SS01 初級冒険者(1)
「リック、少し速いぞ!」
ケントスの大声が後ろから聞こえてきた。あいつは殿だからなぁ。間に女性を3人挟んでの会話は自然と大きくなってしまう。
マリー達が遅れてるんだろうか? 後ろを振り返ると、疲れた表情で杖を片手に歩いているマリーの姿が見えた。
「もう少しで森が切れる。そこで一休みだ」
俺の声に、女性達が俺に顔を向けると小さく頷いた。殿のケントスは苦笑いを浮かべている。あいつは疲れるなんてことはないんじゃないかな。
村を出て今日で2日目。たぶん昼過ぎにはダンジョンに着けるだろう。
村の周辺で、危険を冒さずに薬草を採取するのも良いだろうが、それでは俺達の収入が伸びないんだよな。
一昨年に発見されたダンジョンは、ベテラン冒険者であるグルネイさんに言わせると、初心者向けも良いところらしい。
その話を聞いて俺達も挑んだのだが、スライムの核をたくさん手に入れることが出来た。途中で採取した薬草の収入を合わせると、1人40バイト以上になる。
農家の次男、次女たちだけのパーティだから、今のところ稼ぎの半分をお袋に渡すことで、寝床と食事を確保している状況だ。
無駄遣いはしないから、俺とケントスは数打ちの片手剣を装備できたし、マリー達は火炎弾を放つ【メル】という魔法を村の神官から授けて貰うことができた。
だけど、3人が同じ魔法を手に入れるのはないんじゃないかな。1人ぐらい回復魔法の【サフロ】を覚えて欲しかった。
「ようやく荒れ地に出たな。あの岩陰で休もうぜ!」
マリー達が少し足を引きずるようにして歩いているから、やはり疲れが溜まったのだろう。
岩の傍に着いた途端に、ドカリと腰を下ろして腿をトントン叩いている。
水筒の水を一口飲んで、周囲に目を光らせる。
この辺りには、野犬も出るらしいからな。
数頭なら何とかなるけど、10頭を越えるようなら死に物狂いで戦わねばならない。
「まだ野犬はいないようだな?」
「その方がありがたいよ。2、3匹なら良いんだけどね」
ケントスにそう告げると、笑みを浮かべている。思いは同じってことなんだろうな。
互いに腕を伸ばして拳を当てる。
さて、そろそろ出発するか。
荒れ地は森よりは歩きやすいし、周囲の見通しも良い。緊張が減った分、足取りが軽くなった気がするな。
やがて、南を向いた岸壁に古い神殿跡のような門が見えてきた。あれが目的のダンジョンだ。
「俺達が一番乗りかな?」
「そうだな。グルネイさん達は王都の北西にある大きなダンジョンに行ったきりだ。村のギルドには、もう2組のパーティがいたけど、1組は新顔だったぞ」
「私達を嫌らしい目付きで見てたのよ。まったく困った冒険者だわ。早いところ村から出てって欲しいぐらいよ」
ギルドにいた1組は俺達と同じで、農家の次男三男たちのパーティだから顔見知りだ。俺達にいろんなことを教えてくれるからありがたい存在なんだけど、もう1組は、確かに薄気味悪い連中だったな。
まあ、しばらくは顔を見ることも無いから、案外村に戻った時には町の方に帰っているかもしれない。
「リック、適当に焚き木を取っておけよ。松明は持っているが、まさか松明で焚き火を作るわけにはいかないからな」
「分かってるさ。すでに数本は手に入れたぞ。一抱えあれば十分だろう?」
ダンジョン前の空き地で、最初の焚き火を作ったのは誰なんだろう? 案外、村に出入りする若い男女の猟師達かもしれないな。
10日おきぐらいに村にやってきては、鹿や野ウサギの肉を卸していく。
あれを見た時には俺達も猟師の方が良いんじゃないか? と思ったぐらいだ。
「さて、着いたぞ。先ずは腹ごしらえだ!」
どさりと俺が下ろした枯れ枝を使ったケントスが焚き火を作り始めた。
そこに杖を使って三脚を作り小さな鍋を下げる。
マリー達が作ってくれたスープは干し肉と干した野菜が具になる。干し肉の塩味だけの素朴な味付けだけど、まだ春先だからなぁ。頂くと体の中まで温かくなるのが分かる。
「これからダンジョンだが、外より危険はないだろう。去年からスケルトンが出てくるようになったけど、あいつは火炎弾で容易に倒せるからな」
「でも、数発しか撃てないのよ。ちゃんと盾になって頂戴ね」
リールが口を尖らしている。まあ、そのための俺とケントスだからな。槍を構えて牽制していれば後ろから魔法で倒してくれるだろう。
槍ということで、槍の穂先を包んでいたボロ布を取り外しておく。
俺達の槍は金属製の穂先ではなく、黒曜石の穂先だ。スライム相手にはこれが一番だ。
「早く、金属製の穂先にしたいところだな」
「このままで良いんじゃないか? これなら穂先を腐食させることなくスライムを狩れるからね。砕けるようなことがあれば、また河原で拾えばいい」
手作りだけど、俺達には過ぎた武器なんじゃないかな? まだレベルが3つにもならないから、スケルトンでさえ数体一度に現れたら俺達がどうなるか分かったもんじゃない。地道にスライムの核を狙って行けばいい。
食事を終えたところでお茶を頂く。これでバッグがだいぶ軽くなった。早いところ魔法の袋を手に入れたいところだけど、小さなものでも銀貨5枚だからね。その前に、マリー達の装備を揃えたいところだ。今のところ自分の身長ほどの杖だから、野犬をどうにかというところだろう。
「松明は持ったな。最初に3本点けて入るぞ!」
「パルテも準備はしといてくれよ。残り5本は俺が持ってる」
焚き火で松明に火を点けると、いよいよダンジョンに向かう。俺とマリーにケントスが松明を持つ。先頭の俺が持つ松明は、スライムを見付けたらリールに渡すことはすでに了解済みだ。
短槍を片手に抱えて、慎重にダンジョンに足を踏み入れた。
「最初は直ぐにスライムに会ったんだけどな」
「猟師がまっづぐの通路の奥に大きな広間があったと言ってたらしいぞ。たぶんそっちに移動したんじゃないか?」
「深いのかな? あまり深いと、帰りが怖いわ」
「だいじょうぶさ。ここの魔族は俺達にあまり向かってこないからな」
ケントスの前をあっるいているリールの言葉に、ケントスが話しかけて安心させている。
ケントスは俺と違って考えるのが得意だ。俺も思わず頷きかけたけど、それってグルネイさんから聞いた話とは少し違ってないか?
魔族は人間族を見付けると迷いもなく襲ってくると教えてくれたんだが、このダンジョンの魔族は一当たりすると直ぐに逃げて行ってしまう。
俺達が追い掛けてくると思っているんだろうか? それを追い掛けていくと、ヤバい魔族がいたりするのかもしれない。
そう考えると、ダンジョンが少し広くなったのは怪しいところでもある。今日は、いつもより慎重に進む必要がありそうだな。
「あら? 明かりが付いてる!」
「前には無かったな。誰が用意したか分からないけど、だいぶ古そうだぞ」
「だけど、まばらだからなぁ。松明はあった方がいいな」
回廊には、村の家並み2軒分ぐらいの間隔で、松明のように揺らめくオレンジ色の炎が周囲を照らしていた。
その間にもう1つ明かりが欲しいところだ。そうなれば松明はいらないんじゃないか?
「いたぞ! 青いスライムだ」
リールが伸ばした手に松明を手渡して短槍を構えた。隣にケントスがやって来ると足元に松明を落とす。
「いつも通りでいいな?」
「ああ、いつも通りだ!」
そう言って、素早くスライムに駆け寄り短槍を突き差す。
あまり深く刺さらないんだが、相手の動きを止めればそれでいい。
「ヤァ!」
気合を込めたケントスの短槍がスライムの体の中にある球体に深々と刺し込まれた。
村祭りで作るパンのような姿をしたスライムの体がみるみる萎んでいき、石畳の床に液体が広がっていく。
「あったぞ。やはりアオイスライムは核を持ってるな」
「次を探そう。今回はかなり稼げそうだ」
最初のスライムが簡単に倒せたのは俺達のレベルが上がったせいなのかな? 次の角から顔を出したスライムも同じように始末した。
「あれか!」
「行ってみるか?」
「広間ならスケルトンが出ても逃げられるだろう。それに石像も見てみたいぞ」
回廊の終点にあったのは巨大な金属製の扉だった。上手い具合に、半分開いているが、その扉から明るい光が漏れている。
俺だけ先行して、扉の向こうを恐る恐る眺めてみると、かなり大きな広間が視界に飛び込んでくる。
4本の石柱に支えられた広間は村の門前にある広場よりも広く見える。
中央には噴水が水を噴き出し、広間も明かりは天井にある大きなガラス細工が発しているようだ。
右手を後ろに伸ばして、後ろの仲間に安全であることを告げるサインを出す。
「「ワアァ!」」
マリー達が歓声を上げる。
無理もない。こんな光景がダンジョンの中で見られるとは思っても見なかったからな。
「あまり大声は出さないでくれ。魔族が寄ってくるかもしれない」
「ケントスの言う通りだ。すでにスライムを3匹も倒してるんだ。やって来るのがスライムなら良いけど、スケルトンなら逃げ出さないといけないからな」
「でも、スケルトンがいるのかしら? かなり明るいし、あそこにあるのは植物でしょう? ちょっと変わってるけど花が咲いてるわ」
マリーの指差した先には、確かに花が咲いている。太い柱のような植物だが、花が咲くなら植物に違いない。
「実も生ってるな。食べられるかどうか分からないけど、持ち帰ってギルドで判定してもらおうか?」
「なら、広間の探索を始めるか。猟師がここまで来てるだろうけど、見逃したものがあるかもしれない」
あの猟師が村に持ち込んだ防具は正規軍の装備品らしい。あまり傷んでいないから、そのまま使えると鍛冶屋が言ってたそうだ。
スケルトンと同じく鉄の重さで猟師に支払ったらしいけど、次を持ってきたときに少し手渡さねば俺の矜持に関わるとも言っていたそうだ。
回廊から数段の階段を降りて、広間に立つ。先ずは壁に沿って1周回ってみよう。




