表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/48

SS02 初級冒険者(2)


 大広間を月の動きのように左側の壁伝いに歩き始めた。

 床は石畳のようだが、ところどころ砂地が見えている。あの奇妙な植物もそんな場所に生えていたんだよな。

 丁度真西の位置に来た時、奥に続く回廊を見付けた。入り口の回廊から比べると少し小さく見えるけど、俺達3人が横に並んでも十分に歩けるほどの広さがある。


「どうする?」

「先ずは、この大広間だ。ここが危険な場所なら、この回廊は進めないだろう?」


 ケントスと短い話をしたところで、先を急いだ。

 広間の入り口から丁度正面に来た時だ。立派な祭壇に目を奪われる。


「大理石よ。教会の燭台と同じだもの」

「像が壊れてるのね。でも台座に落ちてる像の破片が思ったより少ないわ」


 リール達が小声で話をしている。確かに立派な像だが、落ちてる破片をくっ付けても半分も修復できないだろう。となると、残りはどこに行ったんだろうか?

 何か中途半端な状態なんだよな。


「誰か、来てるみたい。ほら……」


 マリーの指差した台座の一角には、野草の花が供えられていた。この辺りではまだこの花は咲かないはずだ。

 となれば、誰がどこからこの花を持って参拝に訪れたんだろう?


「分からんものは分からないぞ。先に進もうぜ。とりあえず危険が無ければそれでいいんだからな」


 再び壁伝いに歩くと台座の陰に北に向かう回廊が延びていた。これも、場所が分かればそれでいい。

 どうにか、広場を一周すると、この大広間を起点に東西南北に回廊があるようだ。もっとも、南側の回廊は俺達が入って来た回廊なんだけどね。


「気になるのは、あの植物と噴水のある池だな」

「実が生ってるし、下の砂地にいくつか落ちてるな」


 拾ってみるか。ギルドのお姉さんに鑑定してもらえば何か分かるかもしれないし、ダンジョンの奥にある木の実なんだから案外お宝かもしれない。


「何があるか分からないから、落ちた木の実を先に拾ってくれ。生っている木の実は、俺が最後に切り取るからな」

「あの針に気を付けるんだぞ。かなり危険そうに見えるんだ」


 いかにもケントスらしい忠告だ。苦笑いを浮かべながら頷いたところで、マリーに短槍を渡すと腰の片手剣を引き抜いた。

 ケントス達が丸太を組み合わせたような木の根元から素早く木の実を拾い上げたところで後ろに下がる。

 バッグに木の実を入れて、ケントスが短槍を構えて俺に視線を向けた。小さく頷くと片手剣を構えながらゆっくりと木に近づいていく。

 俺の腿ほどの太さで高さは俺の身長より少し高いくらいだ。びっしりと手のひらの長さほどの鋭い針が突き出している。

 動くとは思えないけど、幹から2本突き出した枝がまるで腕のように見えるんだよな。


 少し色づいている木の実を片手で掴んだ時だ。ブルっと腕に動きが伝わった。木の実をもぎ取るようにして慌てて後ろに下がると、足元の砂地を割って何かが飛び出してきた。

 足元に火炎弾が炸裂した。砂地から現れた触手のようなものが大きくうねりながら体液を噴き出している。

 

「だいじょうぶか?」

「ああ、火炎弾に助けられた。何なんだあれは?」

「たぶん、あの丸太の根じゃないか? 体液は緑だから血ではないだろうな。樹液という感じだ」


 そういえば、少し生木の匂いがしてるな。

 入り口付近まで下がって見ていると、触手のようなものはうねりながら、砂地に姿を消していった。

 再び広間に静けさが戻ってくる。


「皆で一斉に実をもいだらどうなっていたか分らないな」

「お前1人で確かめたのが良かったんだろう。マリーがすかさず【メル】を放ったからね」

「そうよ、感謝しなさいよね」


 とりあえず、礼を言っておく。面倒見は良いんだが意外とこだわるところがあるからね。


「さてと……。どの回廊を選ぶんだ?」

「左から行ってみるか? 今年は何度も足を運ぶんだ。片っ端から調べてみようぜ」


 噴水も見てみたかったが、あの丸太のような植物がいくつも取り巻いてるからな。今回は見送ろう。

 ゆっくりと、左に歩いて西の回廊に足を踏み入れた。

 ダンジョン探索の基本は、常に同じ壁の面を辿っていくことだ。地図が無いから、帰り道を間違えない手段としてグルネイさんが教えてくれた。

 片手剣を握ったまま、もう片方の手に松明を持ってゆっくりと進んでいく。

 直ぐに最初の十字路を見付けた。

 左右の通路にスケルトンが潜んでいるとも限らない。仲間達が戦闘態勢を取ったのを確認したところで十字路の真ん中に躍り出て素早く左右を確認する。

 

「だいじょうぶだ。左に進むぞ!」


 この通路もまばらに明かりが灯っている。去年から比べるとダンジョンの奥まで見ることができるが、スライムのような小さなものは見逃しそうだ。

 ゆっくりと、周囲を確認しながら進んでいく。

 次に現れたT字路を左に進んでいくと、大きな回廊に出た。


「これって、入り口から続いている回廊じゃないか? 直ぐ左に広間の扉が見えるぞ」

「そうだな。となると、こんな感じになるのか?」


 バッグから粗末なノートを取り出して、鉛筆で簡単な地図を描いた。

 皆で俺の描いた地図を眺めながら、次の道筋を話し合う。


「戻って、さっきのT字路を西に進むんだな?」


 皆の意見は調査続行だ。

 再び回廊を戻って、先ほど曲がったT字路を真っ直ぐに進む。すると再びT字路が現れた。左に進んで、またT字路。これも左に進み、次に現れたT字路は右手に分岐があるからそのまま直進する。


「扉があるぞ!」


 進んだ道の正面にはどうやら部屋があるようだ。

 これだけ奥に来たんだから、何が出てくるか分からないな。とりあえずいつものように、ゆっくりと扉を開いて松明を中に投げ込んだ。

 松明に続いて中に一歩足を踏み入れると、素早く中を見回す。


「スライムが結構いるぞ!」

「なら、それほど脅威じゃないな」


 俺とケントスが短槍を振るい、マリー達が【メル】でスライムを攻撃する。10匹にも満たない数だから、これなら楽勝だ。

 マリー達がスライムの核を集めている間に、部屋の中を調査する。乱雑に古い家具が壊れて投げ出されている。

 昔はどんな連中が住んでいたんだろうと考えてしまうな。


「リック! あったぞ。お宝かもしれん」


 ケントスの呼び声に、皆が奴の傍に集まっていく。俺も急いでいくと、ケントスが短槍の穂先でガラクタに半ば埋もれている木箱を突いていた。


「木箱か……。だが、周囲のガラクタと比べると新しそうだな」

「盗賊討伐が行われたらしい。案外盗賊が隠していたのかもしれないな」

「早く開けてみなさいよ。待ってるんだから」


 後ろからマリーが催促している。

 ケントスと顔を見合わせて小さく頷いた。

 

「少し下がっていた方がいいぞ。何が出てくるか分からないからな」


 俺の言葉に、マリー達3人が慌てて後ろに下がっていく。

 ケントスが一歩後ろに下がって短槍を構えたのを見たところで、木箱の蓋に手を掛けた。

 ギィィと蝶番の音がやけに大きく聞こえる。

 蓋を開けると、ぼろきれがあった。片手剣で跳ね除けると、その下から金属光沢の代物が現れた。


「武器と防具だ。スケルトン装備のものじゃないぞ。今出してみるからな」


 1個ずつ、ケントスに手渡していく。

 片手剣が3振りに、棍棒のような変わった武器が1個。籠手が4つにヘルメットが2つだ。一番下にあったのは鉄製の丸い盾だった。


「お宝だ!」


 皆の顔に笑みが浮かぶ。


「片手剣は、リックとケントスが使いなさいな。リック達の片手剣は私達が頂くわ。私はその変な棍棒を頂くけど良いかしら?」

「そんな棍棒が役に立つの?」

「リック達の頭を叩くには丁度良い感じよ」


 思わずケントスと顔を見合わせてしまった。マリーが手に持った棍棒の先端は金属製の板が数枚出てるんだよな。あんなので殴られたらたんこぶでは済まされないぞ。


「片手剣が1振り余るんだけど……」

「それは売るべきよ。籠手はリック達で装備すれば良い。リックはその盾も使えるんじゃない?」


 そう言われて盾を左手に持ったけど、盾の裏にある革製の輪に腕を通して手で支える作りだな。重いかなと思っていたんだが、案外腕に馴染んで重さをそれほど感じない。


「これなら、スケルトンと斬り合いが出来そうだ」

「ならリックで決まりだ。籠手は俺が使いたいな。3組余ったがどうする?」

「残ったのは売却しましょう。高く売れれば魔法の袋が手に入るわ」


 思いがけない得物を手にして、安心したのか大きなあくびをしてしまった。リールが口に手を当てて笑っている。

 俺達がダンジョンに入ったのは夕暮れ前だったから、だいぶ時間が経っているのだろう。本来なら寝る時間を過ぎてるのかもしれない。


「リックの大あくびが俺にも移ったぞ。たぶん深夜を過ぎてるんだろう。この部屋で一休みだ」

「そうね。良いものが手に入ったんだから、今回はこれで終わっても良いんじゃないかしら? 今からダンジョンを出て荒れ地で休憩するより遥かにマシだわ」


 部屋の扉を閉めて、扉近くに小さな焚き火を作る。壊れた家具があるから盛大に焚き火を作っても良いのだが、ダンジョン内の焚き火は出来るだけ小さく作れと言い聞かされてるからな。

 マリー達がお茶を作る間に、ケントスともう1度室内を調べてスライム達がいないことを確かめる。

 お茶を飲みながら明日の相談をしている時だった。

 何かの叫び声が聞こえてきたのだが、すぐに止んでしまった。


「何かしら?」

「俺達以外なら魔族ということになるが、スライムやスケルトンは叫び声は出さないぞ」

「まだ見ぬ魔物ということなんだろう。やはり早めに出た方が良さそうだ」


 小さな焚き火を囲みながら、交代で睡眠を取る。とはいっても俺とケントスのどちらかは常に起きて周囲に耳を傾けることになる。

 それでも睡眠が取れるんだから、やはり仲間はありがたいな。


 翌日は、ビスケットとお茶の朝食を取ったところで、ダンジョンの探索を開始する。

 最初のT字路を今度は左に曲がる。俺の地図で行くと、この方向は南になるから、ダンジョンの出口に向かうはずだ。


「前方にT字路だ。今度は左右に分かれているから左に行くぞ!」

 

 左に曲がると直ぐに部屋の扉が現れた。

 松明を放り投げ、片手剣を掴んで中に入ると、何もない部屋だ。向こうの壁にも扉が見える。


「何やら近づいてくるぞ! 急いで入ってくれ」

 ケントスがマリー達を部屋に入れて扉を閉める。ちらりと回廊の奥に見えたのはスケルトン達の姿だった。


「スケルトンが追ってきてるの?」

「そんな感じだな。早いとこ、この部屋を出た方が良さそうだ」


 反対側の扉を開けて進んだら、すぐに大きな回廊に出た。すでに日が昇っているのだろう。右手の出口は明るくなっている。

 後ろも振り向かずに出口に向かって足を早めていると、何かを踏んずけてしまった。

 何だろう? 思わず足元を見るとスライムが木の枝のようなものに取り付いていた。


「腕だと! ケントス急げ。かなりヤバい状況だぞ」

 

 皆が一斉に駆け出して俺を通り過ぎていく。ちらりと俺の足下を見て顔をこわばらせている。

 どうにか、ダンジョンを抜け出して、ホッと溜息を吐いた。

 昨夜の叫び声の正体は、あの腕の持ち主だったのかもしれないな。

 1人で来るとは思えないから、何人かで来てたんだろうが、果たして無事にダンジョンを出られたんだろうか?


 荒れ地を仲間達と歩きながら、自分達の幸運を神に感謝する。たぶんケントスやマリー達も同じ心境なんだろうな。いつもならおしゃべりしながら歩くんだが今日は見な口数が少ないようだ。


「きっとグルネイさん達が詳しく調べてくれるだろう。俺達はそれまで近くで狩りをしないか?」

「春先だからな。獣達もまだ山奥に帰らんだろう。俺は賛成するぞ」

「私達も賛成よ。あの人を襲った魔族が何か分かるまではね」


 そんなことができるのも、俺達が村に住む冒険者だからに他ならない。

 寝るのも食事も自分達の家族の元で出来るんだからね。収入の半分ぐらいを母さんに分けてあげるだけで置いてくれるんだから、ありがたいと思わんければなるまい。そして早いところレベルを上げてスケルトンを群れで狩りたいものだ。

                 ・

                 ・

                 ・

「えっ? これってそんなにするんですか」


 鍛冶屋に片手剣と籠手、それにヘルメットを持って行ったら、銀貨25枚を渡された。片手剣だけで銀貨10枚になるらしい。思わずポカンと口を開けてしまったぞ。


「かなりの代物だぞ。確かにお宝ということなんだろうが、出所は盗賊かもしれんな」


 次にギルドのお姉さんのところに出掛けて再び驚くことになった。

 何と、あの丸太のような木は、洞窟サボテンという肉食の植物らしい。


「よく無事だたわねぇ。次は気を付けるのよ。何といってもレベル5の怪物なんだからね。それで、その木の実なんだけど、1個15バイトで引き取るわ。8個あるから120バイトね。スライムの核が7個で21バイト、合計141バイトね」


 今回の総収入は、2,641バイトということになる。500バイトずつ分配して、残金は、次のダンジョン探索の資金としてマリーが管理してくれるそうだ。

 それにしても銀貨5枚だからね。

 俺達の話を聞いて出掛ける連中も出てきそうだけど、ちゃんとダンジョンであったことはギルドのお姉さんに話しておいたから、何かあっても俺達に責任はないよね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ