太る薬(1)
ガラリと引き戸が開いた。
華乃は、気怠げに引き戸に視線を向ける。
入ってきたのは、骸骨のようにやせ細った女性だった。
「あの……、ここで太るための薬が手に入ると聞いたんですけど……」
か細い声に、華乃はめんどくさそうに返事をする。
「あるけど? なに? 欲しいの?」
女性は、少し怯えながら「はい」と返事をした。
「どれくらい増やしたいんだい? あんたの身長と、今の体重は?」
華乃は、首筋をぽりぽりと掻きながら、女性に問う。
女性は、少しホッとした様子で、華乃の質問に答える。
「身長は百六十センチで、体重は四十三キロです。できれば、五十五キロまで増やしたいです」
彼女の回答を聞いた華乃は顎に指を当てて、考える仕草をした。
「ちょっと待ってな」
そう言って、華乃はカウンターの裏に引っ込んだ。
ガチャガチャと何かの音がしたかと思うと、華乃は一つの瓶を持って戻ってきた。
「さて、あんたにはこれが合うと思う。一日三回、毎食前だ。一回につき二粒飲めば、一ヶ月以内には求める体重になるだろう」
華乃の言葉に、女性は花が咲いたように笑顔になった。
華乃は、彼女の表情を気に留めることなく、言葉を続けた。
「ただしだ。五十五キロになったら、すぐに服用をやめること。そうしないと、それ以上に体重が増える。一度増えた体重は、簡単に元には戻せない」
華乃の言葉に、彼女はゴクリと唾を飲み込みながら頷いた。
彼女の頷きをチラリと見てから、華乃は話を続ける。
「あんたがどういう理由で太りたいのかは知らんが、一度太ったら元の体重には戻らない。大きく体調を崩さない限り、一生その体重が最低体重になる。増えることはあっても、それ以下に減ることはない。それが、この薬の副作用だ。それでも、この薬が欲しいか?」
華乃の言葉に、少し迷う素振りを見せた女性。しかし彼女は、華乃を真っ直ぐ見つめると、はっきりとした口調で言葉を発した。
「それでも、私は欲しいです。もう骸骨だなんて呼ばれたくない。健康的だと言われたい。ご飯をたくさん食べられるようにもなりたいです」
彼女の言葉に、華乃はフッと優しく微笑んだ。
「わかった。この薬は、代謝を落とすとともに、食欲を増幅させる。食べすぎると、あっという間に予定の体重を超えるから気をつけること。不安なら、一回一粒で徐々に増やす方法もありだ。そこは、自分の体調や胃袋と相談して決めると良い」
女性は、こくりと頷く。
「よし、じゃあ代金についてだが……。金額は、一万円だ」
「はい。これでお願いします」
華乃から代金を告げられた彼女は、財布から一万円札を取り出すと、木のカルトンの上に置いた。
「まいどあり」
華乃は一万円札をしまうと、薬の入った瓶を女性の方へ差し出した。
女性は、そっと瓶を手に取ると、大事に胸に抱えた。そして、華乃にぺこりとお辞儀をして、店を後にした。
華乃は、はぁ……とため息をついて、そばにあった瓶を見つめた。
「どうして、皆体型にこだわるのかねぇ……。それが、個性というものじゃないのかねぇ……。まぁ、皆それぞれ事情があるんだろうねぇ……」
華乃の言葉は、誰の耳に入ることもなく、空気に溶けていった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
さて、前回は痩せたい人のお話でしたが、今回は逆に太りたい人のお話になりました。
この世の中、痩せたい人ばかり目立っていますが、事情があって太りたい人もいると思うんですよね。世界は広いので。
例えば、今回みたいな人もいるんじゃないかなぁと思ってみたり。
ただ、華乃が言う通り、どんな体型であっても、その人の個性だと思うんですよね。
とは言え、皆それぞれ理想があると思うので、皆が理想に近付けると良いなぁとぼんやり思ってみたりします。
さて、太る薬を買った彼女は、どうなったのでしょう?
続きもお楽しみいただけますと幸いです。




