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光り物泥棒と、王様からの『お守り』

「……じーっ」

「……じーっ」

「……」


魔王領へと続く街道を歩きながら、私は凄まじい視線を感じていた。


右からエルヴィーラ、左からアナスタシア、そして私の背中にはフェリスがおんぶされるように張り付いている。

昨日の夜、お風呂で謎の同盟を結んだらしい三人は、私の一挙手一投足を穴の開くような目で見つめていた。


「えっと、三人とも。そんなに見つめられると歩きにくいんだけど……」


「な、なんでもないわよ! 私の目の届くところにいろって言ったでしょ!」

「わたくしはただ、魔物が来ないか周囲を警戒しているだけですわ。……ヤエの所作を監視しているわけではありません」

「……ヤエ、いい匂い。クッキーの匂い」


フェリスに至ってはただの甘えん坊になっている気がするが、まあいい。


「おっ、みんな仲良しッスねー! ハーレム最高!」


先頭を歩く勇者ハルトくんは、呑気に後頭部で手を組みながら鼻歌を歌っている。

平和だ。過剰な監視さえなければ、完璧なピクニック日和である。


――カァァァッ!


その時、上空からけたたましい鳴き声が響いた。

見上げると、カラスによく似た、けれど羽が宝石のようにギラギラと輝く魔物『ジュエル・クロウ』が急降下してきていた。


「きゃあっ!?」


ジュエル・クロウは真っ直ぐアナスタシアに向かって飛びかかり、彼女の胸元でキラリと光っていたものを器用についばんで、再び上空へと舞い上がった。


「ああっ! わたくしのペンダントが!」


アナスタシアが首元を押さえて悲鳴を上げる。


「あれは王都を出発する時、お父様……国王陛下が直々に『お前を守る盾となるように』と授けてくださった、王家の特別なお守りですのに……!」


涙目で空を仰ぐアナスタシア。

光り物が大好きなジュエル・クロウは、戦利品を咥えたまま得意げに上空を旋回している。


「任せろアナスタシア! あんな泥棒鳥、俺のチート魔法で一瞬ッスよ!」


ハルトくんがドヤ顔で一歩前に出た。

彼の手には、凄まじい熱量を持った炎の槍『追尾型・爆炎槍ホーミング・プロミネンス』が具現化している。


(……いや待って。あんなの撃ったら、鳥どころか咥えてるペンダントごと蒸発しちゃうよ)


加減を知らない勇者の魔法に、私は内心で盛大なツッコミを入れた。

ヒロインたちもハルトくんの魔法のヤバさに気づいたのか、「待ちなさいハルト! ペンダントが溶けるわ!」と叫んでいるが、彼はもう射出の構えに入っている。


「……ま、いっか」


私は誰にも気づかれないようにため息をつき、足元の小さな石ころを拾い上げた。


「いっけええええッ!」


ハルトくんが炎の槍を放った瞬間。

私は「あっ、靴紐が」とワザとらしく屈み込みながら、指先で石ころをピンッ、と弾き飛ばした。


ヒュンッ!!


音速を超えた小石は、ハルトくんの炎の槍に横から衝突して軌道を天高くズラし、そのままの勢いでジュエル・クロウの脳天にクリーンヒットした。


「カァッ!?」


気絶したカラスが、ポロリとペンダントを落とす。


「ああ、お父様のお守りが……っ!」


アナスタシアが慌てて両手を伸ばし、地面に落ちる寸前でふわりとペンダントをキャッチした。

彼女の指先が触れた瞬間、ペンダントは主を守るように微かに神聖な光を放つ。


(なるほど、あれが聖女ちゃんを守る王家の魔道具。王様も過保護だねぇ)


私は少し離れた場所から、ホッと胸を撫で下ろすアナスタシアを見て微笑んだ。

まさかあの『神聖な光』の奥底に、娘の命を削るドス黒い呪いが仕込まれているとは夢にも思わずに。


「……ねえ。今、どうやってあのカラスを落としたの?」


ペンダントの一件が片付いた後、エルヴィーラがジト目で私を睨んでくる。


「え? ハルトくんの魔法の余波で気絶したんじゃないですか?」


「嘘よ! ハルトの魔法は明後日の方向に飛んでいったわ!……あんた、もしかして『不可視の空気弾インビジブル・バレット』を無詠唱で……!」


「……ヤエ、石投げた。見えなかったけど、匂いでわかる。暗殺者の投擲術」


またしても、天才魔導士(仮)と伝説の暗殺者(仮)の的外れな考察が始まってしまった。


「いやー! 俺の覇気で鳥が勝手に気絶したッスね! さすが俺!」


そして、一人だけ全く別の世界線を生きている勇者ハルトくん。


「はいはい、さすが勇者様。さ、鳥さんもお腹すかせてただけみたいだし、先を急ぎましょうか」


私は足元で気絶しているジュエル・クロウの横にクッキーを一つ置いてやり、賑やかなパーティーの背中を押し始めた。


彼女の胸元で揺れるペンダントが、これからどんな厄災をもたらすのか。

のんびり屋の裏方ギルド長である私がその『本当の悪意』に気づくのは、もう少しだけ先のお話だ。

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