チンピラ退治なんてお安い御用
セレナを連れてギルドにやってきた僕は貼られているクエストを確認する。
クエストの種類は様々で、薬草の採取や商人の護衛、魔物の討伐などがある。
ギルドの冒険者にはランクがありそのランクに応じて受けられるクエストが限られてくる。
「……前世でDランクだったコボルトがCランクか。剣聖時代はもっと狩られていたんだけどな」
「アレク様、何か言いましたか?」
「いや、なんでもないよ。やりたいことは済ませたから帰ろうか」
前前世と前世の2世で魔物の研究をしていた僕としては今のギルドのレベルが心配してしまうが、強い奴は強いので大丈夫だろう。
それより、先ほどからセレナに注がれる視線の数々がうざったい。いくら可愛いからと言ってそこまで見るのは失礼ではないのか。
流石にグレンハルト公爵家に突っかかってくるものはいないようだが。
「あの、アレク様……一体何故ギルドに顔を出したのでしょうか」
「ちょっと魔物のレベルが気になったんだよ」
「だ、駄目ですからねっ!?アレク様といえど魔物は危険なんですから……」
「分かってる分かってる」
適当に言って、僕はセレナを連れてギルドを去っていった。
帰るための馬車に乗るために歩いていると、人気がなくなり気配を察知する。
「おい餓鬼。女置いてけよ」
「今なら怪我させねぇでおいてやる。俺らは女神様からとんでもねえ祝福を受けてるんだ。はやく女置いていけや小僧」
「確かにセレナは可愛いしその気になるのも分かるけど、こんな事したら父上が黙ってないよ」
セレナがポッと頬を赤らめると同時に絡んできた男たちはニヤリと口角をあげた。
「それも、お前が口を割らなければ問題はない。それにお前は平民の血を継いだ非純血」
「グレンハルト公爵家でも厄介者扱いってのは有名な話だぜ?そんな奴の話をわざわざ聞くか?あのグレンハルト様が」
「……まぁ、無理だろうね」
たとえ僕が怪我をしていようが、フロストは実力主義者。弱い人間が悪いと言われるのがオチだ。
それは僕だけじゃなく、ジークやハルト相手でも変わらない。あの人に情などはないからだ。
「あ、アレク様……私の事はいいので、馬車の方に」
「へっ、話の分かる嬢ちゃんじゃねぇか。そういうこったお坊ちゃん、恨むんなら護衛を付けなかった自分を恨むんだな」
あまり僕が魔法を使えることを周知させたくはないのだが……仕方がない。セレナを守るためなのだから。
女神の祝福の際にやりたいことを決めるつもりなのだが、それまで実力は公にしないと決めている。
「セレナ、これから僕がやる事は家には黙っててくれないか?言ったとしても信じてくれるとは思えないけど」
「ふふっ、そうですね。ですが、私たち使用人は信じていますよ」
「……それについてはちょっと協議の余地があるけどね」
「そういう言葉遣いからですよ、アレク様」
にこりと微笑んで僕に指摘するセレナに思わず言葉を言い淀んで、突っかかってきた男を睨みつける。
2人とも無視されてイラついているのか、既に剣を抜いてこちらに歩み寄ってきていた。
「アレク様!気をるけて下さいっ!!この男たちはギルドでも指名手配されていたCランク冒険者です!」
「今更謝っても遅いんだよ!!後悔しながら女を奪われるんだな!」
「……来い、【魔法剣】」
魔力が掌に集まってきて、どんどん形どっていく。それは剣の形になり、迫ってきた剣をはじき返す。
男たちが動揺している間に足払いをかけて魔法で作り出した剣で男たちが手にしている剣を叩き上げた。
「……がっ!?!?」
ひょいっと剣を振って、打ち上げられた剣を二本とも砂にしてやった。
男たちもセレナも、目を見開いてその光景を目に焼き付けている。まだ女神の祝福を受けていない小僧が出来る芸当ではないからだ。
「さて……まだやる?」
「す、すいませんでした~~!!」
すぐさま僕たちの視界から去っていった男たちをセレナと見送って、魔法剣を解除した。
さて、セレナに実力を知られてしまったわけだが、どう言い訳しようものか。
「……では、用意してある馬車の方に行きましょうか」
「あれ、事情とか聞かないの?」
てっきり事情を根掘り葉掘り聞かれると思ったのだが。
「私はアレク様をお慕いしております。ただそれだけで構いません」
「……そうなんだ」
てっきり聞かれるものかと思っていたのだが、セレナからの信頼度はいつしか高くなっていたらしい。
僕とセレナにそこまでのものはなかったのだが、何が影響でそうなったのだろうか。
馬車に揺られながら、僕はセレナの瞳をじっと見つめる。
「な、なんでしょうか……そんなじっと見つめられると照れてしまいます……!」
「あぁいや、そういえばセレナのスキルって何だったのかなって」
ずっとお世話係として彼女と過ごしてきたが、僕が産まれた時彼女は10歳。ちょうど女神の祝福の時だ。
あの頃から思考回路がしっかりしていた僕は当時の彼女が今のようにしっかりしていなかったことを覚えている。
セレナは少しばつが悪そうに窓の外をじっと眺めた。言いにくいことでもあるのだろうか。
「私がもらったスキルは……【奉仕】ですよ。世間では性奴隷とか言われてますけどね」
「へぇ、だからセレナは家事が得意なんだね。紅茶だっていつも美味しいし」
「え……っと、アレク様は、引いたりしないんですか?こんなスキルで」
「何を言うかと思えば。僕はセレナのそのスキルに助けられてる。なんで引かないといけないんだ」
それに女神の祝福などという言葉になってるのにだって僕は納得しているのだ。
ここでそれを馬鹿にするのは女神に喧嘩を売るのと同義である。僕ですら女神には絶対と言っていい程勝てない。
「それに、僕はまだ祝福を受けていない身だしね。何かを言う資格はないと思うよ」
「あ、アレク様は……このスキルをどう思うんですか?」
「まぁ、良いお嫁さんになりそうだなって」
「なっ……!それって……!!」
恥じらいからか頬を思わず押さえるセレナだったが、一体どんな想像をしているのやら。
それより、まだ女神の祝福の内容で差別が生まれているのか。前世の研究でかなりマシになったと思っていたのだが。
「女神の祝福って言葉も……考えた方が良いのかなぁ」
「……アレク様、そのようなことは言ってはいけませんよ。女神様に怒られてしまいます」
「……そうだね。アテナ様は小言がうるさそうだしね」
女神アテナに祝福を受ける立場だが、信仰心がそこまであるわけでもない。
そりゃちょっとは信仰しているが、教会のように何をするにも女神の言葉を待つことはできない。
「ま、女神の祝福まで僕は大人しく過ごしてるつもりだからさ」
「本日の様子を見ている限り、大人しく行くとは思えないのですが……」
「大丈夫だよ。王都に行く頻度は減らすつもりだし」
今後の事を何も決めていない今下手に目立つことは避けたい。今日の指名手配の男たちのような想像外の出来事も起こるわけだし。
幸いにもジークもハルトも学園に通っているので日中に変に関わってくることもなくなる。
学園寮で過ごしてくれれば平和的解決だったのだが、あの母親が許すわけもない。
ジークやハルトがいないのに僕がいるのが頭に来るのだろう。そんなに気に入らないのなら追い出せばいいのに。
「父上も父上で……あんな実力主義はやめてほしいな」
きっと僕の実力を少しでも勘づかれると跡継ぎがジークではなく僕になってしまう。
グレンハルト公爵家の当主になると今までの印象からも出来ることは限られてきてしまう。どうしても僕はあの家を騙しぬかないといけないのだ。
「…………」
僕の呟きを聞いていたセレナはジト目で僕の事を凝視してきたので、にこりと微笑んでおいた。
「アレク様、ずるいです。そんな可愛らしいお顔をされたら何も言えなくなるじゃないですか」
「いや、その理論は良く分からないけどね」
僕みたいな男の笑顔よりもセレナのような美人の笑顔の方が破壊力はあるものだ。
これは僕が女性の時もそうだったので性別の差ということでもないのだろう。
「よし、帰ったらアレク様のお背中を流させていただきますっ!」
「張り切ってるところ悪いけど、使用人は浴場に入れないからね」
「そうでした……アレク様にお体を綺麗にされていると毎日浴場に入っている気分になるんですよね」
使用人が風呂に入れないのはしょうがないとして、女性が肌に気を遣うのは当然なので毎日魔法で綺麗にしてあげているのだ。
正直僕もそれで良いのだが、フロストたちに怪しまれないためだ。
僕が風呂に入るのにナティアは良く思っていないらしいが、フロストの血を引いているのは事実なので表立って反対できていない。
最低あと4年はこの家に住まないといけないと思うと気が重くなってくるな……。




