負けず嫌い
自分の死んだときの反応が気になるという理由で転生を繰り返していた俺は11回目の転生をした結果グレンハルト公爵家の庶子、アレク・グレンハルトに生まれた。
グレンハルト公爵家は実力主義の家系で、平民から搾取し続ける悪役貴族として知られていた。今まで平民として様々な称号を得てきた俺だが、貴族に転生するのは初めてのことであった。
女神アテナと話し合った結果、今世では今まで誰も実現できなかった世界平和を目指すことに決め奮闘している最中なのだ。
「……もっと面白い授業してくれねぇかな」
ここエレンガルがル学園は、ラグナロク王国最大の魔法学園だ。魔術師だけでなく騎士も多く輩出している。だから学園のレベルは最高級と言っていいのだが……。
かつて大賢者や剣聖と呼ばれていた俺にとって、学生レベルの授業ははっきり言って面白みに欠ける。
それだけではなくこの世界の魔法や剣術のレベルは昔と比べて格段に劣っている。かつての大賢者や剣聖が御伽噺のレベルにまで引き上げられているのだからよっぽどである。
「アレク様、次は合同で魔法訓練とのことですが移動しないんですか?」
「ん?あぁ、イリスか。今行く」
同じクラスで共に学び、近代の聖女であるイリスはまだ教室で頬杖をついている俺に教えてくれる。
彼女の周りには中のよさそうな女子や聖女という地位に目をつけている貴族の跡取りなどが多数存在していた。しかし当の本人は誰に対しても平等に優しく接しているのでいい意味で付け入るスキがないのだろう。
学年首席で成績優秀な公爵家の庶子を疎むものも多く、クラスで俺と話してくれるのはイリスだけだった。
何度も転生を繰り返し実際の寿命が数千歳にも及んでいるので誰かと関わる気になっていない俺からすればそれでも別にかまわなかった。転生した後に関わっていたやつの子孫を見ても何とも言えない感覚に襲われてしまうし。
だがアテナの計らいにより聖女であるイリスは女神の信託だとか言って俺に接触してきたのだ。
そのおかげで魔法の合同授業のため移動があると知れたのでありがたいと言えばありがたいのだが。
それよりも、この魔法の合同授業は俺が待ち望んでいたものだ。この機会を逃してはいけないと告知された時からずっと狙っていたのだ。
その理由というのが——
「見て!アリア王女殿下よ!」
「アリア王女殿下は今日もお美しい!」
「今日の魔法の授業、殿下に教えてもらうことはできないのかしら」
「そっちの方が確実にやる気が出るのにね~」
王女の事を陰から見ている身分が釣り合わない者たちはわいわいと騒ぐ。
アリア王女は平民や貴族から非常に親しまれており、王位継承権を持っていれば間違いなく王位を継ぐに相応しい気品に溢れた人だ。その優秀さゆえに疎まれることもあったようだが、ほとんどの人間は彼女の事を認めている。
彼女の事を慕っている生徒からすれば、魔法において彼女よりも成績優秀者がいることにイラついたのだろう。俺の事をぐちぐち陰で叩いているというのも知っている。
そもそもアレク・グレンハルトは貴族からは庶子だと馬鹿にされ、平民からはグレンハルト公爵家だと怯えられるきわめて難しい役回りをしなければならないのだ。
「それではこれより、魔法合同訓練を開始する。本日することは簡単、的当てを数十分こなしたあとグループを作りグループ同士で模擬戦をしてもらう。グループは的当ての順位によりこちらで決めさせてもらう」
指導者の男は偉そうに言う。王女様がいるとは言え、平民に丁寧に接する気になど到底なれなかったのだろう。
「先生、的当てというのは入学試験で行ったものと同じものでしょうか?」
アリアが手を上げて質問することにより、指導者の男は感極まってべらべらと喋り出した。
「いいえ!今回の的は入学試験と違い動くように魔法をかけてあります、ですのでコントロールも大事になってくるという事なのです!」
アリアが納得したと言わんばかりに頷いたのを確認すると、男はほっと胸を撫でおろす。いかにも彼女に良いところを見せたいという表れだ。
「では、入学試験成績上位の王女殿下に見本としてやっていただきましょう。王女殿下、よろしいですか?」
「えぇ、構いませんが……」
男の誘いにアリアは乗ったと思ったが、その瞳は俺の事を捉えていた。先ほどの男の発言が何か引っかかっているかのような、そんな視線だ。
的の前に立ち、アリアは魔力を集中させる。的は確かに動いているがそこまで激しいものではなく、精々ゴブリンに勝るくらいの速度で上下左右に揺れているだけだ。
実際の戦闘では前衛には騎士がいるので魔法を当てられるかどうかは騎士にかかっている節はあるのだが、実際の戦場に立たせるなんて想像の上で学ばせていないだろうしこれで良いのかもしれない。
俺の場合はあんな速度の的はただのおもちゃであり、百発百中で打ち抜くことも出来るし避けられないほどの巨大な魔法で消し炭にすることだってできる。
そんな事をこの場でしてしまえば王女の面子を潰したとして罪に問われるかもしれないのでやらないが……。
とにもかくにも、今は王女の魔法を見学することにする。
王女の体格は、女性の中でも軽やかで小柄な方だろう。剣の成績も良かったイメージはないので、完全に魔法に頼りきりの戦い方かもしれない。
それでも流石は王族の血を引く者。魔力量は一般的な平民の数十倍で、並の貴族でも敵わないだろう。魔力の扱いを完璧にすれば俺にも届きうるかもしれない。そうなった場合、彼女の時間は失われるも同然だけど。
彼女の掌に炎が集まっていく。それはどんどん丸みを帯びていき、周囲の視線をくぎ付けにしていた。離れてみているはずの俺たちにもその熱気は伝わってきて、思わず誰かが「すご……」と呟いた。
彼女と視線が交差した。目の前の的を見ているはずの彼女は何故か俺の方を向いて、微笑んでいた。最初こそ意味が分からなかったが、これから彼女が為すことを目にして口角を上げた。
「……ハハッ」
彼女の炎の熱はさらに上がっていく。熱が上がるにつれて注がれる魔力が増えるだけではなく、炎の色までもが徐々に変わっていったのだ。
彼女が創造したそれは、入学試験で俺が作った火球と同じ蒼色の炎をしていて——
「——蒼炎」
彼女が言葉にした瞬間、掌に鎮座していた蒼の炎は勢いよく射出され、動いている的のど真ん中を打ち抜いた。全員がぽかんと口を開けている中、俺と彼女だけは微かに笑っていた。
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