第4話:一番大切なのは、今ここ。自分を見つめる「脚下照顧」
こんにちは、佐藤堅明です。
少しずつ修行の成果が出てくると、ついつい「もっと遠くへ、もっと高く」と心が急いでしまうものです。 でも、そんな時こそ、ふと立ち止まって確認すべき場所があります。
今日の蒼龍くんは、玄龍さまからどんな「忘れ物」を指摘されるのでしょうか。
「日々是好日」「平常心是道」「知足」と、大切な教えを学んできた蒼龍くんは、最近少し自信を持ち始めていました。
(うん、僕はもう立派な修行者だ。怠け心を追い払い、どんな時も平常心でいられる。周りの恵みにも感謝できる!)
彼は、自分の修行の成果を、今は遠くの山にいる玄龍さまに見てもらうことを目標に、日々、空を飛ぶ練習に励んでいました。
「もっと遠くへ!もっと速く!」
蒼龍くんは空を見上げ、遥か遠くの頂上ばかりを見て、力いっぱいに羽ばたきます。
ある夕暮れ時、蒼龍くんは練習を終えて、いつもの花畑に戻ってきました。ふと、ピィとキューが、彼の周りを飛び回りながら、ひそひそ話しているのが聞こえました。
「ねえ、蒼龍くん、最近ちょっとおっちょこちょいじゃない?」
「うん。この前、川の水を飲むとき、危うく顔から転びそうになってたよ。」
蒼龍くんは、それを聞いて、カチンときました。
「僕が、おっちょこちょい? そんなはずないよ!僕は、最高の修行をしているんだ!」
翌日、蒼龍くんはあえて、一番速く、遠くへ飛ぶ練習をしました。そして得意げに花畑に戻り、ピィとキューに言いました。
「どうだ! 遠くまで行っただろう!僕の修行に、抜かりなんてないさ!」
しかし、ピィとキューは首をかしげるばかり。
そのとき、通りかかった玄龍さまが、蒼龍くんの姿を見て、静かに言いました。
「蒼龍よ、おまえのその足元を、よく見てごらん。」
蒼龍くんは言われた通り、自分の足元を見下ろしました。
すると、彼の小さな足の裏や爪の間に、昨日川へ行った時の、泥や小さなゴミがたくさん詰まって汚れていることに気づきました。さらに、足を着地させた周りの地面には、彼が飛ぶことばかりに夢中になっていたせいで、踏み荒らされた小さな草や花が、何輪か倒れてしまっています。
蒼龍くんはハッとしました。玄龍さまは続けます。
「遠くの空、遥かな悟り、未来の成果ばかりを追い求めて、目の前の『今』を疎かにしてはいけない。」
「『脚下照顧』とはのう。まず、おまえ自身の足元を、深く照らし見よ、という教えじゃ。おまえの足が汚れていないか、おまえが立っている場所は荒れていないか。」
遠くの目標ばかりに気を取られて、足元が汚れていても気づかない。自分の行動で周りを傷つけていることにも気づかない。それは、本当に心を磨けていると言えるのだろうか?
蒼龍くんは顔を赤くし、すぐさま川へ行き、丁寧に足の泥を洗い落としました。そして、倒れた花をそっと起こしてあげました。
「ごめんなさい。僕は、大きな目標ばかり見て、『今、ここにある自分』を見つめることを忘れていたよ。」
玄龍さまは微笑みました。
「そうじゃ。大きなことを成し遂げようとする前に、まずは自分の身だしなみや、目の前のやるべきことを丁寧にこなすこと。それが、おまえの心の中の乱れを正し、結果として、より強く、より遠くへ飛ぶ力につながるのじゃよ。」
足元を照らし、心を清めた蒼龍くんは、遠い空の目標ではなく、「今、目の前の最善」を尽くすことこそが、最も大切な修行だと改めて悟ったのでした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「脚下照顧」。 玄関に「履物を揃えましょう」という掲示と一緒にこの言葉が書かれているのを、見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。
遠い理想や大きな目標を追いかけるのは素晴らしいことです。 しかし、そのために今、目の前にある仕事や、身の回りの整頓、近くにいる人への配慮が疎かになってはいないでしょうか。
足元を揃えることは、心を整えること。 私も日々、自分の足元が泥だらけになっていないか、蒼龍くんと一緒に照らし見直していきたいと思っています。
次回の蒼龍くんは、あれもこれもと準備ばかりを重ねてしまい、結局何もできなくなってしまうお話です。
佐藤堅明
※本作は現在、「曹洞宗 蒼龍寺」のFacebookでも同時連載中ですが、こちらの『なろう』版ではより読みやすく整えてお届けしています。まずはFacebookの最新話に追いつくまで、毎日更新を続けてまいりますので、楽しみにお待ちください。
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