アイリスの先祖と大賢者
男を地に伏した俺は一息ついた後に振り返ってアイリスを視界に入れる。
てっきり怯えられているかと思ったがそんなことはまったくなく、最初の方の人間嫌いはどこへいったのか尻尾を振っている。
「えぇっと……一応これで安全だとは思うが、大丈夫か?」
「え⁉あ、うん!ありがとう……」
とはいえ、この男にやられた狐人族が見当たらない。死体があってもおかしくはないのだが……血液すらも飛び散っていないのだ。
男の言動からして……狐人族を捕らえることが目的だったのだろう。しかし何故狐人族を捕らえるのかは未だ謎のまま。
アイリスの様子からして、自分が狙われている理由も分かっていなさそうだ。とてつもない面倒ごとの気配がして身を引いてしまいそうになるが、狐人族と縁を構築するのもなにかと役立つかもしれない。
「それに……アテナにも口うるさく言われてるからな」
このままアイリスの面倒を見ることを決め、襲撃された集落を今一度確認する。
風魔法によって家は倒壊しており、地面もところどころ抉れている。周囲の森も切り倒されているが、抵抗した際の戦闘痕は見られない。
しかし俺がアイリスを発見したときは間違いなく切り傷ができていた。それはオークには付けられない風魔法によるものだということは男の言動からして分かっている。
「なぁ、お前の一族がどこに行ったかとか分からないか?」
「ごめん……私じゃ分からない。でも、襲われたときは私ばっか追いかけてきたから……それでみんなが必死に守ってくれて、それで……!」
その時の光景を思い出したのか、アイリスは興奮した様子で慌てだす。落ち着いて欲しいところだが、仲間が身を挺して自分を庇ったのだから焦るのも当然だ。
「まぁとにかく落ち着け。俺が絶対に助けてやるから」
アイリスの頭を撫でてひとまず落ち着かせる。撫でられているアイリスは気持ちよさそうに目を細め、ただ受け入れている。
人間嫌いという特徴を忘れてしまいそうになるほど気を許されている気がした。
「えへへぇ~……」
アイリスのその表情に、俺は少しばかり見覚えを感じた。だが随分前の記憶のようで、少なくともここ数回の人生の話ではない。
あれは確か……まだ2回目の人生だったような。
「アイリス……お前のご先祖様って、大賢者に仕えてたりしなかったか?」
「⁉どうしてそれを知ってるんですか⁉」
「やっぱりか……」
どこか見覚えがあると思ったら、俺が大賢者と呼ばれていた時に部屋の片づけなど色々やってくれた狐人の子孫だったではないか。
血が途絶えていなかったことに安堵するが、だとすればいよいよ彼女が狙われる理由が分からない。
彼女の遺伝子を継いでいるとすれば特別な能力などは受け継いでいないはずだ。父親の方に何かあったのかもしれないが。
というかあいつって確か……魔法で子を孕んだとか言ってなかったか。母親は自分、父親は賢者様とか言ってはしゃいでいた気がする。となると、狐人族は大きな勘違いをしている可能性がある。
「とにかく、それが何か関係しているとしか思えないんだが……しかし思いつかんな」
「な、なんでご先祖様の事を知っているんですか⁉それに大賢者様のことも……!」
「1つ聞かせてほしいんだが……大賢者の事をどう思う?一応人間なわけだし、やっぱり嫌いなのか?」
少し緊張しながら、アイリスに大賢者の印象を聞く。元々俺が転生した理由は自分の死後にどんな話がされるか気になったからであり、こんなにも身近だった者の子孫がいれば聞くのは当たり前である。
緊張している俺とは裏腹に、アイリスは目を輝かせながら興奮して答える。
「嫌いなわけないじゃないですか!むしろ大大大大大好きです!幼いころに読み聞かせてもらった大賢者様のお話はどれも壮大で……ご先祖様がそんな方と子を成したことも誇らしいです!私は人間が嫌いですが、大賢者様とアレク様は大好きですっ!」
「お、おう……そうか」
とんでもない勢いで答えてくるアイリスに気恥ずかしくなりながらも、俺の心は喜びで満たされていた。大賢者の転生先が実はアレクだと告げたらアイリスはどのような反応をするだろうか。
一応アイリスの先祖には俺が転生することを伝えていたのだが……この様子だと語り継がれてはいないらしい。
「それにしても、アレク様はお強いですね……!オークも一瞬で倒されていましたし、あの男の攻撃だって1回も当たっていませんでした!」
「あぁ、まぁ一応王都の学園の首席だからね」
「流石アレク様ですっ!」
尻尾をぶんぶん振りぴょんぴょん飛び跳ねているアイリスを可愛らしく思い、俺は頭を撫でる。そういえば、大賢者と呼ばれたときもこんな感じで隣に置きたがってそのまま……って感じだった気がする。
遠い先祖とは言え同じ血族なのだなと感心しながら今後の事を考える。
他の狐人族を救う事が最優先とはいえ、どこへ行ったのか分からないままではどうしようもない。男に聞ければ手っ取り早かったが、既に喋れぬ身となってしまっている。
「あんまり魔法は使いたくないんだけどなぁ……」
今生の世界の魔法はあまりに退化してしまっているため、俺が素で魔法を使えば驚かれることは避けられないのだ。エレンガル学園でもかなり手を抜かないといけない状況である。
俺が今から発動しようとしている魔法は探知魔法といって、その辺に落ちていた狐人の毛の魔力を逆手に取り主を探す魔法である。
襲撃からまだそれほど時間は経っていないはずだし、探査範囲の問題はない。
探知魔法を発動し、狐人族の位置を特定する。方角と距離を把握し、狐人族がいると思われる方向に目をやる。
「じゃ、行くぞアイリス。残された狐人がどこに行ったか分かった」
「流石アレク様ですっ!」
思考力が格段に落ちているアイリスに今は感謝しつつ、アイリスのスピードに合わせて森を進んでいった。
最後までお読みいただきありがとうございました!もし「面白い」「続きが気になる!」と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】と、評価の【☆☆☆☆☆】をポチッと押して応援していただけると、執筆の凄まじい励みになります!




