第2話:特別な力はいらない? 蒼龍くんと「平常心」の教え
こんにちは、佐藤堅明です。
第1話へのアクセス、ありがとうございました。
誰だって「特別な自分」になりたいと思うもの。
でも、いざという時に私たちを助けてくれるのは、実は「いつもの自分」だったりします。
第2話は、そんな「平常心」の不思議についてのお話です。
前回の話しから数日、蒼龍くんは花畑で、玄龍さまから教わった呼吸法を実践していました。
「すぅー、はぁー。すぅー、はぁー。」
小さな黄色い鳥のピィと、もう一羽のキューが、蒼龍くんの周りで練習を見守っています。
「蒼龍くん、すごい集中力だね!まるで動かない石みたいだよ」と、ピィが感心して言いました。
蒼龍くんは少し得意げに鼻を鳴らしました。
「ふふん。これこそ修行だよ。どんな時でも慌てないように、特別な集中力を身につけているんだ!」
その時、遠くの森から、「ドオォォン!」という、聞いたことのない大きな音が響きました。
キューが慌てて飛び上がります。「な、何? 何が起こったの? すごく大きな音だよ!」
ピィも震えています。「た、大変だ! 蒼龍くん、早くあの特別な集中力で、何が起こったか見てきてよ!」
蒼龍くんも、突然の音に心臓がドキドキしました。
「ええと、特別……な……。そうだ、特別な集中力を使わなきゃ! 目を閉じて、心を落ち着けて……」
そうしている間にも、森の方から土砂崩れのような、ガサガサという音が近づいてきます。
蒼龍くんはギュッと目を閉じました。
「落ち着け、落ち着け……修行の成果を見せるんだ」
唱えれば唱えるほど、まぶたの裏は真っ赤に火照り、心臓は早鐘のように暴れだします。
(すぅー、はぁー……あ、あれ? どうやるんだっけ?)
覚えたはずの呼吸法が、砂のように指の間からこぼれ落ちていきます。不気味な足音は、もうすぐそこまで迫っていました。
パニックになりかけた蒼龍くんに、玄龍さまの声が聞こえてきました。
玄龍さまは森の方からゆっくりと歩いてきて、その足元には、ドングリをたくさん抱えすぎて転んでしまった一匹のリスがいました。
「蒼龍よ。一体何を慌てておる?」
「玄龍さま! あの、その、大きな音と、急な出来事で、特別な心が……」
玄龍さまはリスを助け起こしながら、優しく言いました。
「蒼龍よ、よく見てごらん。森の中を流れる、あの小さな川の水を」
蒼龍くんが目をやると、いつもの小さな川が、慌てることなく、ただ静かに、岩や草を避けながら流れていました。
「あの水は、急に大きな岩が現れても、特別な力を出して飛び越えようとはしない。ただ、いつもの流れで、その岩をそっと避けて、また静かに流れるだけじゃ」
玄龍さまは、ひっくり返ったリスの背中を優しく撫でながら、蒼龍くんに手招きをしました。
「蒼龍よ。あそこの川の音を聞いてごらん。……何か、いつもと違うか?」
蒼龍くんは耳を澄ませました。大きな音がしたあとも、川は「ちょろちょろ」と、いつも通りの呑気な歌を歌っていました。岩にぶつかれば形を変え、また何事もなかったように流れていく。
「いいえ。……いつも通りです」
「そうじゃ。川は、岩をどかそうと力んだりはせん。いつものまま、ただ流れる。修行も同じ。特別な自分になろうと力むから、足元のドングリにも気づかんのじゃ。それが『平常心是道』じゃよ」
蒼龍くんは、自分の肩がガチガチに上がっていたことに、ようやく気がつきました。ふう、と息を吐くと、驚くほどスッと体が軽くなりました。
大きな音の正体は、ドングリを抱えたリスが転んだ音。その場で深呼吸をし、いつもの穏やかな心で森を見れば、すぐに分かったことでした。
蒼龍くんは、肩の力を抜いて、いつもの優しい笑顔に戻りました。
「ありがとう、玄龍さま。僕は、特別な龍になろうとするんじゃなくて、いつもの僕でいればいいんだね」
川の水のように、自然体で、無理せず、静かに。
蒼龍くんは、その日から、どんな出来事に出会っても、焦って特別な力を探すことをやめました。いつもの「ありがとう」の心と、目の前の最善を尽くす努力。それこそが、どんな時でも揺るがない、悟りの道だと分かったからです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「平常心是道」。 禅の世界では、特別な修行で得られる特殊な心ではなく、私たちが日々、感謝して最善を尽くしている「いつもの心」こそが、真実の道であると説いています。
焦ったとき、パニックになりそうなとき。 どこか遠くに答えを探すのではなく、まずはふぅーっと一呼吸して、いつもの自分に戻ってみてください。
次回の蒼龍くんは、スピンオフでも登場する欲深い商人と出会います。
合掌
佐藤堅明
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