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4-03 招かざる客は殲滅する


 夕暮れを待ってそのパーティは動き始めた。

 ダンジョンの入り口で松明に火を点けたのだが、使う松明は1本だけのようだ。ダンジョンの回廊を進んでいくと、右手に設けた最初の部屋に躊躇せずに足を踏み入れた。

 

 あの部屋は居心地が良いのだろうか? 前にやって来た盗賊達もあの部屋を根城にしていたんだよな。

 他の部屋と相違はないんだけどね。強いて言うなら、出口い近いことだけなんだが。


「動かないにゃ。最初のパーティは洞窟サボテンと争ってるにゃ」

「大丈夫かな? 結構レベルは高いんだよね」

「あまり素早く動かないにゃ。あれに手間取ってるようなら高レベルを目指せないにゃ」


 仮想スクリーンに映し出された画像を見てると、どうやら決着がついたというか、サボテンを触手を火炎弾で撃退したみたいだ。

 一戦はしたけど、倒すまでには至らなかったようだが、冒険者からしてみれば、倒せなければ撃退するだけで十分なんだろう。


「こっちはこっちで頑張ってるみたいにゃ」

「次はどうするのかな?」

「たぶんこっちに向かうはずだ」


 そう言って仮想スクリーンの平面図を指差した。

 あのパーティは大広間を時計周りに一周している。となれば、最初に向かうのは西に向かう回廊だ。


「こことここにお土産を置いといたにゃ。こっちは遠いから、これを見付けられれば一人前にゃ」


 1人じゃなくて5人なんだけどね。だけど、時間が掛かりそうだな。ダンジョン内で一泊は確実だぞ。


「こっちのパーティは全く動きません。もう、寝ちゃったのかな?」

「輪になっているから、焚き火でも作ってるんじゃないかな? 5人なんだが、お婆さん達はどうするんだろうね?」

「まだ動かないにゃ。この部屋にスケルトンを置いているにゃ」


 盗賊達がもう1つ奥の部屋にいるのであれば前後から挟めるんだが、向こうもちゃんと考えているようだな。

 まだ、お婆さん達は動かない理由が少し分かって来た。先に進んでいた冒険者達が、大広間に続く回廊に出てきたのだ。直ぐに元来た回廊に戻って行ったけど、これを考えていたに違いない。

 となると、今度はしばらく中央の回廊には出てこないはずだ。

 

「この部屋に入るのを待ってるみたいにゃ。宝箱があるけど、ちゃんと見付けられるかにゃ?」

「何が入ってるの?」

「武器にゃ。正規軍からの分捕り品にゃ」


 だとしたら結構な値段にならないか? 俺達で売った方が、来年の食事代に使えそうだけどね。


 ミーナさんが指さした部屋に冒険者達が辿り着いたのは、それからしばらく経ってからのことだった。

 しばらく部屋の中を5つの赤い輝点が動いていたけど、真ん中に輪を作って動かなくなった。


「見付けたにゃ……。今夜はあの部屋で寝るみたいにゃ」

「となると……。動き出したにゃ。こっちがスライムの大群で、こっちの2つがスケルトンにゃ」


 スライムが中央の奥にたくさん集まって来た。

 現状でも帯のように輝点が群がっているから、あの中を大広間に向かって進むのはばかげた話だ。

 スライムの中には触手に毒を持った個体も多いからね。あの帯を通り過ぎるまでには何度か刺されてしまうだろう。その奥にスライムを越える魔族がいるなら、毒の回った体で戦うのは、冒険者の中堅だって願い下げだ。


「何か光りましたよ!」

「慌てて逃げていく個体がいるな」

「逃げていくのは婆さん達にゃ。ゴブリンの少年も一緒かもしれないにゃ」


 どうやら、スケルトンが叩き壊していたところに、お婆さん達が【メル】を重ね撃ちしたらしい。

 扉が壊れたところに矢を放って、さっさと逃げ出したようだ。冒険者達に模倣で攻撃するような魔族は、今のところホブ・ゴブリンのお婆さん達だけなんだが、だいぶ逃げ足が速いな。仮想スクリーンの輝点を追っていると、突然輝点が消えた。

 いつもの部屋に戻って、お茶でも飲むんだろう。


 盗賊達が待機していた部屋では、スケルトンが押し入って乱闘が始まっているようだ。

いつの間にか赤い輝点が3個に減り、スケルトンの輝点の数も減っている。赤い輝点が無理やり部屋から出るとダンジョンの入り口目がけて移動していったが、入り口付近で突然動きが止まった。

 10体ほどのスケルトンが入り口を封鎖しているようだ。これで挟まれたな……。

 後は時間の問題だ。


 キューブから離れて、ソファーに腰を下ろす。途中で棚から取り出したワインをカップに注いで、一息入れる。

 スケルトンは、盗賊の部屋に押し入る時にはダンジョンの入り口にいなかったはずだ。お婆さん達は、キューブを使ったクリス以上に魔法が使えるってことだろう。あれは俺達がバングルを使って行う【空間移動】と同じ魔法で送り込んだに違いない。


 キューブの仮想スクリーンを眺めていた2人が、急に俺に顔を向けた。


「終わったにゃ。死体の始末は前の盗賊と同じでいいにゃ?」

「それで良いんじゃないかな。サボテンだって喜んでくれるだろうしね」


 身ぐるみ剥ぎ取って、使えるものはお婆さん達が分類してくれるはずだ。上手く行けば宝箱の中身にもなりそうだな。


「行ってくるにゃ」


 ミーナさんが魔方陣を使って、現場へと急ぐ。

 スケルトンの消耗は痛いけれど、スケルトンも戦闘経験を積めたんだから少しは魔族達が評価してくれるんじゃないかな。


「終わったね。先に入った冒険者達に少し動きがあったけど、部屋からは出てないよ」

「盗賊達の悲鳴でも聞いたのかもしれないな。距離が離れていないからね。やはり東の拡張工事は頑張らないといけないだろうな」

「今年中には出来るかな?」

「何とかしたいね。それに今年の課題は地下への足掛かりだ。回廊と部屋を作っておかないと、地下に下りる階段を封鎖できないからな」

「私の考えたダンジョンでいいの?」

「あれで十分だ。あの形を繋げて行けばいくらでも広がるからね」


 1階の攻略は難しくはないだろうが地下はそうはいかないぞ。アミダクジのダンジョンにローリングストーンの仕掛けを併用すれば、かなり難易度が上がるはずだ。正確な地図を作るまでは、帰り道さえ分からなくなるんじゃないか?


 しばらくして帰って来たミーナさんのカップにワインを注いであげる。じっとクリスが見ているけど、お茶で我慢して欲しいな。


「連中の持っていた硬貨を貰って来たにゃ。1,320バイトも持ってたにゃ」

「襲う相手よりも金持ちじゃないか! そんなに持っててもまだ足りないってことか」

「それが盗賊にゃ」


 悟ったような口調でミーナさんが呟いた。

 感心した表情でクリスが見ているけど、盗賊に憧れてるなんてことは無いだろうな? 仮にも天使見習いなんだから、きちんとこのダンジョン経営で実績を勝ち取って天使の仲間に加わってほしいところだ。


「戦闘の痕跡は?」

「一応消してきたにゃ。飛び散った血のりはスライムが片付けてくれるにゃ」

「血なまぐさいダンジョンは嫌われるからね。それならだいじょうぶだろう」


「ダンジョンは綺麗にしとかないといけないの?」

「あまり綺麗だとスライムが困りそうだから、それなりにということだよ。少なくとも惨殺死体が転がってるのは問題だからね」


 あまり綺麗というか清潔すぎると、甲羅ネズミだってやってこないだろう。だけど回廊の真ん中に惨殺死体があってそれに虫が群がるようでも問題だ。その辺りの線引きは感性ということなんだろうけど、クリスはお嬢様育ちだからねぇ。綺麗にしておくように言ったら、ゴブリン達に毎日回廊の床掃除をさせかねない。

 さて、今夜は寝るとするか。すでに真夜中を過ぎている。

                 ・

                 ・

                 ・

 翌日。俺が部屋を出ると、ソファーに座って仮想スクリーンを見ている2人の姿があった。何を見てるのかと思ったら、どうやら冒険者達が帰って行ったらしい。


「慌てて帰って行ったの。まるで怖い物でも見た感じだよ」

「危険と感じたんだろうな。それも冒険者には大事な感性だと思うよ。それにあの部屋で宝箱を見付けたんだからね。早く帰りたかったんじゃないか?」


 とはいえ、気になることも確かだ。彼らが村に帰り着くのは明日の夕方だろう。

 山賊の装備を手土産に村に、様子を探りに行ってみるべきだろうな。


「昨夜の戦闘でスケルトンが8体破壊されたにゃ。残った15体を引き上げて20体を新たに送ってくれるにゃ」

「マナの方は盗賊が死んじゃったから140マナにしかならなかったの。その内の100マナで新たに10体のスケルトンさんを派遣してもらうよ」

「スライムの方は大丈夫なのか?」

「30体ほど分裂して増えてるにゃ。甲羅ネズミも増えたからバイパーが数匹やってきてるにゃ。ダンジョン内なら冬眠しなくても冬を越せるにゃ」


 順調に生態系が出来上がりつつあるってことかな?


「野草摘みで腐りかけた木があったら運び込んでくれないかな? 虫が住んでるはずだ」

「それは婆さん達にも頼まれてるにゃ。あちこちの部屋に運んでるにゃ」


 その割にはダンジョン内が綺麗に感じるな。目立たないように部屋の隅にでも置いているに違いない。

 魔族も綺麗好きだからね。まあ、それなりにではあるけど。


 少し遅めの朝食を終えると、ミーナさんはバックスキンの上下に着替えてゴブリンの少年達と出掛けたようだ。

 そういえば、昨夜はお婆さん達の手も煩わせてしまったんだよな。キューブで新たな冒険者が近づいてこないことを確認したところで、ワインを1本お土産にクリスとお婆さん達のところに出掛けることにした。


「私も一緒に? うん、行く行く」

 

 クリスを誘ったら2つ返事で魔方陣の中に入ってきた。

 クリスの大好きなお婆ちゃん達だからね。笑みを浮かべて俺の傍に立っている。



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