第3話:幸せは「苺のひとくち」に。足るを知る心の魔法
こんにちは、佐藤堅明です。
本日の「一挙三話公開」の最後となるお話をお届けします。
誰かと自分を比べて、心がざわついてしまうことはありませんか?
欲しかったものを手に入れても、すぐにまた次が欲しくなる……。 そんな「心の渇き」を癒やすヒントを、蒼龍くんと一緒に見つけていただければ幸いです。
「平常心」を学んだ蒼龍くんは、穏やかな気持ちで、草原の修行を続けていました。
ある日、村の子供たちが、ピィやキューと一緒に宝物自慢をしていました。
「見て! 私のドングリは、誰のよりも大きくてピカピカよ!」
「僕の羽根は、虹色に光る珍しい鳥の羽根さ!」
ピィとキューも、美味しそうな木の実を山盛りにした籠を見せて、得意げに胸を張っています。
蒼龍くんは、ふと自分の足元を見ました。そこには、小さな花が一輪。手元には、摘んだばかりの小さな野苺が一つあるだけでした。
(みんな、あんなに立派なものを持っている……)
急に、自分の手がひどく寂しいものに見えてきました。
(僕も、もっと大きくて、ピカピカ光るものがあればな。例えば、海の底にあるっていう伝説の『龍の宝玉』みたいな……。あれがあれば、みんなに尊敬されるのに)
一度「ないもの」を数え始めると、胸の奥に小さな穴が開いたような、落ち着かない気持ちになりました。
そのとき、街道を一台の立派な馬車が通りかかりました。乗っていたのは、きらびやかな服を着た商人の男です。
「やれやれ、これだけ稼いでも、まだ足りん。あっちの村の市場も手に入れねば……」
商人は、宝石のついた指輪でいっぱいの掌で、ひっきりなしに額の汗を拭っています。川のほとりで休むその顔は、驚くほど疲れ切り、ちっとも幸せそうには見えませんでした。
村の子の一人が、不思議そうに商人に聞きました。
「おじさん、そんなにたくさん宝物を持っているのに、どうしてそんなに怖い顔をしてるの?」
商人は吐き捨てるように言いました。
「足りないんだよ。持っても、持っても、次はもっと欲しくなる。心がちっとも休まらんのだ」
その言葉を聞いた瞬間、蒼龍くんは指先にチクリとした痛みを感じました。
握りしめていた野苺のツブツブの感触。
見つめると、それは午後の光を浴びて、どんなルビーよりも深い赤色に輝いていました。鼻を近づければ、甘酸っぱい香りがふわりと鼻腔をくすぐります。
(……あぁ、僕は今、このおじさんと同じ顔をしていたかもしれない)
蒼龍くんは、そっと自分の周りを見渡しました。
力強く羽ばたける自分の翼。背中を温めてくれる太陽。どこまでも続く緑の草原。喉を潤してくれる清らかな水。そして、騒がしくも愛おしい友達の声。
蒼龍くんは、小さな野苺を、大切に口へ運びました。
「……ん! 甘い!」
一粒の果汁が口いっぱいに弾けた瞬間、胸の開いていた穴が、じんわりと温かいもので満たされていくのが分かりました。
「蒼龍よ。何を見つけた?」
いつの間にかそばに立っていた玄龍さまが、穏やかに問いかけました。
「玄龍さま……。僕、ずっと遠くの宝物ばかり探していました。でも、この苺ひとつに、お日様の味も、雨の恵みも、全部詰まっていることに気づいたんです」
玄龍さまは満足そうに目を細めました。
「それが『知足』じゃ。外にある大きなものを追い求めることではない。すでに満たされている自分の中の豊かさに気づき、今あるものに心から感謝すること。それに気づいたおまえの心は、商人の抱えるどんな財宝よりも、ずっと豊かで重みがあるはずじゃよ」
蒼龍くんは、足元の一輪の花を愛おしそうに見つめました。
「僕は、もうすでに、こんなにたくさん持っていたんですね。ありがとう」
真の豊かさとは、たくさん持つことではなく、「足るを知る」という心の中にあること。
その日、蒼龍くんの笑顔は、草原に咲くどの花よりも、そして伝説の宝玉よりも、まばゆく光り輝いていました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
禅の言葉に「知足」という教えがあります。
文字通り「足るを知る」ということですが、これは「我慢する」ということではありません。
私たちがすでに持っている「当たり前」の中にある豊かさに気づき、感謝する。 すると、不思議なことに外側へ何かを求めなくても、心は自然と満たされていきます。
今、あなたの目の前にある小さな幸せは何ですか?
また三話連続でお付き合いいただいた方には、更なる愛心より感謝申し上げます。
蒼龍くんの物語は、現在私が書いている最新話に追いつくまで、明日からも【毎日19時頃】に一話ずつお届けしていく予定です。
ぜひブックマークをして、蒼龍くんと一緒に心の修行の旅を続けていただければ嬉しいです。
また明日、この場所でお会いしましょう。
次回の蒼龍くんは、ついつい遠くばかり見て足元が疎かになってしまったお話です。
合掌
佐藤堅明
※本作は現在、「曹洞宗 蒼龍寺」のFacebookでも同時連載中ですが、こちらの『なろう』版ではより読みやすく整えてお届けしています。まずはFacebookの最新話に追いつくまで、毎日更新を続けてまいりますので、楽しみにお待ちください。
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