第31話:敗北と絶望。蒼龍くんと「主人公に聞け」
完璧だと思っていた自信が、圧倒的な現実を前にして粉々に砕け散る。 そんな時、私たちは「自分はなんて無力なんだ」と、殻の中に閉じこもりたくなります。
傷つき、震える蒼龍くん。 彼を救ったのは、外からの助けではなく、自分自身の心の奥底にいた「本当の自分」でした。
玉座から立ち上がった黒龍は、ただ静かに片手を掲げました。
「慈悲など、弱者が縋る幻想に過ぎぬ。沈め」
その瞬間、言葉にする間もなく黒龍の手のひらから「絶望の奔流」が放たれます。
それは技というより、ただ純粋な暴力としての闇の塊でした。あれほど誇っていた蒼龍くんの「一志不退」の覚悟も、鋼のように磨き上げた「直心」の構えも、その奔流の前には紙屑同然に吹き飛ばされたのです。
「がはっ……!? あ、あああ……!」
全身を貫く衝撃。鱗は砕け、視界は真っ赤に染まりました。
城壁まで叩きつけられた蒼龍くんは、指一本動かすことができません。黒龍は一歩も動かず、ゴミを見るような冷徹な瞳で彼を見下ろしていました。
「……それが、お前の正義の限界だ」
黒龍のお目こぼしで命からがら逃げだした蒼龍くんは、飛び込んだ洞窟の奥隅で震えていました。
「無理だ……。あんなの、勝てるわけがない……」
かつての快勝の記憶は、黒龍の圧倒的な力の前に粉々に砕かれ思い知らされます。自分は選ばれた龍だと思っていた。でも、本当はただの未弱な小龍に過ぎなかった。
(もう外の世界なんて行きたくない。ここでずっと、隠れていたい……)
そんな時、ふと記憶の奥底から『主人公しゅじんこうに聞きけ』という玄龍さまの言葉が浮かびました。
「主人公」とは、外側の地位や強さではなく、自分の中にいる「本当の自分」のことです。
「蒼龍よ、誰のために戦っている? 誰のために泣いている? お前の魂の真ん中にいる主人公に、直接聞いてみるがよい」
蒼龍くんは静かに目を閉じ、胸に手を当てて、心の奥底にいる自分自身に問いかけました。
(僕は、褒められたくて戦っていたのか? 違う。……僕は、あの時殻を破って出会った世界の美しさを守りたかったんだ。そして、黒龍の孤独な瞳を放っておけなかったんだ)
「……逃げたくない。傷つくのが怖くて、本当の自分まで捨てたくない!」 震えていた足が、ゆっくりと止まりました。外側の強さに負けても、内側の主人公が「まだ終わっていない」と言っている。
蒼龍くんの心に、消えかかっていた自灯明の火が、再び小さな、けれど熱い光を宿しました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「主人公に聞け」。
それは、中国唐代の禅僧、瑞巌和尚が毎日自分自身に「しっかりしているか?」と問いかけ続けたお話に由来します。
黒龍に打ち砕かれ、誇りも自信も失った蒼龍くん。しかし、すべてを失ったからこそ、ようやく魂の真ん中にいる「本当の自分」の声を聞くことができました。
次回、完結まで残り5話!光の届かぬ凍てつく深海へ。
嵐に揺るがない大安心を求め、沈黙の底で彼が掌に掴んだ真実とは。
合掌




