4-01 クリスはイヌ派
ダンジョンを作り始めて3年が経過したが、狩りや冒険者が回収できなかったスケルトンの装備を売ることでどうにか今年も凌げそうだ。
ダンジョンを一気に広げたから、冒険者達の滞在時間も長くなるに違いない。マナを増やして早く次の魔族を迎えたいところだ。
「東の通路は遮断できたんだろう?」
「3つとも塞いどいたよ。奥の長い通路は丸い石を動かないようにしといた」
ローリングストーンで封鎖したということか。まあ、その先に行けなければ問題は無いはずだ。
「ミーナさんは?」
「ゴブリンさん達と宝箱を持ってあちこち動いてるみたい」
ダンジョンの平面図には紫の輝点が青い数個の輝点と一緒になって動いているのが見えた。どこに置いておくか迷ってるのかな?
適当で良いと思うんだけどねぇ。一度開かれた宝箱を違う場所に置けば良いんだから、迷うことは無いだろうと思うんだが、魔族の人達は考え深いのかな?
「中央広場もできたから、冒険者達は驚くかもしれないね」
「去年もいろんな動物がやってきて住み着いたから、スケルトンさんやスライムさん達だけじゃないんだよね」
「ヨロイネズミだけじゃなかったの?」
「大きな蛇や、コウモリさんも住んでるよ。私達はこのバングルで全ての攻撃を無効化できるから、大丈夫みたい」
そうなると、ホブ・ゴブリンのお婆さん達は大丈夫なんだろうか? 劣化版のバングルを渡してはあるみたいだけど。
「お婆さん達は?」
「おかずが増えたと喜んでた」
さすがは元魔道軍だけのことはある。ひょっとして、俺より強いんじゃないか?
どうにか3つの宝箱を設置したミーナさんが、疲れた表情で帰った来た。
子猫に姿を変えると、俺の膝で丸くなる。羨ましそうな表情でクリスが見てるんだけど、決してクリスの膝に乗ろうとしないんだよね。
ぐっすりと寝入った子猫をクリスの膝に乗せてあげると、嬉しそうにそっと背中を撫でている。
起きるまでは、そのまま膝の上で眠る続けるはずだ。
「たまに、私の布団の上で寝てる時があるんです。子猫でも布団が重いと起きちゃうんですね」
「俺の布団にも乗って来るよ。子猫の姿に戻ると、ネコその者になってしまうんだろうね」
だけど、子猫の姿のままで話をする時があるから、ドキリとしてしまうこともあるんだよな。
たまに、アビスがやって来るようになったんだけど、アビスは子犬に変わるんだよね。
変わった途端に、クリスが飛んで行って抱き上げてるのは、昔飼っていた犬にそっくりなんだからだそうだ。
ということは、クリスはイヌ派ということなんだろう。道理で、あまりミーナさんが近づかないわけだ。
夕食が近づいたころに、ミーナさんが変身を解いて、元の姿に戻ると大きな背伸びをしている。よくもあんなに体が延びて曲がるものだと感心してしまう。
「夕食にゃ。明日は皆を連れて南に行ってくるにゃ」
「もう、芽が出てるのかい? まだ春分も過ぎてないけど?」
「野ウサギを狙うにゃ。婆さん達に頼まれてるにゃ」
育ち盛りの子供達を大勢抱えているからねぇ。
「俺も一緒に行こうか?」
「クロード君はいいにゃ。クリスと一緒にダンジョンの拡張計画を練るにゃ」
「地下に足を延ばすの?」
「そろそろ考えた方が良いのかもしれないね。となるとその階段をどこに設けるかも考えなくちゃならないよ」
「次のダンジョンも考えてるんだ」
嬉しそうな顔をして、すでに先取りしてるのを誇っているようだ。
俺達の食事を棚から運んできたミーナさんが、そんなクリスの表情に笑みを浮かべている。
俺としては、気になるばかりで食事処ではないんだけどね。
子供が考えるダンジョンとはどんな形になるんだろう? 罠さえ1階に設置したぐらいだから、かなり陰湿なダンジョンになっていないだろうか?
話を聞く限り、クリスの前世は貴族の御息女ということになる。ということは、俺達と違って青い血が流れてるなんてことは無いよな。
食事がおわると、遠回しに聞いたミーナさんの質問に答えるように、地下階の概要を教えてくれた。
そのダンジョンとは、やはり子供の発想らしく俺達の意表を突いている。何と、アミダクジを連結したように作るらしい。
連結場所や終点に小部屋を作るから、工事そのものはそれほど難しくはない。
ホブ・ゴブリンの婆さん達用に、少し大きな部屋を1つ作っておけば十分じゃないかな?
「最初の区画に作るこの部屋を大きくしといてくれないかな? お婆ちゃん達の仕事部屋になる」
「1階のこの部屋の手前で通路を塞いでおくね。そうすれば階段や地下階の工事も内緒で出来るでしょう?」
「きちんと計画した方が良いだろうな。俺達は賛成だけど、先ずは東への拡張が今年の課題だ。クリスの考えるダンジョンの工事は早くても来年だからね」
テーブルに広げた紙を丸めて頷いているけど、暇な時何度も見直せば良いものができると思う。
それにしても、だんだんとダンジョンの管理者らしくなってきたな。
翌日の朝早くにミーナさんはゴブリンの少年達を引き連れて狩に向かったようだ。
残されたゴブリンの少年達はホムンクルス達と一緒になって東の主要な回廊を掘り進んでいる。
すでに西の区画は冒険者達の受け入れ態勢が整っているのだが、まだ冬の最中だ。このダンジョンに辿りつく前に遭難しそうな大雪だからね。
それでも朝昼晩に、周囲10kmの様子を見ているのだが、案の定何の動きも無い。
村がダンジョンに近ければ、真冬でも冒険者はやって来るだろう。ダンジョン内の気温はそれほど低くはない。布の上下にモカシンの上下を着てマントを羽織るぐらいで十分な感じだ。
ダンジョン内の気温を計ることはできないけど、10度を下回ることは無いんじゃないか。
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午後のお茶をクリスと楽しんでいた時だ。
いきなり管理室に魔方陣が出現し、光が納まるとクネリさんとアビスが立っていた。アビスが子犬に変わったから、俺の隣からクリスが飛んで行ってアビスを抱えてご機嫌な表情で俺の隣に腰を下ろす。
「あらあら、わっちもいるんでありんす」
笑みを浮かべながらそんなことを言って、俺達の向かい側のベンチに腰を下ろした。
今日はミーナさんがいないからな。クネリさんの言動に注意しないといけないだろう。
「こんにちは。俺達は暇ですからいつ来ていただいても構いませんが、クネリさんはお忙しいのでは?」
「忙しいでありんす 。問題のあるダンジョンも多いでありんすからぇ。 こなたのダンジョンは今のところ理想的に動いていんす 。その辺りの話をしにまいりんした 」
俺に分かる言葉で話して欲しいところだ。
要するに、俺達の状況を見に来たということなんだろうな。
クリスがジタバタしているアビスを離さずに抱っこしているから、お茶の用意は俺がしておこう。
来客の2人にお茶を出したところで、クリスの隣に腰を下ろすと、それを待っていたかのようにクネリさんが口を開いた。
「同時期に作り始めたダンジョン6つの内、現在もダンジョンの拡張を行ってありんす のは、こなたのダンジョン以外には1つだけでありんすぇ。 それも今年で終わるかもしれんせん」
「すでに4つもダンジョン作りが破綻したと?」
「そうでありんすぇ。 他との違いはクロード殿がいるかどうかぇ? やはりダンジョン作りには管理人以外にも人間族が必要だと考えていんす」
「前にもそんな話をしてましたね。となれば、すでに実行に移してるんじゃありませんか?」
「さすがでありんす。その通りでありんすぇ。でありんすが、状況は思わしくありんせん」
ん? 人間族を加えただけではダメだということか?
となれば、他の要因ということになるんだが……。それを見極めようとやって来たということか。
俺をジッと見ながら、優雅にお茶を飲んでいる。
この前はビキニアーマーみたいな装束だったけど、今回は体に密着したチューブトップだけだ。官能的な肢体なんだから、もう少し控えめな衣装をまとって欲しいんだけどねぇ。
「俺が貧乏性なのも原因の1つかもしれませんよ。そうだ! ミーナさんもそんなところがありますね。クリスだってタダだと聞いて他のダンジョンの残り物を一生懸命選んでるところをがありましたから、元は貴族令嬢でもあまり裕福ではなかったのではないかと思っています」
「貧乏でありんすか。それはおもしろう性癖でありんすね 。いちど至高の恩君に相談しても良さそうでありんすぇ」
クネリさんがそう言った途端、シュルシュルと蛇の尾が俺に巻き付いて、持ち上げられた。ストンと落とされたのはクネリさんの隣の席だ。
唖然とした表情でクリスが俺達を見てるんだけど、しっかりと抱きしめたアビスを離そうとは考えていないようだな。
アビスはすでにもがくのをあきらめているのか、なすがままに抱かれているのが哀れに見えてしまう。
「やはり、隣同士で話をしんせん と上手く言葉 が伝わりんせん」
隣でなくても、上手く言葉が伝わっていませんとクネリさんに言うことが出来たらと思ってしまう。
「たぶん、他のダンジョンは無理をしたのでは? と思います。特に問題なのは食糧費ですね。1年で1万バイトでは3年で当初渡された予算を食いつぶしてしまいます。ホムンクルスも食料は必要でしょう。穴掘りの道具でさえタダではありません。当初の予算を上げてあげるか、または食料を補助してあげることで経営が楽になるんじゃないですか?」
「予算は至高の恩君が決めたことでありんすから、わっち達が変えることはできんせんでありんしょう。でありんすが、援助をするなといわす取り決めはありんせん」
できるということなんだろうな。なら、残ったダンジョンの経営も少しはマシになるんじゃないかな。
いつの間にか、俺の顔を両手で優しく包みながら顔を近づけている。
あの目を見ないようにしないと……。魔法を使わずに【魅了】が使える持ち主なんだから気を付けなければなるまい。
ふとクリスに目を向けると、アビスと一緒になって両手で目を塞いでいる。塞ぎながら大きな目でこちらを見てるんだから困ったものだ。




