王女様とお友達になろう
アストラルの森での件を学園長が怪しみ見定めるために俺を学園長室によこすのはどこか怪しいと思ったが、アストラルの森への大遠征という目的があったのなら納得である。
今回アストラルの森で魔物が浅層に現れたという異変を調べるために遠征するといったところだろうか。そこに俺を組み込む意思はよくわからないが、当事者の一人で戦力となるものを送り込みたいという意志でもあるんだろう。
「そう言ってくれてよかったよ。今回の大遠征はアストラルの森の奥地に異変を探しに行くんだ、そこで君が討伐したような魔物だってさらに強い魔物も出るかもしれない。危険にさらされるような任務だけど、いやぁ……受けてくれるなんて幸運だなぁ」
「白々しいな……俺が受けるのを確信していたくせに」
「さぁ?私は君の事をよく知らないし、半信半疑だったさ」
瞳を閉じてフッと笑うカインをジト目で見てしまうが、これ以上この男に何かを言ったところで何かわかることはない。大遠征の事もこの男に聞くよりも依頼主から聞いた方が早いというものだ。
カインはどこか胡散臭い感じがするが、今は大遠征によるメリットを見ていればいいのだ。
学園長室を出て授業を受けてそのまま帰宅する……ということにはならなかった。
「ぐ、グレンハルトさん……今お時間大丈夫ですか?」
廊下を歩いていればアリアから呼び止められる。どうもアリアからは避けられていると思ったのだが、そうではないということだろうか。
いや、俺が何のつもりで近づいたのかを知ろうとしているということか。そうでもなければこうして接してくることはおかしい、俺からならともかく彼女が俺に用事などあるはずもないのだ。
「王女殿下、もちろん大丈夫ですよ」
片膝をつきアリアにその意思を伝えると、彼女はほっとしたように胸をなでおろし隣にいる侍女にお願いごとをしている様子。
「グレンハルトさんとは同年代ですのでそこまでかしこまらなくても大丈夫ですよ。それでは、こちらの中庭で一緒にお茶でもどうでしょう?」
「わかりました、ではお言葉に甘えてご一緒しましょう」
「……!やった!」
小さくガッツポーズをとるアリアに困惑しながらも、アリアの後を追ってお茶会の場に向かう。彼女からすれば茶会の場に誘えて簡単に手の内を探れると喜んでいるのかもしれない。
学園のちょっとした広場に出ると、そこにはガーデンテーブルと並べられたカップには紅茶が注がれている。アリアの傍に仕えている侍女が入れたものなのだろう。
アリアに促されるまま席に座るとそのまま紅茶を啜る。流石は王族が用意する茶葉だ、そこらの茶葉とは比べ物にならないほど美味だ。
かつて世界の料理人と称されていた俺だが、この紅茶は洗練され言うことがないレベルで卓越した技術によって入れられている。流石は王家に仕えているものといったところか。
「それで、なぜ突然このような場を設けたんですか?言っては何ですが、俺は公爵家の庶子であまり好ましい人物ではないと思いますが」
貴族の庶子というのは、時に平民よりも疎まれる存在だ。平民のようにぞんざいに扱うことができず、あくまで公爵家の子息ということで頭を下げなければならないものが多い。
まぁ、もちろん王家相手だとこちらが頭を下げなければいけない立場だし、下の者たちがどれだけ疎んでいようと気にしていないのかもしれないが。
「まず、あなたに感謝を伝えたかったんです。先日の一件で、あなたがいなければ私はもうこの世にはいません。本当にありがとうございました」
座ったままでもわかるほど頭を下げるアリア。侍女が慌ててやめさせようとするがやめる気配は一切なく、俺も慌ててやめさせる。
「だ、大丈夫ですよ。この国の民として王族を助けるのは当たり前のことですから」
「ふふっ、そういってもらえると嬉しい限りです」
くすりと笑ってから紅茶を啜るアリア。その様を見るだけでいかに今まで上品に育てられてきたか分かる。かくいう俺もこれまで貴族のお偉いさんたちとお茶をすることは多々あったので作法はわきまえている。
「それで、もう一つ聞きたいことがあったんです」
「なんでしょう?」
「先ほど学園長から聞かされたでしょうが……大遠征についてです」
その単語がアリアから出てくるとは思わず身構えてしまったが、思えばアストラルの森は王国が管理する森なのだからその異変の調査ともなれば王族であるアリアに大遠征のことが耳に入ってもおかしくない。
つまり、この場に呼び出したのは大遠征の事を話したかったからなのだろうか。ともなれば俺が何の目的で近づこうとしているかはあまり興味がないということだろうか。
「学園長からある程度は聞きましたが、俺も大遠征には参加するつもりです。俺だけでなく王女殿下にも危険が及んだのですから、解決のために尽力しましょう」
「あっ、えっと……ありがとう、ございます……」
「いえいえ、王女殿下のために行動するのは当然ですので。王女殿下が感謝することはありませんよ」
にっこりと微笑みながら告げるとアリアは気恥ずかしさからかもじもじとし始める。
こそっと侍女が耳打ちをするとアリアは急にぴんと背筋を伸ばした。一体何を伝えたのか、俺には全く分からない。
「え、えぇと……グレンハルトさん。良ければ私の事はアリアとお呼びください。私、王女といった地位を気にせずに仲良くできると、友達が欲しかったんです」
「……そうですか、ではアリアと呼ばせていただきます。俺の事もアレクで構いませんよ」
「はいっ!ありがとうございます!」
パーッと幼子のような満面の笑みを見せるアリアにこれまでの暮らしを多少同情しつつも距離を縮められたと喜んでおく。気を許されたということであり、かなり目的に近づけたのではないかと思うがどうなのだろうか。
「それで、アレクさんはどうして大遠征に行くことを決めたのですか?確かにアレクさんの実力であればそうそうやられないとは思いますが……それでも危険は危険です」
「確かにそうかもしれませんが……これは俺にとっても利のある話だったんですよ」
今回の騒動で成果を上げたジークには褒章が与えられる。だが魔物を二体討伐しアリア王女を救った俺にはそんな話は来ていない。
それはただ信じられていないだけで、今回の大遠征で確かめるつもりなのだろう。それによっては俺にも褒章が与えられる、王族を助け王国の危機を陰ながら救ったのだからそれなりの褒章だ。
現在俺はグレンハルト公爵家の庶子であり王族とは釣り合わない。アリアと結ばれ王位継承権を得るには独立した貴族になるのが最低ラインだ。
だから今回の大遠征で認められ、俺は爵位を得ることを決めたのだ。そのためであれば、どのような陰謀が張られていようが俺は喜んで向かうとしよう。
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次回の更新は7月22日18時頃を予定しています!




