借り物の力
ゼノンからとめどなく放たれる攻撃を、俺は全て防ぎきっていた。
「なかなかやるようだな……。だがもうお前は終わりだ!準備が完了したのだ!大賢者の魔力を取り込む準備が!」
「なるほど……アイリスか」
ともなればゼノンは遠隔で魔力を奪う方法を確立していることになる。魔法に精通している俺ですら、直に触れていなければできない芸当だ。
魔力を触れずに奪うのは淫魔や吸血鬼の専売特許である。それを人間が可能にした。それも、魔法という手段を使って。
「それに、奪うのは大賢者の魔力だけではない!人間よりも圧倒的に優れた身体能力と魔力を持つ狐人族がここには数えきれないほどいるのだ!いくらお前が強かろうと、最強になった僕には敵わない!」
高笑いしながら、自分の勝利を確信するゼノン。見ればどんどん魔力が向上しているのが分かる。奥にいる狐人やアイリスの魔力を吸っているのだろう。
元々魔力を奪ってはいたが、アイリスが現れたことにより一気に勢いを加速させたのだろう。いつもの数倍の魔力を手に入れたことにより自分に敵う者はいないと驕っている。
魔力を取り込み想像以上の力を手に入れたのだろう。ゼノンは先ほどよりずいぶんと楽しそうにしかし先ほどより数段速く剣を振るっていた。
魔力が格段に上昇して身体能力強化の魔法の倍率が高くなっただけでなく、風魔法で速度を上乗せするのも強化されているからなのだろう。
しかも閉鎖的な洞窟の所為で攻撃の速度はとんでもなく高い。狐人族でも敵わないのはまず間違いない。
洞窟内に限れば、セリアよりも攻撃速度が速い。剣術の熟練度の問題で彼女よりは劣っているが、それでも普通の人間からすれば脅威そのものだ。
「これも防ぐか!だったらこれはどうだ!かつて大賢者が使ったと言われる究極の魔法!」
ゼノンが掌を前に突き出すことで魔力が集中する。それはやがて雷を纏い空気を振動させ、まるで天災とでも言わんばかりに轟音を轟かせている。
確かに過去俺が得意としたのは氷属性と雷属性だったが……規模はもっと大きかった。少なくとも、魔力を集めた段階でこの洞窟が崩れる程にはだ。
「最強の一撃、受けてみろ!レールガン・ノヴァ!」
ゼノンの掌から雷を纏った魔力の塊がレーザー状になって射出される。避ける事は簡単だが、避けてしまえばこの洞窟がどうなるか分からない。もし崩れたりでもしたら奥に捕えられている狐人族も巻き込まれてしまう。
もはや他人はどうでもいいが、アイリスはあいつの子孫だ。流石にそう易々と見殺しにするわけにもいかない。洞窟が崩れたくらいどうってことないかもしれないが、魔力を吸われているこの状況では何がどうなるか分からない。
だがあの魔法を相殺した所で発生する振動にこの洞窟は耐えられそうにない。今から防御魔法で洞窟全体の強度を上げることは流石に不可能だし、相手の魔法の威力を見ればそう簡単に止められるものでもない。
それならば、ゼノンがやった事をそっくりそのままお返しすればいいだけの話だ。
「なんだ……?諦めたか?今更何かしようとしてももう遅い!」
右手を突き出し、雷魔法に触れる。そこには防御魔法も身体能力強化の魔法もない。俺がやっているのはただの魔力の吸収。
遠隔で魔力は奪えないが、直に触れていれば魔力を奪うのはそう難しい話ではない。あとは俺がこの魔力を奪いきれるかという問題だけだ。
「くっ……!低級の魔法如きが……舐めるなよ」
突如に体に迸る痛みに、思わず苦悶の声をあげてしまった。もとはと言えばこの魔力はアイリスたちのもの。魔力というのは魂に直結するのでそれを奪うという事は自己に多大な負担を課すのと同義である。
それに耐えきれなかったものは自我を失う。集落での男がそうであった。
「ハハハハハハ!何をするかと思えば、そんなことは不可能に決まっている!そんなに魔力を食いたいのなら更に食わせてあげましょう!」
ゼノンは魔法の出力をさらに上げ、俺への負担を増やしていく。奴の中では、奴の攻撃に俺がどこまで耐えられるかの勝負になっているのだろう。
自分が優位に立っていて、この勝負はもはやお遊びだと信じて疑わない。だからこそ、奴は気づけないのだ。
——吸い上げた魔力が、この洞窟内を既に支配していることに。
「お前は、自分が最強だと言ったな?」
「あぁそうだ!大賢者の力を取り込んだ僕はもう誰にも負けることはない!僕は人類の壁を越えたのさ!」
「ククク……ハハハハハハ!本当に笑わせてくれる!人類の壁を越えた?この程度が最強?借り物の力で最強に至れると思うな。お前が最強だと信じて疑わないその力は大賢者の力でもなんでもない、ただの狐人族の力だ。お前は人類を超えたんじゃない、ただ人類の外から力を取り入れただけだ」
ゼノンの力が今の人類を超えた、それは当たり前の事なのだ。何故なら彼が取り込んだのは人類よりも数段上の実力を誇る狐人の力なのだから。
「減らず口を……!僕が最強だ!その証拠に、君はその魔法を受け止めるのに精一杯なんだからね!」
「俺が、こんな魔法に精一杯……?どうやらお前は俺を侮辱するのが好きらしいな。この程度の魔法で俺が精一杯になるはずもない」
瞬間、拳を握りしめるとすべての魔力を吸収し終えてゼノンの魔法は消え去った。
「あ、え、は……?」
ゼノンは瞠目し、自身の最高峰の魔法がうち破られたショックで動けずにいる。
元々、ここが洞窟でなければ一瞬で相殺させて終わりだったのだが……それは告げなくても構わないだろう。ゼノンの矜持は既にズタズタだ。
「さて、終幕と行こう」
「ありえない、こんなことはあり得ない!これは悪い夢だ、貴様を殺せば、この夢も覚める……!」
「人間の取り得は頭脳だというのに、弱者だからこそ与えられた利点を放棄するお前に……女神も呆れているよ」
目にもとまらぬ超スピードでゼノンの背後に回り込むと、魔力で作った剣で心臓を穿った。聞きたいことも聞けたし、この男にもう用はない。
この男はあくまで組織の一員。それもかなり下っ端だ、さらに上の者が指揮を執っていると思っても良い。
組織にはやはり大賢者の力を狙った者がいると見ていい。今の人々から見て大賢者や初代剣聖の力は神の力と言われるほど強力であり利用すれば世界地図を書き換える事だって可能だ。
そんな力を使って何をするのか……そして俺ですら知らなかった魔力を奪取する方法。人間に可能なら俺が思いついていてもおかしくはなかった。
どうやらこの世界も、まだまだ面白いことが眠っているらしい。
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