第32話:静寂の底へ。蒼龍くんと「大安心」の深海
外の世界でトラブルが起きたり、強いプレッシャーを感じたりすると、私たちの心は波立ち、パニックになってしまいます。
魔王・黒龍に打ち砕かれ、恐怖に震えた蒼龍くん。 彼は師の教えに従い、光の届かない凍てつく深海へと潜ります。 そこで彼が見つけたのは、どんな嵐も届かない「究極の静寂」でした。
黒龍に敗れ、一度は洞窟の奥に逃げ込んだが、自分自身への問いかけで勇気を取り戻した蒼龍くん。黒龍への再戦へ向け、最後の教えを尋ねにお山の玄龍さまの元へと向かいました。
「玄龍さま、僕はもう一度戦いたい。でも、今の僕では黒龍の闇に飲み込まれてしまいます。どうすればいいですか?」
玄龍さまは、かつての親友を想うような、悲しくも慈愛に満ちた瞳で蒼龍くんを見つめました。そして、蒼龍くんの額にそっと自身の大きな爪を当て、一筋の金色の光を注ぎ込みました。
「蒼龍よ。これよりお前は北の海へ向かうが、わしの魂の一部もお前と共にゆく。黒龍の闇は、底の見えない『恐怖』から生まれておる。それに打ち勝つには、お前自身が『底知れぬ静寂』を知らねばならぬ」
玄龍さまは、さらに言葉を続けました。
「北の果て、凍てつく海底に眠る古の龍の宝玉を探すがよい。そこでお前が『真実』を掴んだとき、わしのこの光が、お前の背中を支える道標となろう」
その言葉を信じ、蒼龍くんは再びお山を降ります。 辿り着いた北の海は荒れ狂っていましたが、彼は迷わず海中へと飛び込みました。
深く潜るほどに太陽の光は届かなくなり、凄まじい水圧が全身を締め付けます。
(怖い……。またあの時みたいに、押し潰されるんじゃないか……)
黒龍の一撃を思い出し、心臓が激しく波打ちます。
しかしその時、額に授かった光が、ほんのりと温かさを放ちました。
(玄龍さまが、そばにいてくれる……)
光の届かない海の底へ辿り着いた時、そこには不思議な光景が広がっていました。
地上でどんなに嵐が吹き荒れていても、深い海の底だけは、物音ひとつしない完璧な静寂に包まれていたのです。
蒼龍くんは、暗闇の中で静かに目を閉じ、座禅を組みました。
「『大安心』。……それは、外側の状況がどうあれ、自分の心が揺るがない境地のこと」
蒼龍くんは、自分を襲う恐怖や不安を追い払おうとするのをやめました。
(恐怖はある。痛みもある。でも、それも僕の一部なんだ……)
波立っていた心が、深海の静寂と一体化していきます。
生死さえも海に預け、何事にも動じない「大きな安心」の中に身を置いたその時、蒼龍くんの体は青白い光に包まれました。
かつては水圧に苦しんでいた体が、今は海そのものになったかのように自由です。
「……そうか。嵐は海を壊せない。僕の心が海のように広ければ、黒龍の闇さえも、ただの波風に過ぎないんだ」
恐怖という名の重圧は消え、蒼龍くんの心には、凪いだ海のような穏やかな強さが満ちていきました。すると、額に授かった玄龍さまの光が、深海の暗闇を鮮やかに貫きました。その光に導かれるようにして、海底の奥底に眠る伝説の「龍の宝玉」が、静かにその姿を現したのです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「大安心」とは、外側の状況に振り回されず、自分の命をまるごと世界に預けて「これでよし」と思える、揺るぎない心の安定です。
恐怖も不安も自分の一部として受け入れ、深海の静寂と一つになった蒼龍くんの前に、ついに伝説の宝玉が姿を現します。
しかし、その輝きに触れた瞬間、蒼龍くんは誰もが予想しなかった「驚くべき真実」を目にすることになります。
完結まで後4話!
次回、物語はいよいよ核心へ。
すべてを失った果てに、何を見たのか。
小さき龍の体が、黄金色の光に包まれます。
合掌




