派手な魔法
アリアの放った魔法は的を焼き尽くし、灰へと変えていた。どうやら教授が簡単な防御魔法を付与していたようだが、そんなものお構いなしらしい。
入学試験の時、俺の放った魔法を見て真似をしたのだろう。魔法で負けた悔しさがあったのだろうが、それでも見ただけで真似できるとは……これが王族の血か。
「……面白い」
思わず呟いてしまう程、俺はアリアの成長度合いに惹かれてしまっていた。ここまでの逸材は久方ぶりである。
少し遅れて、アリアの魔法に固まっていた生徒たちの意識が戻ってきて歓声を上げ始めた。
「すげぇ!あんな威力の魔法見た事ねぇ!」
「流石王女様……!こんなことも可能だなんて」
「逆になんでこれで魔法試験次席だったんだ?首席の奴はそんなにすごいのかよ」
「流石ですアリア王女殿下。あの的には簡易的な防御魔法を付与していたのですが……それすら簡単に破られるとは」
全員がアリアを称賛し、あんな凄い魔法を見た生徒たちは首席である俺の事を疑ってくる。教授さえも俺の事を疑っている様子だ。
ここでアリアよりも威力の高い魔法を放つこと自体は容易だが、一般的に王女に恥をかかせるような真似は不敬罪として断罪される。
試験で上に立つのは許されているのでそうしたが、今回はあくまで授業。俺が魔法でアリアを負かし、恥をかかせるのは避けなければいけない。
「それでは、これより名前を呼ぶので呼ばれた生徒は得意な魔法を放つように。まずは——」
教授が名前を呼ぶごとに生徒たちが魔法を的にぶつける。マリアの後なので劣るのは当然だが、やはり突出したものはいないように思える。
「——ジャッジメント!」
目の前で光の帯が的に向かっていくのが見える。聖女による聖魔法……つまりイリスの魔法である。
魔法の熟練度が最大になっている俺だが、聖魔法だけは例外である。今のイリスの聖魔法の熟練度は俺の熟練度の半分といったところで、卒業まで鍛えれば俺に並ぶかもしれない。
といっても、聖魔法は攻撃ではなく守りや治癒が主であり教授が的に付与している防御魔法とは異なる結界などが役に立つ。結界さえ覚えていれば聖魔法のほとんどを習得したと言っても過言ではないほど役に立つのである。
それは俺が怪我をしないせいで回復魔法を使う機会がないからかもしれないが、結界が大切なのは本当の事だ。
「やっぱ聖女様もすげぇな……」
「教会に認められただけはあるか」
「それよりもほら、次……」
「あぁ、グレンハルトの庶子か。噂によると不正したとかで王女殿下の顔に泥を塗った不届きものだ」
「家族に見放されてるからってそこまでするかよ……庶子は庶子らしく大人しくしていればいいものを」
周囲の生徒はやはり俺を疑っているらしくまるでごみを見るかのような視線を向けてきていた。聞くところによると俺の学年首席は最初こそ否定的だったらしいが剣術試験を見て俺と模擬戦をした剣聖と魔法試験の監督である宮廷魔術師が説得したらしい。
もう少し自分の立場を踏まえた行動をするべきだったかもしれないが、最初から下手に出ていては状況を変えることは出来なかっただろう。
アリアに少し劣るほどの魔法を放って早く終わらせることにしよう。周囲には何か言われるかもしれないが、そんな事を気にしていては王座にはつけない。
名前を呼ばれ、俺が的の前に移動しようと足を向けた途端、アリアがこそっと耳打ちしてくる。
「手を抜いたら許しませんから。本気で臨んでください」
「へぇ……?不敬罪になったりはしないと?」
「えぇ、約束しましょう。そんなことより、私はあなたの魔法に興味がある」
言いたいことを言い終えたのか、アリアは俺の元を離れて最も見えやすい場所に移動した。どうやら、かなり期待されているらしい。
ここで俺が手を抜いてしまえば王女からの興味を失い取り入ることができなくなるかもしれない。幸いにも彼女は負けず嫌いで俺の魔法に対しての興味が最高潮だ。
彼女の魔法よりも凄い魔法を放っても彼女からの興味は尽きないどころか増すと言っても良い。不敬罪で学園を追われる身となっても武功を上げて独立した貴族になる道は残されているし、王女が俺の事を放っておくとは思えない。
問題は、俺が本気で魔法を放ってしまっては地図を書き換えないといけない点だ。学園はおろか王都の大半は消し飛んでしまう。
だから本気を出すことはできないのだが、アリアよりも高威力の魔法を放てば恐らくは問題ないだろう。そうなると少し悩んでしまうが、ここで重要視するべきは彼女の興味を引くことである。
「よし、決めた。見た目は派手にして……っと」
腕を天に掲げることで、その魔法は発動される。ゴロゴロと天は唸り、あっという間に暗い暗雲が学園の空を覆いつくした。
その異常な状況に生徒たちがざわざわと騒ぐ中、アリアだけがじっと俺の事を見ていた。この魔法の事を見極めるように、ただじっと見ていたのだ。
その探求心は素晴らしいものだが、たとえ王族の血を引くアリアでさえ、この魔法をものにするのは簡単なことではない。才能のなかった俺が六十年かかったのだから、アリアであれば五年ほどだろうか。とはいえ見ただけでは何も分からないだろう。
「——ケラウノス」
術の名を口にすれば天から雷が降り注ぎ、的が木っ端みじんに破壊される。灰すら残らなかったその場に残ったのは抉れた地面だけであり、学園にかけられた防御魔法すら傷つけたことを示唆していた。
そのことに恐怖を抱く者も少なくはないが、俺にとっては王女の気を引けるかどうかだけが大切だった。最初こそ周囲の生徒から王女に恐怖を伝播させるわけにはいかなかったが、今では王女が負けず嫌いで俺の魔法に興味を示していることを知れたのだから他の生徒はどうだっても良いのだ。
見立て通り、アリアはワクワクした様子で口角を上げている。あの様子であれば、彼女の興味は十分に引けただろう。
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