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【癒やし】蒼龍くん物語 〜小さな龍と学ぶ、心を調えるための「禅の智慧」〜  作者: 蒼龍寺 佐藤堅明
第1章:気づきの門(第1〜12話)

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第4話:一番大切なのは、今ここ。自分を見つめる「脚下照顧」

こんにちは、佐藤堅明です。


少しずつ修行の成果が出てくると、ついつい「もっと遠くへ、もっと高く」と心が急いでしまうものです。 でも、そんな時こそ、ふと立ち止まって確認すべき場所があります。


今日の蒼龍くんは、玄龍さまからどんな「忘れ物」を指摘されるのでしょうか。

「日々是好日」「平常心」「知足」と大切な教えを学んできた蒼龍くんは、近頃、少しばかり自信を持ち始めていました。

(ふふん。今の僕は、もう立派な修行者だ。怠け心にも勝てるし、小さな幸せにも気づける。……うん、完璧だ!)


彼は、自分の成長を遠くの山にいる玄龍さまに認めてもらうことを目標に、空を飛ぶ練習に明け暮れていました。

「もっと遠くへ! もっと速く!」

蒼龍くんは高い空を見上げ、遥か彼方の山頂ばかりを見つめて、力いっぱいに羽ばたきます。


ある夕暮れ時、練習を終えた蒼龍くんが草原に戻ってくると、ピィとキューがひそひそと話しているのが聞こえてきました。

「ねえ、蒼龍くん、最近ちょっと……足元が疎かじゃない?」

「うん。この前も、川の水を飲むときに石に躓いて、顔から転びそうになってたよ」


それを聞いて、蒼龍くんはカチンときました。

「僕が躓くなんて、そんなはずないよ! 僕は今、最高に高度な修行をしているんだ。君たちには分からないかな?」


翌日、蒼龍くんは自分の実力を見せつけるように、今までで一番速く、一番遠くまで飛んでみせました。そして得意げに草原へ舞い降り、二人へ言い放ちました。

「どうだい! 誰よりも遠くまで行っただろう。僕の修行に、抜かりなんてないのさ!」


しかし、ピィとキューは感心するどころか、心配そうに顔を見合わせるばかりです。

そのとき、静かに歩み寄ってきた玄龍さまが、蒼龍くんの姿を見て言いました。

「蒼龍……。おまえのその足元を、よく見てごらん」


蒼龍くんは(なんだろう?)と首をかしげながら、言われた通り自分の足元を見下ろしました。

すると、どうでしょう。

自慢の青い足の裏や爪の間には、いつの間にか、ぬるぬるとした黒い泥やゴミがびっしりと詰まっていたのです。さらに、自分が着地した場所をよく見ると、飛ぶことだけに夢中になっていたせいで、草原の小さな花々を踏み荒らし、何輪もなぎ倒してしまっていました。


蒼龍くんは、血の気が引くのを感じました。

「遠くの空、遥かな悟り、未来の成果……。そんなものばかりを追い求めて、目の前の『今』を疎かにしてはいけない」

玄龍さまの言葉が、静かに草原に響きます。

「『脚下照顧(きゃっかしょうこ)』とはのう。まず、おまえ自身の足元を、深く照らし見よという教えじゃ。おまえの足が汚れていないか。おまえが立っている場所で、誰かを傷つけていないか」


遠くの山頂ばかりを見て、自分が泥を素通りしていることにも、足元の花を泣かせていることにも気づかなかった――。

「本当の心を磨く」と言いながら、一番近くにある自分の振る舞いが見えていなかった恥ずかしさに、蒼龍くんは顔を真っ赤にしました。


彼はすぐさま川へ行き、冷たい水で丁寧に、丁寧に泥を洗い落としました。それから草原に戻り、倒れた花を一輪ずつ、指先でそっと起こしてあげました。

「ごめんなさい……。僕は、遠くばかり見て、『今、ここにいる自分』を見るのを忘れていたよ」


玄龍さまは、そんな蒼龍くんの背中を優しく撫でました。

「そうじゃ。大きなことを成し遂げようとする前に、まずは脱いだ靴を揃え、身だしなみを整え、目の前の小さな仕事を丁寧にこなすこと。足元を清めることが、そのままおまえの心を清めることになる。それが結果として、より強く、より遠くへ飛ぶ力になるのじゃよ」


足元を照らし、心を整えた蒼龍くん。

彼は、遠い山頂を目指す前に、まずは一歩一歩、踏みしめる地面を大切にすること。それこそが最も大切な修行なのだと、深く胸に刻んだのでした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


「脚下照顧(きゃっかしょうこ)」。 玄関に「履物を揃えましょう」という掲示と一緒にこの言葉が書かれているのを、見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。


遠い理想や大きな目標を追いかけるのは素晴らしいことです。 しかし、そのために今、目の前にある仕事や、身の回りの整頓、近くにいる人への配慮が疎かになってはいないでしょうか。


足元を揃えることは、心を整えること。 私も日々、自分の足元が泥だらけになっていないか、蒼龍くんと一緒に照らし見直していきたいと思っています。


次回の蒼龍くんは、あれもこれもと準備ばかりを重ねてしまい、結局何もできなくなってしまうお話です。


佐藤堅明


※本作は現在、「曹洞宗 蒼龍寺」のFacebookでも同時連載中ですが、こちらの『なろう』版ではより読みやすく整えてお届けしています。まずはFacebookの最新話に追いつくまで、毎日更新を続けてまいりますので、楽しみにお待ちください。


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