アストラルの森への大遠征
大遠征には王家直属の騎士と魔法使いが参加するらしい。基本は二人で行動し前衛と後衛で行動するらしいが……俺は学生のみであり王家に仕えているわけではないので後ろの方で王女の護衛ということになった。
「ってか……アリア様が来る必要はあるんですか?実際、安全性など確保できていませんし」
「まぁ、様などと形式ばった呼び方をしなくてもいいんですよ?なにせ私とアレクさんは……その、お友達ですから」
「そういう訳にもいきませんよ。俺はただ公爵家の庶子なんですから……」
「そう、ですか」
しゅんと肩を落とすアリアだったが、そこは身分さということで引いてほしいところだ。まぁ、気を許してもらっているということなのかもしれない。
今回の大遠征で実力を認められれば褒章が与えられるのは確実。国王も娘のアリアの報告を無視することはないだろう。婿入りは無理だろうと爵位くらいはもらえるはずだ。
それに、公爵家の庶子ならば婿入りではなくアリアを嫁がせ俺に王位継承権は与えられないだろう。ともなれば俺の長所を国王に認めさせ王位継承権を持つにふさわしい人物であると思わせるのが最善だ。
「アリア王女殿下。これより大遠征を開始します、こちらで守りはしますが危なくなったらすぐにお逃げください」
「ふふっ、大丈夫ですよ。私の事はアレクさんが守ってくださいますから」
ぎゅっと俺の腕を抱き寄せるアリアに、友達を作れなかった箱入り娘が友達を作るとここまで距離感がバグるものなのかと呆れてしまう。
アリアに伝言を伝えた騎士の男はじっと俺の事を観察するが、どうも疑っているらしい。まぁ、アリアを死なせれば計画を続行できないのだから全力で守るつもりだが大人たちからすればただの子供に映っているのだ、信頼できるものではない。
「まぁ、任せてください。命に代えてもお守りしますので」
「……危険になったらすぐに増援を呼べ。王女殿下の命は貴様のような庶子と比べ物にならないほど尊きものなのだからな」
「もちろん、心得ていますよ」
ニコッと微笑むとアリアはぷんぷんと怒っており愚痴をはいている。
「なによあの男!アレクさんと私を比べるものじゃないでしょう⁉それにアレクさんの方が強いに決まってるんだから!」
「……あー、そこまで言ってくれるのはありがたいんですけど、あの男の言う通り庶子の俺よりもアリア様を優先するのは当然のことですよ」
「アレクさんまで……そんな事を」
寂しそうに目を細めるアリアに思わず眉を下げて彼女の侍女兼護衛に目を向けるが、困ったように目を逸らすだけだった。きっと彼女自身もアリアの言動に戸惑っているのだろう。
いくら初めての友達とはいえここまで身を乗り出してくるとは予想していなかったのか。
「アレク様、こうしてお会いするのは二度目ですね。私はアリア様のメイド兼護衛として雇われましたローズと申します。護衛としてご一緒しますのでよろしくお願いいたします」
「あぁ、よろしく。ローズは見たところ……前衛かな?」
「!お分かりになるのですか?いつもこの格好では魔法使いだと決めつける方が多いのですが」
「ま、見れば分かるよ。あんまり魔法に向いてない魔力してるからね」
この世界の騎士と魔法使いの特徴は大きく分けて二つある。
一つが先ほども言ったように魔力だ。これは魔力の総量ではなく魔力の質の話だ、魔法使いは魔力から魔法を生み出す言わば加工の一種だ。加工元が優れているのなら出来上がるものも秀逸なものになる、だからこそ一目見れば分かる。
もう一つは単純で立ち方でわかる。騎士なら剣士特有の筋肉の流れというものがあるのだ、それがローズには顕著に表れている。だからローズは前衛ではなく後衛だと分かった。
「アリア様がこれでもかと話しており疑っていたのですが、人を見る目はあるようですね」
「ちょっとローズ!その言い方は失礼ではなくて⁉」
「構いませんよ、周りから見れば俺はエレンガル学園で成績を残しているだけの子供なんですから。疑ってかかるのも当たり前でしょう」
「申し訳ありません、アレク様。私にはアリア様を命に代えてもお守りするという命があるので、言伝に聞いたことをおいそれと信じることはできないのです」
ぺこりと頭を下げて謝罪するローズだが、彼女の立場からすれば当然のことだ。俺の実力を過信したあまりアリアを守り切れなかったともなればとんだ失態だ。
そんな失態を起こさないように自分で見た実力以外は信じないというのは正しい、俺の立場でもそうしたことだろう。
それに、俺もローズはいないものとして護衛に参加するつもりだったからな。彼女が俺の実力を信じないというのなら、俺も信じていないと返すのが道理だ。
「まったく……ローズは私の言うことが信じられないっていうの?」
「いえ、そういう訳ではないのですが……。ですが出現したとされる魔物はオーガ、それが真実となれば国が腰を上げて対応しなければならない事態です。ジーク・グレンハルト公爵子息率いる騎士団が相対したのはオーガより劣った魔物であり即席の騎士団員でも討伐は可能だったかもしれませんが……そのレベルの魔物とオーガを討伐したとなれば疑うのが上の総意でしょう」
「やっぱり、私の言うことが信じられないってことじゃない……」
むすっと拗ねるアリアをなだめつつ、まるで子供のようなアリアを前にむずがゆくなる。
確かに、今の時代の尺度で言えばオーガをたった一人で討伐できるものなど上位の騎士やAランク相当の冒険者にしかできないだろう。
「それにしても、やっぱりアストラルの森はどんよりしてますね……前まではこんな雰囲気ではなかったと思うのですが」
「やはりこの地で何かが起こっていると?」
「はい、なんというか……魔力の気配がおかしいというか」
ふむ……アストラルの森などここ数十年来ていないから元々こんなものだろうと思っていたが、やはりおかしかったのか。
やはりここで何か異変が起こっており、何かを企てているということか……?
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次回の更新は7月23日18時頃を予定しています!




