アイリス・オーネンとの出会い
薬草採取にやってきた俺は、オークに襲われている狐人族を発見し助けたところだ。本来であれば助けてやる義理はないわけだが……世界平和を掲げる身としては何もせずにはいられなかった。
それより、狐人族は本来人間とは相いれない。人間の住処からはるか遠くに住んでおり、その姿を見ることは一生に一度もないと言われているほどなのだ。
「とにかく回復魔法はかけるが……酷い怪我だな」
オークにやられただけとは説明がつかないような切り傷まである。ともなると狐人族の集落が何者かに襲撃されているかこの子自身の問題という事になるだろう。
回復魔法においては聖女であるイリスの方が上を行く可能性はあるが今現在はまだ俺の方が練度は上だ。
「ん、うぅ……」
倒れていた狐人族はパチリと目を開けてゆっくりと起き上がった。その過程で俺の事が視界に入ったのか勢いよく起き上がると全力で威嚇してくる。
「お前は誰だ⁉ここで何をしている⁉」
これだから狐人族は面倒くさい、と心の中で悪態をつきながらも丁寧に名乗ることにした。
「俺はアレク・グレンハルト。薬草採取の途中に君がオークに襲われていたから手を貸しただけだよ。別に恩を着せようとかは微塵も思ってないから安心しなよ」
信じ切れていないのか目の前の狐人族はじいっと黄金の瞳でこちらを見つめてきている。
別に信頼されないのは構わないが、ここまで嫌悪感をむき出しにされると少々腹が立ってくる。
「それで、こっちからも聞きたいことがある。何故狐人族が王都近くにいる?お前らの住処はもっと遠くにあるはずだ。それにお前の身体にあった切り傷、オーガでは付けられないものだ。それに子供とはいえ狐人族がオーク如きに負けるとは思えないし……一体誰と戦っていたんだ?」
「……まずは助けていただいてありがとうございます。私はアイリス・オーネン、族長の一人娘です」
狐人族族長の一人娘……族の重鎮だ。そんな者を人間の集落付近に追いやるわけがないし旅させるのも許可しないだろう。
それに狐人族ともなればそれなりに実力はある。いくら実力の弱まった世の中とはいえオーク3体如きにやられる玉でもなかろう。
恐らく何者かに襲撃され、その時に出来た切り傷によってオーク相手にも苦戦した……そんなところだろう。
「私たち狐人族はいつものように生活していたんです。ご存じの通り私たちは並の魔物相手に負けることはありません。もちろん人間相手にも同じことが言えます。……なのに、あの時の男は私たちを凌駕する力を身に着けていて……!お願いです!私たち一族を救ってはくれないでしょうか⁉」
心底悔しそうに、唇を噛んだままアイリスは俺に頼み込んだ。人間を嫌う彼女にとって、俺を頼るなど死んでもしたくない行為だったに違いない。
しかし彼女では絶対に敵わない相手だと悟り、周りに協力を求めた。それは人間である必要はなかっただろうが、必死に逃げている内にここまでたどり着いて俺に出会ったのだろう。
オークに襲われていた記憶はあるのか、そのオーク3体を難なく無傷で討伐した俺の実力を買ってくれたのだろう。
「ふむ、狐人族でも敵わぬ男か……面白いな。良いだろう、その男の元まで案内してくれ」
ニヤリと微笑みさらっと了承するとアイリスはぽかんと口を開けていた。そりゃ、族の中で悪く言われていた人間がこうも協力的だと疑問に思ってしまうのも無理はない。
見返りがどうのこうのと考えていそうなアイリスだが、生憎とこれっぽっちも興味がない。
俺が生きてきた中で狐人族と真面にやりあえ、ましてや圧倒的にぶちのめせる存在などそういない。だからこそ気になるのだ。一体どのような存在が狐人族を追い込んでいるのか。
その男は果たして人間なのか。どうやってその力を手にしたのか。
——俺のように転生した人間なのか。
※
「ここが一族の集落です。さっきまでは沢山の狐人で溢れていたのですが……あの男のせいで」
「なるほど……大体は理解した」
男が使ったと思われるのは風魔法。魔力を大量に込めて放出することで狐人でも耐えられないほどの威力と鋭さの斬撃を無数に繰り出したのだろう。
他にも何か交戦した末に放ったのかもしれないが、この土地の無造作な傷の付き方からして風魔法を使ったのはまず間違いない。
「それで、その男はどこに?」
「恐らく……まだこの村に留まっているかと。私を襲った後も、あの男はこの村を物色するように見て回っていましたから」
狐人族の集落を漁る、か。衝動的な行動ではなく何か目的があっての事かもしれない。
しかし考えるだけでは答えにはたどり着けない。分からないことは聞くに限るのだ、他でもない襲撃者本人に。
「だから……吐いてもらうよ。岩場の陰でコソコソとこちらを伺っている臆病者の襲撃者様にさ」
「え……⁉」
俺が言葉を吐くと、岩場に隠れていたガタイの言い男が出てくる。装備はフルで固めてあり、その気迫からは並の冒険者では敵わない風貌を感じさせていた。
「なんだバレてたのか。だがおめぇはいい仕事をしてくれた。そいつは特別だからなぁ……確保しないと怒られちまうんだよ」
特別という単語に少しばかり引っかかるが、こいつの口ぶりから察するにこの男は誰かに依頼されて狐人族を襲ったのだろう。
こういう場合、この男には目的を明かさず雇うことが多いんだろうが、特別という言葉を使うくらいなので事情を把握していると考えていいだろう。
「さぁ、さっさとその女を渡せ。さもなくばテメェの命はねえぞ」
「そうやって脅して……まるで三下だね。お前のような男を雇う奴が奇妙で仕方ないよ」
「テメェ……あんまり舐めてると痛い目見るぞ?俺様の力をその女から聞いてねえわけがねえ」
「あぁ、狐人族程度に圧勝したくらいで調子に乗ってるんだ?だったら……格の違いってのを見せてあげないと」
それに、俺は今生では実力をなるべくセーブしないといけないのだ。あまりに逸脱した実力は周囲から距離を置かれて目的を失敗しかねない。
距離を置かれるとしても然るべき時然るべきタイミングでだ。
だからこの男で力の押さえ方を完璧にするとしよう。幸いにもこの男はただの雑魚ではなさそうだし、良い実験になる。
「簡単に壊れてくれるなよ?」
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