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5-05 準備ができた


 ダンジョンの奥まった一室に転移用の仕掛けを設ける。1セット1000マナは、俺達にとって痛い出費だけど、将来的には何セットか必要になるはずだ。先行投資として割り切ることにした。

 

「最初の【転移】魔法はわしらがやってあげるぞ。だが、こんなガラクタで勇者の足止めができるかいの?」

「遠くから見れば、金の鎧でしょう? 絶対に引っ掛かりますよ。手に持てばすぐに偽物に気が付くでしょうけど、その時には【転移】魔法陣の上ですからね」


 おばあさんと一緒に小部屋の仕掛けの最終確認を行ったが、こんな小さなダンジョンに過ぎた宝物だと俺にも思えるんだよな。

 勇者が強欲だと聞いての罠なんだけどね。


「嬢ちゃん達も面白そうなことをいろいろとやっておったよ。ワシらも少し手伝うことになりそうじゃが、ワシ等は3人じゃからのう。たやすいことじゃ」


 3人で顔を見合わせながら笑い声をあげている。

 現役時代よりも、燃える展開ということなんだろうか? のんびりと余生を送ろうなんてことはまだまだ考えられないんだろうな。


「こことここ。それにこの場所にもゴーレムを置いておる。片腕を損傷したゴーレムたちじゃが、ローリングストーンを押すぐらいはたやすい連中じゃ。1年は置いてくれるらしいから無事に試練を乗り越えたらダンジョン作りを手伝ってもらえるじゃろう」

「それにしても、クネルさんは気前が良かったですね。ゴーレム5体を無償で供与してくれたんですから」

「魔気の濃い場所で暮らせばゴーレムの腕も復活するのじゃ。ゴーレムのリハビリも兼てのことじゃよ。礼を言うと、いろんな魔族を送ってくるじゃろうよ」


 そういうことか。アビスを俺達のところに置いたとのもそれを考えてのことだとしたら、クネルさんの手腕はかなりのものだな。

 俺達のダンジョンは、崩壊寸前のダンジョンから持ち出したローリングストーンだけでは足りずに3個ほど追加したから、かなり面倒な迷路になっている。

 回廊を進んだところで後ろを遮断されたら、勇者達はすぐにダンジョンから抜けだすだろうか?

 たぶんしないだろう。転移魔法が使える魔導士が同行してるんだから、いつでもダンジョンから抜け出せると思って前に進むに違いない。

 それを逆手に取れば勇者達を誘導できるということになる。

 クリス達に頼んだ勇者達のパーティの分断と勇者以外の始末は、誘導が前提だからね。

 各個撃破なんて言ってるけど、ちゃんとできるんだろうか? なんだか心配になってきたな。


 春分が過ぎ、少しずつ雪が降る日が少なくなっていく。

 どんよりとした空だったのが、このごろは日差しも見え始めた。少しずつダンジョンの南に広がる荒れ地の雪も少なくなっていくのがわかるほどだ。

 春分から1か月も過ぎると、ミーナさんがそわそわしだしたのがわかる。すでに荒れ地の南に広がる森の先では、野草が芽吹く頃だからな。


「行ってくるにゃ!」


 ついに我慢しきれなくなったのか、ゴブリンの少年たちを引き連れて狩りに出かけてしまった。

 狩りの獲物はダンジョン内の魔族の食料にもなるし、毛皮の収入は俺達の食費にもなるから、たくさんの獲物を期待してはいるんだけど、タイムリーではないよね。


「行っちゃいました!」

「まだ、勇者たちの情報が入ってこない。ここで監視していればわかるはずだから、明日やってくるようなことはないよ。それで、アビスの方は何か新しい情報は無いの?」


 俺の問いに、クリスの膝でいきなり人間化したからクリスが潰れかけているぞ。慌てて隣に座りなおしたんだが、下着姿だから早く着替えてくれたほうがありがたいところだ。


「王都で休養を取ったのが1か月前と連絡があったでござる。やはり、この地への到着は雪解けを待ってということになるとクネル殿は考えているでござる」

 

 そこまで言って、部屋に駆け込んでいった。

 やはり下着姿は魔族でも問題なんだろうな。次に俺達の前に姿を現したときには、綿の上下に、バックスキンの長いベストを着ていた。ちょっと見た感じではワンピースにも見えるんだけど、クリスとお揃いで作ったんだろう。


 3人が揃ったところで、改めてアビスがお茶を入れてくれた。

 窓の外は、だいぶ減ったとはいえいまだに雪景色だ。暖炉のそばにいても何となく寒く感じるんだよね。


「クネルさんは雪解けと見てるんだね。俺も同じ考えだ。勇者達の評判は余り良くないようだから、他の冒険者が同行するとは考えられない。となれば、やはり最初にやってくる連中が勇者達ということになるんだろうな」

「あと1か月もしたらやってくるの?」

「そういうことになりそうだ。勇者達の動向は魔族が監視してるだろうから、クネルさんが教えてくれると思うけど、俺達も周辺の動きは見とかないといけないよ」


 うんうんとクリスが頷きながら大きく広げた周辺の地図を見ている。さっき見たばかりなんじゃないかな? 徒歩で移動してるんだから、1日に2回も見れば十分に思えるんだけどね。


「でも、勇者達を相手にゴブリン弓兵を1分隊でよかったのでござるか? ムービングアーマー1個分隊を軽く蹴散らす相手でござるよ」

「優秀な魔族を失うわけにはいかないだろう? 俺達は勇者を罠で倒す。動きの遅いムービングアーマーよりは軽快に動ける魔族が今回は適任だよ」


 ムービングアーマーは、プレートアーマーを着たゾンビのような連中だ。打たれ強いことは確かなんだけど、動きが遅いんだよな。

 一撃離脱で戦えば、かつての俺にも倒せたぐらいだ。もっとも、1個分隊10体を相手にするとなれば、見ただけで逃げ出しただろうけどね。


「その連中を連れて行ったでござるか?」

「いや、少年達だろう? 弓兵達は大広間で練習してるはずさ」


 彼らにとっては休暇ぐらいに感じてるんだろうな。最初は勇者相手と聞いて目を見開いていたけどね。1矢射込んですぐに退却だから、白兵戦になることはないだろう。

 とはいっても、それが度重なれば勇者達も追いかけてくるに違いない。

 その時、罠が勇者達を襲うのだ。


 何事もない日々が何日か続いている。

 相変わらず、ミーナさんは狩りに出かけて、獲物を広間で焼いているから弓兵達も喜んでいるようだ。

 残り少なくなったワインを彼等に渡して、しばし鋭気を養ってもらう。


 そんなある日のこと。

 俺の部屋をドンドン叩く音で目が覚めた。

 いつものように隣で寝ていたミーナさんがネコの姿に戻ったところで、衣服を整えて扉を開く。


「大変でござる! やってきたでござる」

「なんだと! スクリーンで確認できたのか?」

「いや、クネル殿からの知らせでござる。2つ先の町を出発したと連絡があったでござるよ」


 なら、それほど慌てる必要はない。

 とりあえず管理室の暖炉のソファーに腰を下ろして、仮想スクリーンを開き、最大モードで地図を確認したが、勇者達と思われる輝点はなかった。

 隣町まで見えるからには、ダンジョンまでの距離は5日以上あることになる。少なくとも2、3日でやってくることはないはずだ。


「慌てることはないよ。ミーナさんと町の様子を見てこようかな。何が必要かをクリスと考えといてくれないか? それとミーナさん。狩りの獲物をそのまま持っていこうと思うんだけど……」

「半分ならいいにゃ。全部だとおばさんが困るにゃ」


 あまり獲物を持ち込むと俺達が疑われる恐れもあるんだよな。

 毛皮も20枚を超えないようにしておかねばなるまい。


 ケネルさんからの知らせが届いた2日後に、ミーナさんと一緒に町の様子を偵察に向かった。

 まだ勇者達の姿が地図で確認できないから、十分に余裕はあるはずだ。

 いつものように、町の肉屋に野ウサギを卸して、野ウサギの毛皮は雑貨屋に卸すことになる。


「野ウサギの毛皮が20枚ですね。100バイトになります。そのほかに何かご注文は?」

「ワインを1本とビスケットが半パンド。それにお菓子はあるかな?」

「このビスケットより甘いビスケットがありますよ」

「なら、それは四分の一だ。久しぶりに町に来たんだけど、だいぶにぎわってる感じだね」


 カウンターの娘さんが、注文した品をカウンターに並べながら世間話をしてくれる。

 

「分かりますか? 勇者様が、この町の東にあるダンジョンを目指しているそうなんです。この町の周辺にある農家の人達が喜んでいましたよ。安心して畑仕事ができると言ってました」

「ギルドもにぎやかだろうね?」


「それが、そうでもないんです。この町で仕事をしている冒険者達とはレベルが違うそうなので、今年は別の場所で狩りをしなければなんて言ってましたよ」

「困ったな。俺達の狩場にやってくるんだろうか? そうなると少し山の奥に入らなければならなくなってしまうぞ」


「いろいろとあるんでしょうね。でも、魔族がいなくなるんですから勇者様達には頑張ってもらわなければなりませんよね」

「まったくだ。できれば山奥にも入ってもらいたいところなんだがなぁ。たまにスケルトンが出る時があるんだよ」

「まあ! それなら、勇者様に声をかける機会があれば話しておきますね」


 ありがとうと礼を言って、カウンターに並べられた品をバッグに収めると店を出た。

 やはり都合よく解釈されているようだ。王国をまたにかけて、ダンジョンのお宝を探すのが目的なんだろうけど、途中で出会った魔族を倒すことが過大に評価されているんだろうか?

 とはいえ、俺達にとっては害虫みたいなものだから、駆除する考えが揺るぐことはない。


 ダンジョンの管理室に戻ったところで、お菓子を皆で食べながら町の様子を説明するる。

 甘いお菓子をクリスが喜んでくれたから、次にはもう少したくさん買い込んでこよう。


「やはり、勇者達の単独攻略になるようだ。冒険者達に恨みはないから俺達にとっても都合がいい」

「まだ、この町にも来てないんですね」

「明後日には確実にゃ。そのあとはまっすぐにやってくるにゃ」

「いや、この村で1泊するんじゃないか? いよいよだけど、もう少し余裕はある。罠を仕掛けなおすなら、今の内だぞ」


 たぶんそんなことができるのは5日程度だろう。

 その後は、この部屋で彼らの動向を探りながら待つことになりそうだ。


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