることはない。そんなことで良いのなら俺がグレンハルト公爵家に戻れることは確定したも同然だ。


「ハッ!僕がお前に現実を教えてやるよ、アレク!」


「いや兄上、ここは俺にやらせてください!」


「別に俺は……二人が相手でも構いませんよ」


 俺の発言に、フロストは「ほぅ」と反応を見せる。俺の自信がどこから来るのか気になっている様子だ。

 気を付けなければいけないのは、実力を見せすぎる所だな……。変に疑われたりするのはできれば避けたい。

 接戦の末に勝利、これが一番無難な選択肢だろう。

 そんなこんなで、俺はジークとハルト。そのどちらとも決闘をすることになった。

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