冒険者ギルドと薬草採取
剣術訓練の後は適当に座学をこなして解散になった。どうやら座学で大賢者についての講義があったらしいが、反応が微妙だったので聞くのはやめておいた。
過去の自分が悪く言われていたりすれば流石の俺でも少しばかり傷ついてしまうものなのだから。
エレンガル学園を離れた俺はある目的を叶えるため王都のとある場所にやってきていた。
昼間っから酒を飲んでいる奴がいて、喧騒で騒がしい奴らがたむろしている場所……前に一度セレナと共に訪れた冒険者ギルドだ。
「ようこそ冒険者ギルドへ。ご用件はなんでしょうか?」
「新規登録をお願いしたい。それと依頼も適当に見繕ってくれ」
「かしこまりました。こちらに必要事項を記入してお待ちください」
受付嬢は記入用紙を出し、最低ランクから始める俺の依頼を見繕うためこの場を離れる。残された俺は出された紙に必要事項を記入していく。
「名前は……アレクだけにしとくか。家名入れると面倒ごとに巻き込まれそうだし。で、やっぱ問題はこれだよなぁ……」
俺が記入において悩んでいる欄はたった1つ。騎士か魔法使いかの二択だ。
剣聖時代はこんなことは聞かれなかったし、あの頃は魔法を使う気などさらさらなかったので騎士一択だったのだが……今生はそれといって決めていることはない。
エレンガル学園学年首席と明かしてしまえばひとまず今は面倒ごとを回避できそうなものだが、今後面倒ごとに巻き込まれるかもしれない。
「何か分からない事でもございましたか?」
依頼を見繕ってきた受付嬢が、記入で悩んでいる俺を見て声をかけてくる。正直に答えたところで子供の戯言と判断されるかもしれない。
ただ今の時代、魔法が廃れすぎているという問題があるため魔法使いを選択して妙に疑われるのは避けたいところだ。
「いえ、単に騎士か魔法使いか悩んでいて。俺自身はどちらも変わらないくらいだと判断しているんだけど」
「でしたらどちらでも構いませんよ。そちらの項目は、ギルドでの緊急クエストの際に配置決めの判断材料とさせてもらうだけですので」
俺はギルドのそんなルールを知らなかったので悩んでいてしまったが、どうやら元々悩まなくても良かったようだ。ギルドの緊急クエストもそこまで身構える必要もないだろう。
俺は騎士の方に丸を付け受付嬢に提出した。ギルドカードを作るため受付嬢は少しだけ奥で作業し、俺に手渡してくれた。
「こちらがギルドカードになります。依頼を受ける際は必ずご提示頂くので紛失しないように。それではアレク君はEランクからのスタートになります。依頼達成数や難易度によってランクは上昇し、受けられる以来の数も増えていきますので頑張ってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
にこりと微笑みながら説明してくれる受付嬢に感謝を述べつつ、見繕ってくれた依頼書に目を通そうとしたとき、ふと何かを思い出したかのように受付嬢は口を開いた。
「あっ!アレク君のような子供は気にしなくても良いかもしれないけど、AランクからSランクに上がるには竜を一匹討伐しないといけないから、Sランク冒険者は全国で見ても数人しかいないんです。ただがむしゃらに依頼をこなしていてもランクが上がるとは限りませんのでご了承ください」
「竜を一匹……ですか」
「そうなんです!凄いですよね、まるでかつての英雄、いえ剣聖様のような話です!」
俺が冒険者をやっていたころ、Sランク冒険者になるためには竜種を計十匹は討伐しなければいけなかった。魔物研究をしていた前世でも竜は狩っていたが冒険者ではなかったし、条件が変わっているなど知る由もなかったのだ。
それにしても俺が英雄と同程度に並んでいるのをいざ確認すれば承認欲求が満たされていく。
当時の俺は竜相手に剣術のみで挑んだため、かなり苦戦を強いられた覚えがある。しかし前世で竜を狩った時は魔法ありとはいえあまりに簡単だった。
人類が弱くなったのは、魔物が弱くなって強くなる必要がなくなったからかもしれない。少なくとも王国ではそうなのだろう。
そう考えてみると……これほど長く転生を繰り返して未だ王国以外で産まれたことがない気がする。王国以外の共和国や公国だとアテナではなく別の女神を信仰しているらしく祝福も別の女神によって授けられていると聞く。
あとでアテナにその辺の話を聞いてみても面白いかもしれない、そんな考えを抱きながら受付嬢が見繕ってきた依頼書に目を通す。
「薬草採取か……いかにも駆け出しの冒険者の依頼だな」
「えぇ、ですがこういった仕事も冒険者にとっては重要なのです。道中何があるか分かりませんし長期間の調査依頼であれば自分で採取する必要があります。ですので薬草採取だからと言って気を抜かず挑んでくださいね!」
「分かりました」
いい見解を示すものだ、この受付嬢は。——クレアか、彼女はきっと良い受付嬢になるだろう。
※
「それにしても、やっぱり森は良いな。前世と前前世では一生森で魔物の研究をしてたけど……生態系は変わったのやら」
適当に依頼された薬草を採取しながらぼんやりと呟く。あの頃は魔物の研究結果を公開して魔物の氾濫に最も貢献したとか言われて勲章を授与されたんだっけか。
あの頃と変わっていないのであればギルドも簡単に依頼をこなせると思うが、魔物の生態系はかなり変化しやすい。竜の数が減ったのが顕著な例だ。
それにしても、魔物討伐に比べて薬草採取は簡単で助かる。結界を張って魔物を近づかせられなくしたところで風魔法で採取すればいいだけなのだから。
といっても、空間収納は使ったら変に目立ってしまいそうなので使わないでおく。使うとしても俺がAランク冒険者になってからが好ましい。
「手っ取り早くSランク冒険者になりたいものだが……まだ駆け出しだから依頼を爆速でこなすしかない、か」
のんびりと薬草を採取していると、遠くの方で誰かの悲鳴がけたたましく響いた。まるで何かに怯えているようで、今にも死にそうな声だ。
「きゃぁぁぁぁぁぁ‼」
「……誰かが魔物に襲われている、か。どうしたものか……助けても俺に何かメリットはなさそうだし放置一択な気もするが」
俺の目的は世界平和だ。だがその道は決して平和に導けば良いものでもない。誰彼構わず救っていればキリがないし目的に遠ざかる場合もある。
『君は優しいからね~、こうでもしないと誰も君と関わることなく生を終えてしまう。そんなのは悲しいじゃん?』
この前神域を訪れた際のアテナの言葉が頭に響く。今生で終わらせるのならとイリスを俺に接触させてきたあのお節介な女神の顔を思い出す。
「はぁ……ほんと、これだから誰かと関わると嫌なんだ。ぶれそうになっちまうだろ」
すぐに地を蹴り、音のした方に向かう。そこにはオーク三体と奴らの視界の先で死にかけの狐人族の娘がいた。
何故こんなところに狐人族がいるのかはさておき、早くオークを討伐して傷を塞がないと間に合わなくなる。
幸か不幸か彼女は死にかけの状態であり、俺が何をしても観測不可能だ。
「それじゃ、醜いオークくんはさようなら」
氷柱を生成し、オークの魔核部分を貫いた。氷は解けるので魔法によって討伐されたと推測されるのを避けることができ、なにより俺は騎士なので疑われることはない。
「いや、これは俺が討伐したって言えばランクを上げてもらえるかもしれないな……」
ぶつぶつと呟きながら、俺は狐人族を癒すために近づいていった。
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