5-06 勇者達がやって来た
俺達が町に行ってから6日目のことだ。
1つの輝点が村から俺達のダンジョンに向かって移動してくるのを見付けた。
「勇者達です!」
「勇者にゃ」
「やってきたな……。すでに準備は完了している。このまま進んでくれるなら、明後日にはダンジョンに到着する。ホブゴブリンのお婆さんを通して魔族に連絡だ。十分に体を休めるようにも伝えておいた方が良いだろう」
さすがに勇者と言われるだけあって、ここにやって来る冒険者達と移動速度が段違いだ。体力向上の魔法でも使っているんだろうけど、果たしてゴブリンの素早い動きに追従できるかな?
自分達だけが、体力向上の魔法を使えるとは思わないことだ。こっちには歴戦を生き抜いた3人のお婆さんがいるんだからね。
ミーナさんがお婆さんのところに向かい、俺達は暖炉傍で仮想スクリーン越しに勇者達の動きを見張ることにした。
初めての土地への移動は【転移】魔法が使えないのが残念だな。ダンジョンのキューブは座標を指定することで俺達を転移させることができるが、魔法ではどうしても術者がその場所を思い浮かべる必要があるのだそうだ。
クリスに貰ったバングルで、自由に転移をしてるんだけど、結構面倒なところもあるんだよな。
結局、1日を勇者達の動きを見て過ごしてしまった。
夕暮れで動きが止まったのは、西の森の中だ。ほとんど森の外れとも言っていい場所だから、明日の昼前にはいよいよやって来るぞ。
「明日は忙しいぞ。クリス達も準備は出来てるとは思うが、今夜もう一度、皆でおさらいしておくんだよ」
「何度もしてるから大丈夫だよ。それより、クロードさんはどうなの?」
逆に問い掛けられてしまった。
とりあえず笑ってごまかしておく。相手が勇者だけに、俺の予想を超えることだってあり得るからね。完璧な作戦は存在しない。完璧だったと言われる作戦にしたいと願ってるだけだからなぁ。
俺達も早めに休むことにしたんだけど、明日を考えると中々眠ることもできない。ワインを飲んで無理やりベッドに入った。
翌日、目が覚めたところで狩りに向かう衣服に着替える。腰の後ろには片手剣を差し込んだ。俺達の作戦が上手く行かなければ、この管理室に勇者が来るようなことがあるなら、クリスを守らねばならないからね。
一度死んでるんだから、これまで良い夢を見ることが出来たと思えばあきらめもつく。
少し足止めが出来たなら、ミーナさんがクリスを安全な場所に連れて行ってくれるだろう。
悲壮感を漂わせて管理室への扉を開いたら、全員が俺と同じような姿だった。
呆気にとられた俺を見て、ミーナさんが笑ってるんだからなぁ。苦笑いで応えるしかないな。
「気持ちは分かるにゃ。でも、その時は皆一緒にゃ」
「そうです。私だってかつては護身術を習ってたんですから!」
クリスの前世は貴族のお嬢さんだった。誘拐犯なんかに備えるために習ってたんだろうか?
だけど、短剣を抜いて遊ぶのは止めて欲しいな。怪我でもしたら、お婆さん達に何を言われるか……。
「分かった。それじゃあ、朝食を取りながら向こうの状況を見てみるか」
朝食と聞いて、クリスが短剣をしまってくれた。アビスと一緒に棚から朝食のトレイを運んでくる。
その間に仮想スクリーンを展開して、向こうの状況を眺めると、すでに移動を始めたようだ。
冒険者達の歩みと比べるとかなり早い。ここまで3時間も掛からないんじゃないか?
食事を終えてお茶を頂いていると、すぐ近くまで勇者達がやってきていた。
「いつもの場所で焚き火を作り始めたにゃ」
「彼等だって休むことはあるさ。それより、女性が混じってるな」
「勇者は若い男性にゃ。女性は神官にゃ。魔導士はお婆さんよりは若いにゃ。戦士は兵士にならなったのかにゃ」
兵士であれば、1つの部隊を指揮するほどの偉丈夫だ。彼だったらミノタウロスさえ一太刀に下せるだろう。
武器は勇者が片手剣と盾を持ち、戦士は頑丈そうな長剣だ。魔導士は頭に魔石の付いた杖を持ち、神官の女性は短槍を持っていた。
RPGでよく見かけるパーティだが、それだけ汎用性に富み隙が無いことになる。
「魔族の避難は出来てるんだろう?」
「昨日で終わってるにゃ。ダンジョンに残ってるのはお婆さん達3人に、ゴブリン弓兵1個分隊とホムンクルス達にゃ。後は罠に入ったスライムと頑固なスライム。ゴーレム達は配置に着いたまま動いてないにゃ」
ゴーレムは動かなければただの石像だからな。頑固なスライムってどんなスライムなんだろう? その他にも野生種がいるけど、勇者達が積極的に狩ることは無いだろう。
「やって来るでござる。焚き火はそのままでござるな」
「一般常識に欠けた連中ってことだ。やはり教育が必要ってことだな」
「最初で最後の教育になるにゃ」
俺達のダンジョンの入り口を見て、笑っているのもしゃくにさわる。誰も松明を持っていないのは、光球を魔法で作り出すつもりなんだろうな。
暖炉のソファーに腰を下ろした俺達の前には、数枚の仮想スクリーンが開いている。
俺とミーナさんが見ているのは平面図が主だし、クリスとアビスが眺めているのは中央回廊の奥からの映像だ。
その他にも数枚ある仮想スクリーンは、罠の設置場所を映しているのだろうか?
「1つ1つ部屋を調べるつもりにゃ」
中央回廊に入ってすぐの部屋に入っていく勇者達を見て、ミーナさんが呟いた。
「鎧ネズミがいるんじゃないか?」
「真ん中にスライムの罠もあるにゃ」
扉を開けて中に入っていく。
平面図では輝点の移動だけだからな。全ての状況を眺めることが出来ないのが問題だ。
4つの輝点が部屋の中で動き回り、突然中央に集まった。
誰かが落とし穴に足を取られたようだな。そんな仲間に直ぐに皆が集まるんだから、仲間内での思いやりはあるのかもしれない。
「部屋を出てきたにゃ。でも、少し列が乱れてるにゃ」
「この先頭が勇者じゃないか? 次の2つから数歩離れていそうだ。最後の1人が遅れてるが、それほど強い毒だったの?」
「蜂毒にゃ。回廊に出てきた中に魔導士がいないにゃ!」
普段はそれほど明るくもない中央回廊だが、今日は勇者達の作った光球のおかげで良く見通せる。確かに3人だ。
平面図では小部屋に続く回廊の端に輝点が1つ残っている。
中央回廊に強い光が一瞬走ったかと思ったら、回廊の端の輝点が勇者達に向かって動き始めた。
「焼かれたにゃ!」
「今の光がそうなのか?」
「中位魔法にゃ。集団戦によく使われてるにゃ。もっと威力のある上位魔法もあるらしいけど、見たことはないにゃ」
俺達と同じ考えってことかな? 攻撃すれば遠慮はいらないってことなら、俺達も罪の呵責に捕らわれずに済みそうだ。
次の部屋も同じように、大きな火炎弾を放って部屋の中を焼いていく。
ダンジョン内の部屋を全て焼き払われたら、破壊されたともいえるだろうな。ダンジョン内にいる魔族だって根絶やしにされかねない。
「話に聞いていた通りの物騒な連中だな。仕掛けるのは大広間からになるのかな?」
「もう少し中央回廊を進んだら始めるにゃ」
ミーナさんの横顔は獲物を見付けた時の表情そのままだ。
クリス達は食い入るように中央回廊の映像を眺めている。まだまだ中央回廊の入り口付近だからねぇ。仕掛けるのは半ばを過ぎてからになるのだろう。
中央回廊の2つ目の十字路に近づいてきたとき、東の回廊に待機していた青の輝点が中央回廊に走り込んでその場に止まる。直ぐに西に向かって移動していった。
これが最初の攻撃か?
一瞬のことだから何が起こったのか分からなかったぞ。思わず横のミーナさんに視線を向けた。
「1矢浴びせたにゃ。その場に止まってるから何本か当たったにゃ」
「毒矢ってことか?」
「弱い奴にゃ。少しは向こうも注意するにゃ」
ゴブリンと侮ることなかれということか。青の輝点は回廊をぐるりと回って大広間に向かっている。
結構ハードな運用だけど、あまり走らせたら疲れてしまうんじゃないか?
「やはり後を追わないにゃ。真っ直ぐ大広間に向かってるにゃ」
「だけど十字路で左右の回廊に火炎弾を放つのは問題だな。魔力がそれほど高いんだろうか?」
「魔導士にゃ。たっぷり魔力を持ってるにゃ」
ということはお婆さん達もそうなのか?
ふと、お婆さん達の待機する部屋を見ると輝点が2つしかない。もう1人はどこにいるんだろう?
「半レイスのお婆さんならここにゃ。勇者に魔法をぶつけてやるんだと息巻いてたにゃ!」
「ここって、大広間の池じゃないか。直ぐに反撃されてしまいそうだけど……」
「西に移動して壁に消える予定にゃ。あまり心配はいらないにゃ」
レイス状態であれば物理攻撃は利かないと聞いたことがあるけど、神官も混じってるんだよね。浄化魔法を使われると不味いんじゃないか。
勇者達が大広間の扉近くまでやって来ると、再びゴブリン弓兵の矢が襲い掛かる。さすがに矢を浴びせられれば、勇者達の足が止まるな。
その隙に、弓兵達は次の襲撃場所に向かって移動を始めた。
仲間の手当てをして、再び勇者達が歩み始めた。大広間の青銅の扉は半分開いている。プレートアーマーを着込んだ戦士が先になって大広間に入り、素早く頭を左右に動かしているのは状況確認ということだろう。
とりあえず何もないということで後続が大広間に入って来た時だ。
紅蓮の大火炎弾が勇者たちに向かって放たれた。
勇者達が大きな爆発に巻き込まれたけど、これで終わりじゃないよな?
「土魔法で【防壁】を作ったにゃ。それにしてもお婆さん、中級魔法じゃないじゃないかにゃ?」
「上級ってこと? あんな魔法を何発も放ったらダンジョンが壊れてしまうぞ」
「後で【強化】を施せば問題ないにゃ。砦攻めはそんな魔法の応酬にゃ」
城攻めや砦攻めは派手な魔法の応酬ってことなんだろうな。見てみたいような気もするけど、命が大事でもあるからねぇ。
すでにお婆さんは移動を終えたようだ。大広間には勇者達以外に人影は見えないんだけど、平面図にはたくさんの青い輝点が散らばっている。これって、全て落とし穴ってことになるのかな?
画像を見てみると、勇者達が周囲に眼を凝らしながらゆっくりと階段を下りて広間の石畳に立ったところだった。
洞窟サボテンは初めて見るものではないらしい。あまり注意をしていないところをみると攻撃しない限り襲い掛かることが無いと知っているのだろう。
大広間には宝箱は無いはずだ。それでも壁を時計周りに歩き始めた。先ずは状況と、ここから伸びる回廊を探ろうということに違いない。




