4-02 冒険者の後を追う者
新たなダンジョンを作るならば貧乏症の者を集めればいいというのは、極論だと思うな。最後まで貧乏症なら冒険者が集まって来ないだろうしそもそもダンジョンを大きくすることも考えないんじゃないか?
俺達はのんびりやって行こうと考えてるけど、バイトの残額を見るたびにため息が出る。
無駄遣いは出来ないが、必要な品は購入しなければならない。
購入したいものが他のダンジョンから入手できるなら、それは素晴らしいことだと思うけど、それが常態化したならどうなるんだろう?
ダンジョン同士の潰し合いが将来起きるんじゃないかな? それは、天使や魔族が望む姿ではないんじゃないか?
ダンジョンを使ったこの世界のバランスそのものが崩れる恐れだって出てくる可能性もありそうだ。
「そうでありんすね 。クロード殿の言う通りでありんすぇ。 援助は考えないといけんせんぇ。でも、その前に、せっかくここに来んしたんでありんすから……」
だんだんとクネリさんの顔が近づいてくる。
まるで美の化身だ。ここまでの美人は早々いるもんじゃないぞ。
それに、クネリさんのトロンとした瞳を見ているとだんだんと俺の手がクネリさんに伸びていくのが分かる。
「私のにゃ!」
突然大きな声がしたかと思ったら、俺の体がソファーから乱暴に持ち上げられて、ドスンとソファーの端に下ろされた。
ん? 俺はどうしたんだ?
改めてクネリさんの方に顔を向けると、「シャー!」と息を吐いているミーネさんがクネリさんを睨んでいた。
「まったく、ここを留守にも出来ないにゃ。他のダンジョンの心配なら執務室で考えればいいにゃ」
「私も、そう言ったのでござる。でも、直ぐに出掛けると聞き訳が無かったでござる」
いつの間にかアビスさんがちょこんとクリスの隣に座っていた。ようやく解放して貰えたようだ。
「オホホホ……。ミーネが戻ったなら、しょうがありんせんぇ。今日はこの辺で帰りんしょう。クロード様、貴重なご意見を頂きありがたいことでありんす」
睨み続けているミーネさんに笑みを返せるんだから、魔族の上官は凄いものだ。
「また来るでござる!」と言いながら、アビスがクネリさんを連れて帰ってくれた。
まったく人騒がせな人達だな。
「クネリが来たらなるべく離れるにゃ。傍に寄ったらクネリの【魅了】に晒せるにゃ」
「気を付けるよ。今日はテーブル越しだから安心してたんだけどね」
「ラミア一族と同じ部屋にいる時は、気を抜けないにゃ。気を許した時が最後になるにゃ」
そうなのか? ラミア族は話に聞いてはいたが、前の俺達の周囲でその姿を見たと言ってたやつはいなかったんだよな。
個体数の少ない種族なんだろうか? それとも、あったら最後ってことか? それも怖い話だな。
「鹿を1頭に野ウサギを7匹狩ってきたにゃ。明日にでも村に卸しに行くにゃ」
「了解だ。クリスは欲しいものがあるかな?」
「特にないけど、お婆さんがお鍋を欲しがってたよ」
お鍋と言っても、いろんな大きさがあると思うけどねぇ。俺が首を傾げていると、クリスが「これくらいの」と両手で教えてくれた。
薬草でも煮るのだろうか? そんな感じの小さな鍋だった。
翌日、村に出掛けて肉屋に獲物を卸す。
村の周囲もまだ雪に覆われているから、肉屋は喜んでくれた。
春先まで、こんな暮らしが続くんだろうな。
春分が過ぎると少しずつ雪が減っていく。どうにか飢えることはないけど、見通しはまだ暗いな。
今年もゴブリン達に狩りを頑張って貰わねばなるまい。
「明日は南に行かずに、ダンジョンの周辺で狩りをするにゃ」
「出掛ける前に、冒険者が来ないことだけは確認してくださいね」
「大丈夫にゃ。何度か狩りをしたら、尾根の東に移動するにゃ。それと野菜の種を仕入れて欲しいにゃ。婆さん達からしつこく頼まれてるにゃ」
尾根の東の焼畑は少し広げたようだ。豆やカボチャを育てて、ゴブリン達の食糧事情を改善するのだろう。
「了解です。なるべくいろんな種類を買ってきますよ」
クリスはお留守番になるけど、寂しくなればお婆さん達のところで過ごすに違いない。ダンジョン周辺の見張りが出来れば管理室で過ごすことも無いだろう。
この間の雨の日には、大広間でゴブリンの子供達と鬼ごっこをしてきたみたいだ。大きく作っておいたからゴブリンの少年達も暇な時には楽しく遊んでいるようだ。
翌日。3人が別々の仕事を終えたところで夕食を取る。
頼まれた野菜の種はミーナさんに渡したから、ゴブリン達が大切に育ててくれるに違いない。小袋に入れて、野菜の名を書いておいたんだが、お婆さん達には読めるんだろうか?
ミーナさんに聞いてみたら、何が育つのかも楽しみの1つらしい。
ゴブリン達も、ダンジョンの暮らしが長くなったから、いろんな楽しみ方を探してるのかもしれないな。
ダンジョンの前に広がる荒れ地の雪が消えかかる頃、村にクネリさんから貰った防具を持ち込んだ。
鍛冶屋の爺さんが、俺が人間族の防具を持ち込んだことに驚いていたが、訳を話すといつもの下取り値で引き取ってくれた。
「ダンジョンにこれがあったのか! やはり魔族は俺達の武具を流通させていたんだろうな。俺の方からギルドには話しておくが、宝箱が出て来るとなれば、自分の腕も気にせずに出掛ける奴らも出てくるんだろうな」
「いつもは塞がれてた回廊が通れるようになってたんです。あまり深くは探索できませんでした」
「お前さんは猟師だろう? それは本職に任せるんだな。だが、スケルトンが大勢となれば、初心者には難しいだろうなぁ」
支払いを待ちながら、鍛冶屋の爺さんとそんな話をしておく。
これで、ギルドには伝わるし、興味を持った腕自慢が集まって来るに違いない。
今年最初の冒険者がやって来たのは、村の鍛冶屋に防具を卸してから3日目のことだった。
最初は1組かと思っていたのだが、3時間ほど遅れてもう1組の冒険者がやってきている。
「2組ね。ダンジョンを広くしといて良かった。お婆ちゃん達に連絡してあげなくちゃ」
「仲が悪いのかにゃ?」
「たまたまじゃないか。ところで、2組とも相手のパーティの存在を知ってるのかな?」
ちょっと微妙な距離だ。いくらイヌ族の人間がパーティにいても気が付かないんじゃないかな。
「もう少し近付いたら、構成が分かるにゃ。盗賊ではないと思うけど、油断は出来ないにゃ」
「ダンジョンの正面に来ればはっきりするね。まあ、冒険者を相手にする盗賊なら凄腕ということなんだろうけど」
こんな小さなダンジョンにやって来る冒険者を、相手にする盗賊なんているんだろうか?
まぁ世の中広いということだから、いないとも限らないな。
「とりあえず注意はしといた方がいいな」
「もし、盗賊だったら?」
「冒険者が苦労して手に入れたものを横取りするような奴等なら、2度としないように教育してやろう」
「教育なら、私が担当するにゃ。スケルトンとゴブリンの少年を使うにゃ」
「まだ兵士にも成れない歳だよ!」
「獲物を狙う腕はあるにゃ」
弓を使うってことか? なら、距離を詰められないようにしないと……。そうか、それでスケルトンがいるんだな。
ミーナさんに頷くと、笑みを返してくれた。自分の考えを理解してくれたと分かったんだろう。
最初の冒険者のパーティがダンジョンの前で焚き火を作り休憩を始めると、後続のパーティは銛の外れで歩みを止めた。
後続も冒険者達なら、一緒に焚き火を囲むはずだから、やはり盗賊ということになりそうだな。
「クリス、お婆ちゃん達に状況を伝えてくれ。ミーナさんは最初のパーティが奥に進んでから行動を開始した方が良いよ」
「分かってるにゃ。クリスが戻るまではここにいるにゃ」
そう言って、魔方陣の中に消えるクリスを見ている。
ところで……。ミーナさんって強いのかな?
オーガとは何度か戦ったことがあるけど、あいつは力はあるが動きは冒険者の初心者クラスだから、数人で翻弄すれば敵ではない。
出身が偵察部隊だと言ってたけど、人間と戦ったこともあるのだろうか?
「あまり聞いていいことではないんですが、ミーナさんって強いんですか?」
俺の問いに、キョトンとした表情を俺に向けていたんだが、やがてハハハ、と笑いだした。
「弓なら50歩離れた野ウサギを逃さないにゃ。片手剣の腕は軽装歩兵数人なら問題ないにゃ」
怒らせないように注意しよう。俺より遥かに戦闘力が高い。
となると、森に潜んでいる連中は無事には帰ることは出来ないだろうな。
「私も準備を始めるにゃ」
そう言ってキューブの傍から離れて、倉庫に向かって歩いていく。
装備って? 猟師の装備以外にあったんだろうか?
そんなことを考えていると、片手剣を佩いて帰って来た。ソファーに座りながら、バングルに話しかけている相手は、ホブ・ゴブリンのお婆さん達に違いない。ゴブリンの少年を借りだす相談をしてるんだろう。
松明を手に、冒険者達がダンジョンに足を踏み入れようとしている時に、クリスが帰って来た。
タタタとキュービクルの傍にやって来ると、素早く仮想スクリーンの平面図を眺めている。
「いよいよね。お婆ちゃん達が「任せとけ!」と言ってたよ」
「なら安心だね。元は魔道師部隊で活躍したらしいから、経験は俺達以上だ」
うんうんと頷いているのは、お気に入りのお婆ちゃんを俺が褒めたからなんだろうな。
ダンジョンの通路に入った冒険者は5人だ。真っ直ぐに伸びる通路を慎重に歩んでいる。
もう一方のパーティはまだ動かない。
これまでの状況を考えると、盗賊に間違いなさそうだ。旅人を襲うような盗賊ではなく、武装した冒険者を狙うんだから凶悪だな。
「ミーナさん。こいつらは……」
「分かってるにゃ。生きてダンジョンを出さないようにするにゃ」
本来なら、盗賊であっても生きてダンジョンを出るならマナを手に入れることができる。それを無視して殲滅するという決意を持ってるということか?
俺もそれには賛成だ。生かして帰しても碌なことはしないだろう。
※3年目の春分での収支決算
(1)手持ち金
①支出
・食費 =10,950Bバイト
365日×30B
・松明 =200B
20本×10B
・雑穀(15袋)=750B
・ビスケット =120B
・ワイン =100B
② 収入
・狩りの収入=2,340B
・褒賞金 = 250B
・防具売却 = 630B
③残金
20,510B-12,120+3,220=11,610B
(2)手持ちマナ
①支出
・ホムンクルス召喚=400Mマナ
・ゴブリンの装備(5体分)=500M
・大工道具 =500M
・噴水 =300M
・土壁の石化 =900M
②収入
・冒険者
冒険者の延べ人数52人×5M(1日)=260M
・負傷者延べ人数11人×10 =110M
・魔族の戦闘による収入
戦闘回数12回×60M/回(平均)=720M
③ 残マナ
・3,400-1,700+1,090=2,790M
年間の食費が馬鹿にならない。マナで防具を買い込み、積極的に換金しなければなるまい。




