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女神の祝福

 気づけば四年が経っており、俺は女神の祝福(しゅくふく)を受ける時期になっていた。

 ジークもハルトも剣術(けんじゅつ)スキルを(さず)かっている。フロストも剣術スキルの上位を祝福で授かっているので血筋で似通ったものになるのだろう。

 ということは俺も剣術スキルを授かることになりそうだが、俺は転生したため剣術スキルを授かることはない。

 今回はどんな祝福を受けようか考えながら、俺は教会の女神像の前に跪いた。

 教会の門ではグレンハルト家の全員がこちらに視線を向けている。ジークもハルトも三男のスキルが強力なことを恐れているようだ。

 フロストは完全な実力主義者なので、剣術の稽古(けいこ)をさぼって魔法の鍛錬もさぼっていた俺がジークやハルトよりも強力な剣術スキルを授かることができれば家での俺の地位は上がる。

 そんなもの欠片も興味がないんだけど……まぁ人の心を読めるわけじゃないし俺が何を考えているかなど分かるわけもない。

 俺の専属メイドであるセレナは教会の入り口付近で待機しており、さきほど激励(げきれい)の言葉を(たまわ)ったが彼女としても不安なのだろう。

 もしここで俺が外れスキルと呼ばれているものを授かった場合、ただでさえなかった家の居場所が完全に断たれる。というかもしかしたら生まれてこなかったことになるかもしれない。

 貴族の家ってやっぱり怖いなぁ……とか思っていると周囲が(あわ)く光り俺の視界は真っ白に埋め尽くされる。

 俺はもう11回目の人生なので、この感覚を知っている。といっても、この感覚を覚えるようになったのは3回目の人生からだ。

 これは女神の祝福を授かるときのものではない。おそらく世界で俺しか覚えることのない感覚で、これは招待された時の感覚だ。


「――久しぶりだな、アテナ」


 目の前にいる天使の羽をはやした白髪の少女。教会の経典に描かれているよりもずっと幼く可愛らしいものだが、実は女神アテナなのである。


「その馴れ馴れしい感じ、その魂。その不細工(ぶさいく)な顔……やっぱりあんただったのね」


「顔は関係ないじゃん」


 そんなこと言われたら泣くぞ俺。イケメンだとは思ってないけどさ……俺のファンとか結構いたんだぞ。かっこいいって黄色い声援もらったことたくさんあるんだからな!


「……で?また性懲(しょうこ)りもなく転生して、どれだけ私に迷惑かけるつもり?」


「はは、メンゴ」


「あんたねぇ……‼」


 あくまで軽く冗談めいた謝罪を口にすると、アテナは拳を握りしめながら悔しそうにしている。


「最初はただ魔法の才をあげただけだったのに……。気づけば転生魔法とかいうほぼ禁忌(きんき)の魔法作っちゃうし。その後も剣聖(けんせい)とか言われて、もう終わりかなって思っても何度も何度もあんたは転生を繰り返して……!」


「だからごめんって。でも作れちゃったもんは作れちゃったしさ、使わなきゃ損だろ?」


「使いすぎって言ってるのよ」


「てへっ」


 俺の様子を見て反省していないのを悟ったのか、アテナは呆れたようにため息をついた。


「それで?今世は何をするつもりなの?魔法、剣術、商人、料理、研究者。もうほとんど全部で大成してるでしょ」


 アテナの言う通り、俺はもうほとんど全ての分野で結果を残している。もう一度極めるのも手ではあるが、同じような賞賛(しょうさん)を受け取っても満足度が違う。

 俺の根底にあるのは俺という存在が世界にどのような影響をもたらしたのか、俺が死んだときの周りの反応を知ることだ。

 過去と似たようなことをしても似たような反応になってしまうことは容易に想像できる。

 そんな思いで過去とは違うことを今まで色々とやってきたのだが、とうとうネタが尽きた。これ以上何をするか思いつけないのだ。


「というか、あなた……今回は貴族に転生したのね。あんなに貴族は嫌だって嫌ってたのに、転生魔法に失敗でもした?」


「……うるさいぞ、俺だって失敗はする」


 実は転生するとき貴族にはならないよう設定したはずなのだが、どうやら貴族と貴族の子になるのだけ避けており平民との子に転生する可能性は消せていなかったようだ。


「ふふっ、剣聖時代は爵位(しゃくい)をもらってたはずなのにどうして貴族が嫌なのかしら?」


「その時貴族社会のあれこれで面倒だったから貴族は嫌いなんだよ。爵位も返上したし」


 貴族を相手にするとき、格式だのを意識するのも面倒だったがもっと面倒だったのは剣聖という称号を得た俺をなんとか家に取り組もうとしてくることだった。

 自分の利益しか考えていない者しかおらず、俺は貴族というものに辟易(へきえき)してしまった。

 商人の時代も貴族を相手にするのは億劫だったしなぁ……俺にはどうも肌に合わないらしい。

 そんな俺が貴族の中でも評判の悪い貴族の息子に生まれてしまったのは本当に笑い話だ。


「あらあら、貴族だけでなく平民相手でも人付き合いを避けていたのに何をいまさら」


「そりゃ転生するってのに仲のいい奴ら作ってたら転生後悲しくなるだろうが。……というかそんな俺のこと見てたのかよ」


「なっ……⁉勘違いしないでよね!やることがなくて暇だから世界全体を監視してるの‼」


「はいはい、分かってるよ。いくら神界(しんかい)に自由に出入りできるからって、あの女神様が特別視するわけないですからね」


 女神アテナが住んでいる神界。気づけば俺はここに自由に来れるようになっていた。転生特典ってやつなのかもしれない。

 実は転生直後も俺はここに来ることができたのだが、俺は女神の祝福の時期までここには来ないことを決めていたのだ。

 アテナにとって人間の時間は一瞬なのでたかが数年くらい関係ないだろう。……本人はいっつも暇を嘆いてるけど。


「……で?今世はどんなスキルが欲しいのよ」


 俺は3回目の人生からアテナと相談しながら授かるスキルを決めていた。最初のほうは身を任せていたのだが意見するようになってから仲もよくなったと思う。

 女神と仲がいいだなんてどうなんだと思ってしまうかもしれないが、こんな空間にずっと一人はかわいそうじゃないか。


「やることがもうあんまないんだよな。有名になる職は大体やりつくした感じがするし」


「動機が不純なのはこの際気にしないでおくけど……せっかく貴族に転生したんだし、貴族だからこその行動でもすれば?」


「貴族ならではって……。うちの貴族に(なら)ってたらみんなが困っちまうよ」


 グレンハルト家の意思を俺が継いでしまった場合、完全な実力主義が完成されてしまう。

 貴族とはもともと成功者なので、その血筋は優秀な者が多い。平民でも才あるものはいるが、今の貴族社会では実力を磨く機会なんて用意されていないはずだ。


「貴族でもよりによってグレンハルトだもんなぁ……先代とも意見合わなかったし」


 俺がまだ剣聖の時。グレンハルト初代当主たちをよく率いていたものだ。武勲(ぶくん)を立てて貴族となたグレンハルト家だが、その武勲の要因に俺がいたりする。

 簡単に言えば俺が譲ってやったのだ。もともとそりが合わなかったので、武勲を立ててやることで反旗(はんき)(ひるがえ)させずに調整していた。


「ちょ、あんたグレンハルト家に転生したの⁉転生に失敗して貴族になっただけじゃなく、悪役貴族として有名なあの⁉」


 アテナは俺の状況にツボったのか、腹を抱えて笑っていた。

 女神の祝福を授ける立場として、アテナはこの世界の状況を深く理解している。だてに女神とは呼ばれてないんだなと感心したこともある。

 当時の俺とグレンハルトの不仲を知っていたアテナとしては、これほど面白い状況はないらしい。もちろん今もグレンハルトは嫌いである。


「じゃあやっぱりグレンハルト家でずっと継承(けいしょう)してる剣術スキルにしとく?」


「冗談じゃない。そんなの貰ってもなんにもならん」


 女神の祝福……またの名をスキル。授かることで様々な技能の熟練度(じゅくれんど)をあげることが出来る。

 熟練度は全部で20段階。スキルを授かることで何もせずとも熟練度を数段階上げることが出来る。

 例えば剣豪スキルでは剣術の熟練度を10にすることができる。既に熟練度がある場合はそれ以上になる可能性がある。

 俺の場合は既に熟練度は20なので剣術スキルを授かった所で変わることはない。というか色々なスキルで俺は熟練度20を達成しているのでどんなスキルを授かろうと出来ることはあまり変わらなかったりする。


「貴族だからこその道……かぁ」


 グレンハルト領の人たちを見て、幸せな道を歩めているかと問われれば迷わず首を横に振る。

 グレンハルトの使用人ですら満足いく生活を送れていないのだ。あまり人間関係を築くつもりはない俺だが、セレナたちには幸せに暮らして欲しいと思ってしまう。


「……よし、決めた!」


「はいはい、んで?今世はなにやらかすつもりなの?」


「やらかす前提で話さないでくれよ……。まぁあれだ、幾度も挑んできたものがいたが為せなかったもの」

 俺はニヤリと笑って堂々と宣言した。


「世界平和、だ」

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