狂暴化した魔物
魔物の剥ぎ取りをして俺たちは森の中を歩く。歩いている最中も多くの魔物が襲い掛かってきたが難なく突破することができた。
「ちっ、しつこい奴らだ……」
「い、いくらなんでも多すぎませんか……?」
ワイトたちは肩で息をしながら呟く。確かに、俺から見てもこの量は異常だ。
いくら冒険者が良く狩場にしているアストラルの森とはいえ、浅層にここまで魔物が現れているのは珍しいという話でもない。
前世に魔物を研究していた俺にならその異常さが際立って分かる。ここまで出会った魔物は中層寄りにいるような魔物でここまで入ったばかりの浅層にはいないような個体ばかりだ。
アストラルの森でなんらかの異変があったのは確実だ。それに、ここまで他の生徒にも出会っていないことが不思議でならない。なにかの陰謀なのか自然的に起きた事象なのか。
「……ちょっと探知範囲を広げるか」
もしもアリアに何かがあれば計画が破綻してしまう。王女がいなければ俺が王位につくことができなくなるのは必然だ。アリアは魔力を大量に保有しているため生徒同士の違いを見れば誰がアリアかどうかを察することが可能だ。
「これは……」
探知で見てみても未だ強力な魔物と出会って危機に陥っている生徒はいなさそうだ。アリアも何も問題はなさそうで安心する。
だが俺たちの班に近づいてくる班があることに気づき、ワイトたちに伝えようとしたが素直に聞き入れるとは思えなかったしこれからの行動を加味すると戦闘不能になっていた方が楽になるので放っておいた。
「ファイアボール!」
「アイスショット!」
左右から魔法が飛んできて、反応に遅れたワイトたちに直撃する。すんでのところで俺は防御魔法で身を守ったのだが、他の奴らが身を守れたかどうかは分からない。
煙が辺りを支配し、魔法を放ってきた生徒たちがじっとこちらを睨んでいる。疑わしいかもしれないが、学年首席の俺を警戒しているのだろう。的当ての時の魔法を見せた後でもあるし。
というより、ここまで生徒がこちらにちょっかいかけてきていないのは俺がいるからか。流石に学年首席に喧嘩を売る真似をしたくはなかったのだろう。
煙が晴れる前にレクシアとワイトが勢いよく飛び出した。肩を押さえながら魔法を放ってきた生徒たちに目を向けると魔力を込め始めて魔法を行使する準備を始める。
「……僕たちに手を出したことを後悔させてあげるよ。ヴァイス男爵家は魔法で貴族に成ったんだ……こんなところで僕は脱落するわけにはいかない!」
ワイトは自らの魔法を最高級だと信じて疑わない様子だ。俺から見たらまだまだ成長の余地ありといった具合だが、ワイトは俺を目の敵にしているので聞き入れてはくれない。
レクシアは平民だが魔力運用がそこらの貴族よりも上手く今回も着弾の寸前で上手く防げたようだ。もっとも、咄嗟の事で完全に防ぐことは出来なかったようだが。
俺たちを襲った生徒四人組は包囲するように囲んでいる。先ほどの攻撃でアイズは戦闘不能になってしまったので人数不利の状況だ。
俺も手を出す気がないので戦力差は大きい。元々、この班は的当ての成績トップの俺がいるため他の生徒は的当ての成績が中の下辺りのはずだ。そんな奴らが二人だけでこの状況をどうにかできるとは流石に思えない。
「君はそこで見ていろ!僕が危機的状況を切り開く瞬間をッ!」
ワイトは突っ立っている俺に振り向き高らかに宣言すると四方に魔法を展開する。確かに威力は申し分なく、轟音を轟かせながら着弾した。しかしコントロールがなっていないのか避けるのは簡単だったようで、すぐさま反撃の魔法が放たれた。
「ワイトさんッ!」
ワイトを庇ったのは遠くに待機していたレクシアで、防御魔法でしっかりと防ぐことに成功していた。本来の彼女であれば、最初の攻撃でも負傷することはなかっただろう。
「はっ!アレク・グレンハルトが出てこねえならこのまま畳みかけるだけだ!」
「いくら学年首席とはいえこの人数差で勝てるわけがないもの!すぐにあなたたち二人を倒してそのままの勢いで相手してあげる!」
なにやら自信満々で攻撃を続けているが、レクシアによって完全に防がれている。やはりまだ学生であり貴族の子息子女といった印象だ。本物の戦場を知らない坊ちゃんたちにはリミッターを外すことなど出来るわけがないのだ。
あまりにレクシアが防ぐからかもしれない。魔法による轟音はアストラルの森中に響き渡り魔物たちを引き寄せることになってしまった。次々とこちらに向かってくる魔物の魔力を探知しながら、俺はじっくりと考え込む。
「なんだ……この勢いは」
いくら魔法につられてこちらに来ることになっても、ここまでの大量の魔物が一気にこちらに流れ込むとは思えない。まるで何かに逃げているかのような……。
「なっ⁉なんでこんな大量の魔物が……⁉」
そこまで考えると魔物の大群が姿を現し戦闘中だったワイトたちは驚きつつも交戦しようと魔力を込め始めた。
「さ、流石にこの量は……!」
全員で魔法を放っているが、それで止まるような魔物たちではない。魔法を避け切った魔物がワイトたちを攻撃するかのように思えたのだが、するりと横をすり抜けていった。
「な、なんだ……こいつは」
「あ、あぁ……格が違う」
ずしんと存在感を表す牙に並の冒険者では敵わないであろう体躯を見せつけた魔物を見た生徒たちは一様に固まってしまった。
「さて、ここは俺の出番か。お前らはとっとと逃げろ、戦闘の邪魔になる」
この状況でも学園の関係者や騎士たちが動かないという事は間違いなく異変が発生しているという事だ。それに、目の前の魔物の保有している魔力は不気味なのだ。まるで元々持っていた魔物特有の魔力に人間の魔力を更に加えたような不気味さがある。
魔力を魔物に加える、などという発想はしたことがなかったが狐人族を攫ったあの集団であればそれも可能かもしれない。やつらは、接触することなしに魔力の奪取ができていた、贈与ができてもなんら不思議ではない。
「ひ、一人で大丈夫なのかよ?」
「そ、そうですよ……、あんな魔物に一人で相手するなんて」
「少なくとも、そこで足を震わせているお前らを守りながらの方が面倒だな」
淡々と告げる俺の意見に賛同したのか、俺らの班を襲撃した生徒はすぐさま離脱した。元々味方ではないのだから特におかしな話でもないだろう。
ワイトとレクシアは最後まで渋っていたが、すぐにアイズを連れて離脱していった。
「……絶対に無理をするなよ。貴様の魔法を超えるのはこの僕だ」
最後にワイトが残した言葉に不可能だと心の中で返して、完全に二人から視認されることがないと確認を取ると魔物に視線を向ける。
「さて、他にも似たような魔物がいるな。数は全部で三匹、良くもまぁそんなに用意したものだ。アストラルの森は中層が限界だとか言ってなかったか……?お前は元々中層にいるはずの魔物だし、人間の魔力を与えられて狂暴化しているってところか」
他の狂暴化している魔物を探知すれば、その付近に人間の大きな魔力反応があることに気が付く。間違いない、アリアの魔力反応だ。
それを確認した瞬間、俺のワクワクした気持ちは一気に薄れ魔物に向ける視線は軽蔑したものになった。拳を握りしめ、四肢に力を入れる。
「お前ら如きが……俺の計画の邪魔をするな」
言葉を言い終えるころには、魔物の首と胴体は離れ離れになっていた。
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