第1話:怠け者の龍の子と、泥まみれの「日々是好日」
こんにちは、現役曹洞宗僧侶の佐藤堅明です。
第1話は、誰もが一度は聞いたことがある禅語『日々是好日』についてのお話です。
今日という一日を、あなたにとっての『宝物』に変えるきっかけを、蒼龍くんの姿を通して見つけていただければ幸いです。
本日、第3話まで一挙公開しております。蒼龍くんの成長をぜひ続けてお楽しみください。
むかしむかし、とはいっても、ごく最近のこと。
人里離れた深い山奥に、青い体を持ち、まだ角の小さい愛らしい龍の子が住んでいました。
その名は――蒼龍。
彼は玄龍さまという偉大な師匠のもとで、一人前の龍になるために、日々心の修行に励んでいました。
そんな蒼龍くんは、いつも優しく微笑んでいるけれど、実はちょっぴり怠け者。
空に浮かんだ太陽と、地面に咲く花に囲まれた、この心地よい草原が大好きで、ゴロゴロしているのが日課でした。
蒼龍くんの修行の師は、お山に住む、大きな白い玄龍さま。
玄龍さまは蒼龍くんに、生きる上で最も大切な教えを授けていました。
それは、草原の地面に太い筆で書かれた文字、『日々是好日』という言葉です。
ある日のこと。蒼龍くんは、空を飛ぶ修行をサボって、また花畑で寝転んでいました。
「ふう。昨日も飛んだし、今日は休息の日だよね」
そうつぶやいていると、二羽の小さな黄色い小鳥が、慌てた様子で蒼龍くんの周りを飛び回りました。
「蒼龍くん、大変! 大変だよ!」
「どうかしたの?」
「あそこの村の子が、川で流されそうな子犬を助けようとして、自分まで困っているんだ!」
蒼龍くんは一瞬、ためらいました。「うーん、飛んでいくのは面倒だな。でも…」
彼はハッと地面の文字を見ました。「日々是好日」。
「今日は、怠けたい日。でも、困っている人がいる。今日という一日が、本当に『良い日』になるかどうかは、僕の今の行動にかかっているんじゃないかな?」
そう思った蒼龍くんは、重い腰を上げ、全力で羽ばたきました。
川に着くと、村の子は流れの速さに足を取られ、子犬を抱えて泣いています。
蒼龍くんは迷わず川に飛び込みました。
まだ未熟な飛行術のおかげで、着水は少し乱暴でしたが、その青い体はすぐに一人と一匹を抱きかかえ、岸辺に運びました。
「ありがとう! 蒼龍くん!」
村の子は涙をぬぐい、心から感謝の気持ちを伝えてくれました。
子犬もペロペロと蒼龍くんの濡れた顔を舐めます。
助けた帰り道、蒼龍くんの体は泥まみれで、羽はクタクタ。空も少し曇ってきました。
「今日、僕は怠けず、精一杯動いた。でも、体は疲れたし、天気も悪い。これは『好日』なのかな?」
疑問を抱えたまま、蒼龍くんは玄龍さまのもとへ向かいました。
玄龍さまは、泥で重くなった蒼龍くんの羽をじっと見つめ、静かに問いかけました。
「蒼龍よ。泥にまみれ、羽はクタクタ。空も曇っておる。おまえにとって、今は『最悪な日』か?」
蒼龍くんは、汚れを拭おうとして……ふと手を止めました。
「いいえ。不思議です。あの子の『ありがとう』を思い出すと、この泥の重ささえ、なんだか誇らしいような気がするんです」
玄龍さまは、満足そうに頷きました。
「その感覚を忘れるな。晴れた日だけが好日なのではない。泥の重さを、宝物だと思える心。その心ひとつで、今日という日は、二度と戻らぬ黄金の一日に変わるのじゃよ。」
蒼龍くんは、自分の胸の奥が、夕焼けよりも赤く、温かくなるのを感じていました。
彼は再び花畑に戻り、地面の文字を見つめました。太陽が再び顔を出し、彼を優しく照らします。
「そうか。晴れだけが好日じゃない。泥だらけの今日だって、僕の大切な宝物なんだ」
蒼龍くんは、その日から、曇りの日も、雨の日も、怠けたい衝動が湧いた日も、小さな体に力を込め、最善を尽くすことを誓いました。
そして、彼の心の中には、いつも太陽のように温かい感謝の気持ちが輝き続けています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
私たちはつい、晴れの日や嬉しいことがあった日だけを「良い日」だと思ってしまいがちです。けれど、思うようにいかない日も、泥にまみれてヘトヘトになった日も、その瞬間の自分にできる最善を尽くせたなら、それはもう、かけがえのない「好日」なのです。
今日のあなたの空がたとえ曇っていたとしても、その歩みは決して無駄ではありません。
蒼龍くんの物語を通して、皆様の心に穏やかな風が吹くことを願っております。
次回の蒼龍くんは心を落ち着けることの大切さを痛感するお話です。
合掌
佐藤堅明
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