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5-07 分断成功


 大広間の石畳に隠された落とし穴に、おもしろいように引っ掛かるのを見て、俺達の顔に笑みが浮かぶ。

 やはりいたずらについてはクリスに分があるんじゃないか? 

 勇者達の表情にも焦りが浮かんでるし、相手がスライムでは下手な攻撃は武器を腐食させてしまうからね。

 1体ずつ火炎弾で焼いているようでは、魔力値が高くとも枯渇するのは時間の問題だろう。

 そんな勇者達に向かってゴブリン弓兵の矢が放たれる。

 広間から始まる3つの回廊から突然現れて去っていくのだが、その移動にはお婆さん達の【転移】魔法のおかげなんだろう。

 やはり魔導士が3人もいると、いろんなことができるな。


 大広間の罠の半分以上に引っ掛かった勇者達が大広間を後にしたのは、ゴブリン弓兵の後を追い掛けて行った時だった。

 足の速さはゴブリン達の方が早そうだ。やはり勇者達は【体力向上】の魔法を使っていたのだろう。その差はわずかだけど、追い付くことはできないようだな。


 弓兵達がT字路を曲がると、壁の中からお婆さんが現れて大きな火炎弾を勇者達に向かって放った。

 勇者達の手前に壁が現れたけど、通路全体を塞げるほどの大きさではない。かなりの痛手を受けたみたいで、神官が傷の手当てをしている間に、お婆さんは壁の中に消えて行った。

 

「お婆ちゃん達って強いんだね」

「俺達では敵わないだろうね。でも、勇者達を倒すことはできないみたいだ。そろそろ本格的な罠ってことなんだろう?」

「まだまだ罠が続くんだよ。この回廊に入ったところからが本物だから」


 今までの罠は遊びということだったのかな? それとも本物を隠すための偽物ってことか。いよいよローリングストーンが登場するとなると、何となく気分が高まって来るぞ。

 冷たくなったお茶を飲んでいたら、アビスが気を効かせて全員のお茶を交換してくれた。


 それにしてもレイスという存在は厄介だとつくづく考えてしまう。

 味方で良かったけど、もしも敵対されたなら対処しようもない。向かってくるなら【浄化】魔法で消し去ることもできそうだが、一撃離脱ではそんな猶予もできないからね。


 急に現れた弓兵が1矢を浴びせて回廊の陰に隠れる。その後を追い掛ける勇者達の後ろから、半レイスのお婆さんが大きな火炎弾を放つ。そうやって少しずつ罠に誘導しているのだろう。


「この先で、上手く行けば分断できるんだけど……」

 

 仮想スクリーンを大きく広げると、クリスがソファから立ち上がってその場所を指先で教えてくれた。

 回廊にあまりにも近い場所に2体の魔族がいるんだけど……、ひょっとしてゴーレムということか!


「画像が見えないにゃ。でも、お婆さん達には半レイスの姉妹がいるから」

「ここから矢を浴びせるんだけど、今度だけは2矢浴びせるの」

「危険はないのか?」

「ここまで逃げれば問題ないし、この辺りにも罠があるの」


 あちこちに落とし穴を掘ってたからなぁ。後で埋め戻すのが大変だぞ。

 そんなことを考えている気だった。青い輝点が勇者達と同一の回廊に姿を現して、数舜の間動きを止めた。直ぐに後ろに逃げ出したから勇者達も急いで後を追い掛けていく。

 距離が縮まれば火炎弾で攻撃されそうだが、その距離は微妙に保たれているようだ。


「ほら、落とし穴に落ちた!」

「治療もしないで追い掛けてるぞ!」


 ゴーレムの潜む回廊を通りすげようとした時だ。突然ゴーレムが回廊方向に動いた。


「1人取り残されたにゃ。誰かにゃ?」


 ミーナさん達はゴブリン弓兵達を心配していないようだ。確かに距離が少しずつ離れていくし、このままなら十分に逃げられそうだ。

「お婆さんからの連絡が来たにゃ。取り残されたのは神官の女性にゃ」

「どうするの?」

「お婆さん達に任せてあるにゃ」


 ローリングストーンで回廊を閉ざされたんだから、すごすごと引き上げてるところだろう。神官とはいえ、今まで勇者と同行していたぐらいだからそれえなりの実力はあるに違いない。

 残り3人になったけど、次はどうするんだ?


「この先は、仕掛け弓にゃ。落とし穴に落ちたら弓が飛んでくるにゃ」

「当然毒矢なんだろう?」

「タコの毒にゃ」


 ヒョウモンダコなんだろうか? 東の海で捕まえたらしいけど、自分達が噛まれるなんて考えたことが無いんだろうな。


「ゴブリン弓兵達も、そろそろ毒矢を使うはずにゃ。落とし穴の中もスライムがいるにゃ」

「毒ばかりってこと? そうなると神官を追いやったのは良いことに違いない」


 治療魔法は神官の得意とするところだ。その彼女がいなくなったとなれば、手持ちの薬に頼ることになるんだろうが、限りがあるはずだ。


「パーティが分かれたところで、一旦外に出ようなんて考えないのでござるな」

「それだけ頭に来てるんじゃないか? 今のところはゴブリンにホブ・ゴブリンのお婆ちゃんだからねぇ。レイスとは気が付いてるかもしれないけど、魔族の中では低位置な存在と聞いてるぞ」

「確かにゴブリンと戦ってダンジョンから逃げだしたともなれば勇者の矜持は台無しでござるな」


 そういうことだ。勇者達としては、残った戦力でダンジョン内のゴブリン達を全滅させる思いで先を急いでいるはずだ。


「罠に掛かったよ! 止まったみたい」

「当たり所が悪かったのかな? 次はどうなるんだ」

「この先で、もう1度待ち伏せかな。この辺りを一周させて、消耗させる予定だよ」


 クリスも意外と残忍なところがある。少女期の通過儀礼のようなものかもしれないな。その深層心理が勇者狩りに反映されたのかもしれない。


「その後は、こっちに誘い込むにゃ。再び仕掛け弓が待ってるから、薬草を消耗できるにゃ」

「回復の遅れを期待してるってこと?」

「そうにゃ。いくら【体力向上】の魔法を使っても個人差は出るにゃ。まして魔導士なら、この2人とはそもそも体力に差があるにゃ」


 回廊を歩き出した勇者達は、確かに3つの輝点に間隔が開いているように見える。前の2つはそれほどでもないけど、1つの輝点が遅れがちだ。


「もう少し経ったら、またローリングストーンを使いますよ」

「今度は魔導士ってことか? それで、神官の方はどうなってるの」

「攻撃力があまりないにゃ。それでも短槍を持ってるから、こんな感じにゃ」


 いつの間にか神官の前後を、青い輝点が距離を置いて移動している。数は前が3体に後ろが10体もいるようだ。

 この部隊は?


「前がスケルトンで後ろがゴブリンの少年達にゃ。散々狩りをして弓を仕込んだから、その成果を見せて貰うにゃ」

「危なくないのか?」

「矢を射かけるだけだから問題ないにゃ。あるとすればこっちのスケルトンだけど、【浄化】魔法を使うには距離が離れすぎてるにゃ」

 

 効果範囲は自分を起点として前方15mほどらしい。回廊の分岐点でちらりと姿を見せては移動しているんだろうな。自分の魔法力の枯渇を考えるとむやみに【浄化】魔法を放つこともできないだろう。

 後ろから射られる矢は麻痺毒を塗っているらしいから、傷の手当と解毒でどんどん魔法力が低下しているはずだ。


「そろそろ分断できるかな?」

「かなり遅れたでござるな。この角でローリングストーンを押し出すのでござるか?」

「そういうこと。残りは勇者と戦士になるね。お婆ちゃんが楽しみにしてるみたい」


 テーブルを挟んだ2人の少女たちの会話は、小動物をいたぶるような会話に聞こえてくる。

 仮想スクリーンの平面図を見ると、なるほど赤い輝点の1つが遅れている。距離は数mほどだから、前の2人はあまり気にも留めないようだ。

 だが、魔導士の存在が無ければかなりヤバいことに自分達は気が付いていないのだろうか?


 突然魔導士の動きが止まった。回廊が大きな石で作られた球体で塞がれたようだな。

 前の2人も気が付いたらしいけど、直径3mを越える固い石の球体をどうにかできるものではない。

 ゴーレムがどうにか動かせる球体だ。戦士では1個分隊ほど必要になるんじゃないか?


「やはり先に向かうようだな」

「上手い具合に弓兵が矢を放ってくれたにゃ。これで残り2人にゃ」


「アリス、魔法使いはどうなるんだい?」

「もう少しで神官を倒せるから、その後になるよ」


 それまでに逃げられてしまうんじゃないか?

 まあ、それでも問題はないだろう。魔導士だけでダンジョンを制覇できるものではない。俺なら、すぐに【転移】魔法でダンジョンを脱出するんだが、魔導士は回廊を歩き始めたぞ。

 【転移】魔法は最後の手段と考えて、仲間と合流を考えているのかもしれないな。


 それで、神官は? と平面図を眺めてみると、どうやら大広間に到着したようだ。ここからなら出口までの距離はそれほどでもないし、道に迷うことも無いだろうが、クリス達はこんな場所まで移動させてどうしようというのだろうか。


 ん? 急に青い輝点が増えたぞ。

 思わず、俺達の前に座っている2人に眼を向けた。


「スケルトンさんを増援したの。数体ずつ3方向から近づけば、魔法も直ぐに使えないでしょう。それに、まだまだゴブリンさん達は矢を一杯持ってるし」


 じりじりと神官が追い込まれていく。その方向は大広間の中心になるんだが、その周囲には洞窟サボテンがたくさん植えられてるんだよな。


「掴まったでござる! 次は魔法使いでござるな?」

「そうなると、こっちに誘導したくなるよね」


 前の2人が新たな獲物を狩る相談を始めたぞ。大広間を映し出した画像には、神官が洞窟サボテンの根に絡められた姿が映し出されている。

 あのまま食べられるんだろうか? 出来ればその前に命が断たれていて欲しいところだ。


 ところで、その後の勇者達はどうなったんだ?

 相変わらずゴブリン弓兵を追い掛けてるな。このまましばらくは追いかけっこをするんだろう。


「問題は戦士の分断だな」

「もう直ぐ、それも終わりにゃ。2人の距離が前より開いてるにゃ。薬が切れかかってるにゃ」


 たくさん用意はしてるんだろうけど、攻撃が全て毒を持っているとなればいずれは切れてしまう。

 

「勇者は簡単な【治癒】魔法が使えるにゃ。でも戦士は持っている薬が切れればそれで終わりにゃ」

「勇者が戦士を治療すれば、もう少し追いかけっこが出来るんだろうに」


「俺に構わず奴らを殺せ!」ぐらいのことを戦士は言ってるんだろうか?

 仲間をいたわるなんてことは、最初に神官を分断した時に無いことが分かっているから、勇者1人でも先に進むはずだ。

 3つ目のローリングストーンを、クリスがどこで使うかが見ものだな。


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