神の復活
騎士たちは消えたアリアを認識することなく魔物を狩り続けていた。アレクの料理に目が眩んで守るべき存在の認識を甘くしてしまったのだろう。
魔物を多少の怪我を負いながらもなんとかで狩り終えると、ガハハと笑いながら口を開く。
「アレク様!次はこいつで飯にしましょう!……ん?」
しかし、騎士団員たちが向けた視線の先にアレクはいなかった。mちろん、彼らが守るべき存在であるアリアの姿も。
騎士団員たちの顔色がさーっと青くなる。自分たちは守るべきものを置いて食欲を満たすことを最優先にしてしまったのだ。
「おいお前ら!絶対に探し出せ!食欲に目が眩んで王女殿下を攫われたと知られりゃただじゃすまねぇ!」
「は、はいっ!」
ピリピリした空気が張り詰める中、アリア一行を探し出そうと辺りの様子を探っていった。
※
「う、ん……ここは」
私は確か、アレクさんが料理をしに行ったからそれを見守っていて……それで、どうしたんだっけ?
「っ……!ここはどこ⁉」
自身の知らない領域に来ていることは分かった。攫われた、ということだろう……しかし一切気配を悟らせることなくどうやって攫ったというんだろう。
「う、うぅん……アリア様……?」
その声にハッとして隣をバッと振り向く。そこには私と同じように手足を拘束されたローズの姿があった。私だけでなく、上位騎士並みの実力を持つローズも攫ったというの……?
アリアは未だ微睡を彷徨っていたが、やがて完全に意識が覚醒するとハッと目を見開く。
「アリア様っ⁉ここは一体……それにこの状況は」
「私に聞かれてもまだ分からない。でも多分……アレクさんが目を離したすきに攫って行ったということでしょうね」
彼はずっと周囲を警戒していたし、周りから見ても入り込むことなどできなかっただろう。それに、アレクさんの実力は折り紙付き、ただの賊では勝てないはずだ。
だから彼が離れるタイミングを見計らった、というのが一番腑に落ちる考えだろうか。
「そんな……私が気づかないほどの敵がいると?」
「実際私たちは攫われた時のことをほとんど覚えていないもの。それってつまり、私たちだけじゃなく周囲の魔物にも騎士団にもバレなかったってことよ。ローズが気に病む必要はないわ」
「それでも、私はこの命に代えてもお守りするべきだったというのに……!」
頑固者のローズには分かってもらえずに震えている。しかし捕まってしまったものは仕方がない、助けを待つか脱出を試みるかだ。
しかし両手両足を拘束されている今、脱出を試みるのは無謀というものだ。私たちが存在を検知できなかった相手に無事に出ていくことができる保証なんかない。
幸いにも、アストラルの森への大遠征に赴いている者は実力者ばかりだ。そう悲観しすぎずとも……きっと助けが来るはずである。
それに、アレクさんがいるのだ。私はなんだか、根拠のない自信のようなものが湧いてきているのを感じていた。
「……少し待っていてくださいアリア様。こんな拘束力づくで外して……!」
ぐぐぐっと四肢に力を入れ、肉に拘束が食い込み血がしたたり落ちる。
「駄目よっ!そんなことしたらあなたの身体がっ!」
「大丈夫ですアリア様!今私が……!」
ぶちっ、とローズの腕から嫌な音が響いたその時だった。この場に私とローズ以外の低い声が響き渡った。
「……やめた方がいい。君如きじゃその拘束を解けないし腕を千切ったところでまとわりつくものだから」
「あなたは……?」
背格好はアレクさんと近しい。だけど纏っているオーラがまるで違く、全身に悪寒が走って仕方ない。今すぐにでもこの場から逃げ出したいプレッシャーを感じる。
それにしても、彼の顔をどこかで見たことがあるような気が……?
「俺は……いやでも、自己紹介したところで君たちはもう生きれないし、別にいいか」
「なっ⁉私たちをどうするつもりだ⁉」
「……もちろん、君らの血をもらうんだ。王族の血ってやつ?」
その言葉を聞いて、私以上にローズは瞠目した。誰にも明かさないようにしていた事実を当然のように理解している男をきっとにらみつける。
「なぜ、お前がそのことを知っている……?私が妾の子というのは生まれたころから秘匿されていて」
「いやまぁ、秘匿しているのはあくまで表にだし……。有力な貴族とか、それこそ同じ王族の人たちは知っているはずでしょ」
「まさか……王族の中に貴様に情報を売ったものがいるとでも……?」
「そこは教える気がないかな。俺は王族の血を取ってこいとしか言われていないから……」
取ってこい……ということはこの男はあくまで組織の一員に過ぎないということ?
だとしたら王家が関わっている可能性が出てきてしまう。家族を疑いたくはないが……こんな状況なのだ、疑心暗鬼に陥ってしまうのも仕方ない。
「あなたは……私たちの血を何に使うつもりですか?」
核心をついた質問に、男はニヤリと笑って私たちにも見えるように十メートルを優に超える人型の何かが眠っているポッドを現した。
驚愕した私たちが男に質問を投げかける前に、ひとりでに語りだしてしまう。
「かつてこの世界には神々が暮らしていたとされる。その圧倒的な力は人類には到底あらがえるものではなく人類は神の庇護下に置かれた。しかし神々の大戦が勃発すると人類を庇護していた神々は瞬く間に姿を消していってしまった。そんな神々の大戦を終結させ、この世に残ったとされる神は三人いる。名をそれぞれアテナ、イシュタル、アリシアという。彼女らは再び人類を庇護下に置き祝福と称して人類に力を与えることにした」
そこまで語ると何がおかしいのかクククっと笑い始める。
「じゃあもしも、そんな神々が復活したとしたら……とっても面白いことになると思わないか?」
「は……?」
「君たち王族は神の血を引いているからこそ王族と呼ばれる。そんな君たちの血があれば……完成するんだ!この生命体の誕生が!」
そこまで言って、男は私たちに歩み寄ってくる。血を採取して、神を復活させるつもりなのだろう。
もしこの話が本当なら、神には人類はどうやっても勝てないことになる。そんな存在を復活させてしまえば、王国だけでなく全土が虐げられてしまう。
「やめ……!」
抵抗しようとしても、拘束が邪魔をして大人しく血を採取されるしかできない。なんとか拘束を逃れようと手足を引き千切ろうとしたところで血液があふれるだけで意味なんかない。
血を採取し終わった男はポッドの前まで戻り、中に血液を注いでいく。
「あ……」
台地が揺れる。恐らくこれは王国だけではなく世界各地で起こっている振動だ。それほどまでの規模を秘めている存在が目の前でどんどん形を作っていく。
「……神の復活だ。その目に焼き付けるといい!世界が変わっていく瞬間を……!」
「——悪いが、お前がそれを見る瞬間は来ない」
瞬間、私が望んでいた声の少年がやってきて……男の心臓部を一突きしていた。
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次回の更新は7月26日18時頃を予定しています!




