大賢者の血を引く者……?
狐人族の魔力を辿っていると、とある洞窟に辿り着いた。中から複数の生き物の反応がするので間違いない筈だ。
狐人を狙った目的がなんなのか、そしてあの深紅の錠剤の秘密を教えてもらうことにしよう。
「アイリス、ここで待っていた方が安全だけど……どうする?」
「行きますっ!私を逃がしてくれた人たちを助けたい!」
フッと微笑んでアイリスを連れて薄暗い洞窟に入る。中は綺麗に掃討したと言わんばかりに魔物の魔の字もなかった。
どうやら、かなり長期間この洞窟を拠点にして生活していたらしい。魔物が近寄らなくなっているのがその証拠だ。ここに近づいた魔物が次から次に倒されていけば生物として寄り付くことはなくなる。
これも前前世で得た知識なのだが、やはり魔物の研究はしておいて良かったと思う。
「にしても気持ち悪いな……この魔力波長」
常に周囲の魔力を探っているが、変なものが混じりあった魔力が生まれている気がしてならない。あの錠剤の事も考慮したうえで、ここにいる連中はかなりやばい事をしていると確信を持つことができる。
「俺が目指す平和な世界にいらないよな、こんな奴らは」
ただ暴力で成り上がり平和を目指すような真似はしない。そんなものはひと時の平和だけですぐに苦しむことになるのだから。
あくまで今後の社会の為に行動するまでだ。悪は悪でも世界の維持には必要な存在である可能性があるのだ。
しばらく歩いていれば、奥の方から話し声が聞こえてくる。急いでそちらに向かいたいところだが、どうやらお客さんが来てしまったらしい。
「おやおや、どうして人間と一緒に来ているのかな?そちらのお嬢さんは」
「ッ⁉み、みんなを返してっ!」
「そいつは出来ねえなぁ?あぁ、でも……」
俺たちをもてなしにきた狐人族を狙った組織の男はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。気色悪いと思わず顔に出てしまったが、男の様子を見る限り今はそれどころではないらしい。
「お前が素直に来てくれるってんなら話は別だ。お前はあの大賢者の血を引いてるんだからな!」
「………………」
ゲラゲラと笑いながら告げてくる男に、俺は思わず顔を伏せたくなってしまう。アイリスが大賢者の血を引いているというのは真っ赤な嘘であり、全ては頭のネジが外れた先祖の責任である。
しかしそれを俺が言うのも不思議な話であり、その事実を知る者はもはや誰もいない。
というより、大賢者の血を用いて何をしようとしているのだろう。正確には俺の血ではないが、実際血液を使って何かを解明するというのは余程知識がない限り不可能だ。
言っちゃ悪いがこの男にそれが可能だとは到底思えない。いかにも馬鹿ですって顔をしているし。
「なっ!大賢者様の血を使って何をしようとしているんですか⁉」
「あの方の血があれば俺たちはもっと強くなれる!そうなりゃ王国だろうが帝国だろうが共和国だろうが叩き潰して頂点に立つことができるんだよ!」
「……浅はかだな」
「なに?」
思わず発した言葉に、男はぴくりと眉を吊り上げる。眼中になかった男が急に反抗的になるのだからストレスが溜まってしまったのかもしれない。
そもそも、アイリスの血に人間である大賢者の血が流れていると思う方がどうかしている。大賢者が子を成したと誤報されているのは狐人族の中だけであり、人間からすれば孤独に死んでいった者として語り継がれている。
そこに仕えていた狐人の事など情報として世に出ていないのだ。だというのに、目の前の人間である男はあっさりと騙されてしまっていた。
「お前はなんだ?何故狐人族の長の娘がお前のような人間と共に行動している?」
「この方は私の命の恩人です!あなたなんかが敵う相手ではありません!理解したらみんなの居場所を教えなさい!」
別に捕らえられた狐人がどこにいるかはもうとっくに分かっているのだが、下手に問答したくなかったのでアイリスに任せることにした。
しかし任せたことが失敗だったのか男のイライラは増していくばかり。今にでも突っ込んできそうなほどである。
流石に自分と狐人族のレベルの違いを理解しているのか無暗に責めてこないのは好感が持てるが、俺がいる時点でその計画は破綻する。
こいつらが求めている賢者とは俺の事であり、魔法一強だった当時の俺は今や剣術も一番となっているのだから中途半端なものが挑めるレベルではなくなっているのだ。
世界にはどこか同レベルなものがいることを陰ながら祈っているのだが、ここ数千年転生を繰り返している内に出会ったことはない。
「おいお前……随分余裕そうじゃねえか。今すぐにでも慌てふためいて命乞いをさせてやるよっ!」
自分の感情が制御できなかったのか、男はしびれを切らして攻撃してきた。だが集落の男と違ってその動きは直線的ではなく、洞窟の狭さを利用した動きになっている。
狐人であるアイリスも男の動きを追う事で精一杯らしく、必死に首をぶんぶん振って男の後を目で追っている。
「まずはお前からだ!お前をぶっ潰した後、そこの女をつまみ食いしてやるよぉ!」
「はぁ……まるでお遊戯だな」
迫ってきた男の拳を首を傾けることで回避すると顔を通過した腕をぎゅっと掴む。集落の時の男もそうだったが、何故この程度であれほど粋がれるか俺には分からない。
「く、くぅ……!」
拘束を逃れようと男は腕に力を込めるが、俺がそれを逃すわけがない。
「くそっ、くそっ!離しやがれ!」
「自分で抜けてみろよ。ま、それができないから困ってるんだろうけど」
「ぐっ……!」
男はこのままでは無理だという事を悟ったのか、空いている手で懐から錠剤を取り出しすぐさま飲み込もうとする。こんなに至近距離で薬を出して馬鹿だとは思うが、それしか手立てはなかったのだろう。
それに、警戒していなかったら反応できなかったはずだ。少なくともそれほどのスピードはあった。
しかし、俺はずっとその瞬間を待っていたのだ。口角を微かに上げ、掴んでいた腕を離し男の顔面を思いっきりつかんで地面に衝突させた。
男が飲み込むはずだった錠剤は俺の手にあり、男の方が意識が曖昧としている。
「な、んで……俺は、俺は……」
「さてと。取り敢えずこの薬は後で調べるとして……」
先ほどまで会話が繰り広げられていたが今では全く音がしない。一体この先で何が起こっているのだろうか。
「さ、流石アレク様!すごい、すごいです!」
ぴょんぴょん跳ねて喜んでいるアイリスに可愛さを見出しつつ、この先で何が行われているか考察しながら向かうことにした。
大賢者が関わっているとしたら、俺も他人事とは思えないかもしれない。
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