太る薬(2)
彼女は、瀬尾京香。高校二年生である。
かなりの痩せ型で、本人はそれをとても気にしていた。
本人としては、たくさん食べればもっと体重を増やせることはわかってはいるが、胃袋が小さいのか、どうしてもかなりの少食になってしまう。
彼女は、そのことについて悩み、何度も食べる量を増やそうとしたのだが、無理をすると喉でつっかえてしまい、しまいには戻してしまう始末であった。
元来の引っ込み思案も相まって友人は少なく、本が友達といった状態で、クラスではほんの少し浮き気味だった。
そんなある日のことだった。教室に忘れ物を取りに戻ろうとする彼女は、扉の前でこんな言葉を耳にしてしまった。
「瀬尾京香って、めちゃくちゃ痩せてるよねー」
「あれは痩せすぎでしょ。骸骨みたいじゃん」
「直子、それは言い過ぎ。まぁ、言わんとすることは、わかるけど」
京香は、教室に戻ることを諦めて、回れ右をした。
真っ先に、数少ない友達である良子に相談した。
「私って、骸骨みたい?」
京香の言葉に、良子は優しく答えた。
「骸骨とは言わないけど、痩せすぎではあるね。まぁ、京香が少食なのも知ってるから、ある意味では、食べてる量に見合った体型してると思うよ。私としては、心配ではあるけど」
良子の回答に、京香は肩を落とす。
「太りたいの?」
良子の問いに、京香はコクリと頷いた。
「これは、本当なのか分からないけど……。もしあれなら、薬屋さんで薬を買ってみるのも、ありかもしれないね。あくまで噂なんだけど、聞きたい?」
良子の言葉に、コクコクと頷いた。
「これは、噂なんだけど……。あの、通学路の途中に古い木の家みたいな薬屋さんあるじゃない? 名前はなんだっけ? 『陽光堂』だった気がする。なんせそこには、なりたい自分になれる薬があるらしいのよ」
良子は、そこまで話すと、ペットボトルの緑茶を一口飲んだ。飲んでいるのは、内臓脂肪を減らすと書かれた濃い目の緑茶だ。
そして、お茶を飲むと、続きを話す。
「でね、そこの薬屋では、痩せる薬とか太る薬とか、とにかくなりたい自分になれる薬があるらしいの」
良子は、また一口お茶を飲んだ。
「まぁ、本当かどうか分からないけど、ダメ元で行ってみるのもアリかもしれないね」
良子は一通り話し切ると、ペットボトルのキャップを閉めた。
「どう? 興味ある?」
良子の言葉に、京香はまたコクリと頷いた。
「行ってみようかな……」
京香の言葉に、良子は微笑んだ。
「京香が今まで体型に悩んできたのも知ってるから、噂話程度の情報しかないのは申し訳ないけど……。少しでも、気休めになればいいなと思うよ。まぁ、京香が求める体重になるのが一番だけどね」
良子の笑顔に、京香もつられて笑みを浮かべた。
そして、良子と別れたその足で、薬屋『陽光堂』へと足を踏み入れたのだった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
さて、今度は太る薬を購入した瀬尾京香の視点を綴りました。
彼女なりの葛藤もあったわけです。
私が以前勤めていた会社の同僚が、「もう少し体重を増やしたいけど、どれだけ食べても太れない」と言葉をこぼしたことがありました。そんな彼女は、店で売られている生クリームを大量に買ってストックするほどの甘党でしたが、とても痩せていました。
彼女曰く、胃腸の吸収率が低いらしいとのことでした。
太る薬のストーリーを執筆しながら、ふとそのことを思い出しました。
さて、薬を購入した彼女はどうなるのでしょう?
ぜひ、続きもお楽しみいただけますと幸いです。




