学園長からの呼び出し
アストラルの森での一件以来、学園の勢力が明確に分かれることになった。簡潔に言ってしまえば剣術に重きを置くものと魔法に重きを置くものだ。
おそらく、魔物たちと相対したときに剣士が役に立たなかったとか魔法術師が役に立たなかったとかいうことから生まれた確執だろう。学園の剣士や魔法術師の腕を見ても互角だと思ってしまうが、自分が上だと思っていないとやっていけないのだろう。
しかし、そんな言い合いに俺が加わるわけでもなければどちらの勢力のトップも俺なので口出しするだけ無駄というものだ。
それと変わったことといえばもう一つ。
「あ、アリア王女。あの後は大丈夫でしたか?」
「あっ⁉え、えぇ……その節はお世話になりました」
廊下で偶然に出会ったアリアの様子を窺えばどうも避けられている気がするのだ。恩を売って取り入ることができると思ったのだが、相手から見極められるような浅ましい考えだったかもしれない。
しかしアリアにこちらの考えを見透かされてしまったということを考えればこれ以上無理に接触するのは逆効果かもしれない。ぐいぐい迫ってもアリアからすれば御免被りたい事態であり行動が抑制されることもあるかもしれない。
「ふむ……難しい盤面だなこりゃ」
顎に手をやりながらぼそりと呟くと、横からひょこっと顔を覗かせる存在に気が付く。
「どうかしましたか?アレク様」
「ん?あぁ、イリスか。いやなに、王女様と話そうとしたがどうにも避けられているようでな」
「あぁ、私が見るにあれは……いえ、やめておきましょうか」
アリアの思考を把握しているようにイリスは口を開きかけたが、何を思ったのか口をつぐんだ。いや、俺もアリアから避けられている理由は把握しているので口をつぐんだとしても意味をなさないが。
「それで、アレク様は何をしにここに?」
「学園長に呼び出されてしまってな。それで学園長室に向かう途中に王女殿下とお前に会ったってわけだ」
「おっと、それならあまり留まらせてもあれですね。私は一足先に教室に戻っておきます」
学園長の用事とやらを優先させるべくイリスは教室に戻っていった。いくらアテナに言われたからといってもこうも律儀に毎日絡みに来なくともいいんだけどな。
アテナが過保護すぎるのかイリスが人を放っておけない性格なのか。恐らくは両方だろうと苦笑しながら学園長室の扉をノックし入室の許可を待ってから部屋に入る。
部屋は学園の長がいるとは思えないほど質素なつくりとなっており、俺を迎えるように一人のエルフの男が両肘を机について座っている。
その風貌からは長年生きて実力をつけた強者であると察することができ、俺が部屋に入ったことを確認すると学園長はじっと俺を見定めるように視線を向けてくる。王族を退けて魔法試験だけでなく剣術試験や学術試験でも首席になったのが実力かどうかを見定めているのだろう。
やがてニッと微笑むと歓迎するようなポーズをとる。
「こんにちは、いや急に呼び出してすまないね。私はカイン・ハイネン、ここエレンガル学園の学園長をしている。もっとも、新入生代表挨拶をした君なら私の姿を見ていてもおかしくはないが」
「あぁ……あの時はあんまり周囲の人はどうでも良かったというか、あんまり視界には入ってませんでしたよ。でもこうして目の前にすると、流石学園長というべきか、その実力がよくわかりますよ」
「ふふっ、そりゃあ私たちエルフは長年を生きて己を磨くのだからね。人間ではたどり着けないような境地にたどり着いてもおかしいことはないよ」
だからこそ、と学園長は言葉を続ける。
「私には君が分からないんだ。君はまだ子供、学園に入ったばかりのひよっこのはずだ。それなのにどうしてか君の力の底が見えないんだよね……何か隠していないかい?」
そりゃエルフよりも人生を経験しているから、なんて言えず適当に誤魔化すことにした。本当のことを言うわけにもいかないし変に否定するよりかは濁した方が怪しまれない。
「俺は自分の事をひよっこだと思ったことは一度もありませんよ。俺の力は間違いなく自分自身の努力の成果です」
「……確かに、君のお兄さんであるジーク・グレンハルトやハルト・グレンハルトもあの年とは思えないほど優秀だ、剣術だけだがね。騎士の道に進んだジーク・グレンハルトは様々な成果を上げていると聞くしね」
ジークやハルトはあれでも現代においては優秀な剣士だ。かつての最強と呼ばれた俺からすればまだまだとしか言えないが、人生を少ししか経験していないのであればかなり優秀だと認めざるを得ない。
というか、ジークが騎士になったという話は聞いていたがそこで成果を上げているとは思わなかった。一体どのような成果を上げたというのだろうか。
「今回の話はそこにも通じることがあってね。先日のアストラルの森での一件の事だ、突如として現れた深層よりの中層で現れる魔物が浅層に三体出現。うち一体を監督していた騎士の一人であるジーク・グレンハルトが指揮した部隊が討伐したらしい」
「ほぉ、兄上が……」
あのレベルの魔物をジークが討伐したともなると、あの時手合わせした時よりもかなり強くなっていると察することができる。
成果を上げたともなると褒章を受け取るのが基本だが、あの兄上のことだ。まだ狡いことを考えているに違いない。
「そこで、だ。出現した魔物は三体だった、そして一体がアリア王女の班を襲ったそうなんだ。彼女の班員が庇ったことで無事だったようだけどね」
「……何が言いたいんですか?」
「どうも、王女に聞けば君が魔法で葬り去ったとのことじゃないか。それに、もう一体もどうやったかは分からないが君が倒したとの報告が上がっているしね」
「ふぅん、誰からですか?」
「君の班員の……なんて言ったかな。無口な子だったからあんまり覚えてないや」
あっけらかんとした口調で答えるカイン。誰が誰であるかはあまり考えていないらしい。
確かに魔物は二匹討伐したが、個人でそこまでの力を持っていると知られれば恐れられ最悪の場合極刑にかけられる。褒章はあきらめてアリアに口止めをしておくべきだったかもしれない、彼女にも避けられてしまっているし。
「ありえないと思って君を呼び出したんだけど、私から見ても君の実力は測れない。そこでどうだろう?君の実力を証明するために今度のアストラルの森への大遠征に参加するというのは」
にやりと口角を上げて提案するカインにぴくりと反応して考え込む。
これを断っても俺に不利益はやってこない。しかし参加した時の利益を考えれば参加しない手はない、といってもいい。俺が断らないと分かって提案してきた感は否めないが、素直に頷いてもいいかもしれない。
「……良いでしょう。微力ながらもお手伝いをさせてもらうことにしますよ」
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