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魔王城の門番と、大根役者たちの宴

ついにたどり着いた、魔王城『ルナ・クリスタル』の正門。

禍々しくも美しい漆黒の巨門の前には、筋骨隆々の魔族の戦士たちが二人、厳めしい槍を携えて立ちはだかっていた。


「……ッ、ハルト様、気をつけて! あの門番たち、先程のゼノスほどではないにしろ、相当な手練れのオーラを感じますわ!」

アナスタシアが杖を構え、緊張で声を震わせる。


(ああ、あの子たちはゼノスの部下だね。事前に『勇者くんが来たら上手いこと通してあげて』とは伝えておいたけど……)


私は最後尾で、門番たちの様子を伺う。

ゼノスの教育が行き届いているなら、それなりに「激闘の末に門を突破される」というドラマを見せてくれるはず……。


「へっ、門番なんてワンパンッスよ! 俺の聖剣の錆にして――」


ハルトくんが威勢よく一歩踏み出し、抜剣しようとした、その時だった。


「……あ、あーっ! ゆうしゃさまだー! ゆうしゃさまがきたぞー!」

「わ、わー! なんてすごいま力だー! ぼくたちはもうだめだー!」


門番の一人が、まだハルトくんが剣を抜いてもいないのに、唐突に棒読みの絶叫を上げた。


「……えっ?」

ハルトくんが動きを止める。


「ぐ、ぐわーっ!? ゆうしゃさまの、はきが、すごすぎて、からだが動かないぞー! は、花たばを、もっているかのように、かるがると、せいけんを、あつかっているー!」

「だ、だめだ、ぼくはもう、おしまいだー! ぜんりょくで、ふっとぶぞー!」


一人の門番が、まるで目に見えない巨大なハンマーに殴られたかのように、「せーのっ」という予備動作のあと、自ら後ろの壁に向かって派手にダイブした。

ドガァァァン!! と、わざとらしい音を立てて壁に激突し、白目を剥いて転がる。


「…………は?」

ハルトくんが、抜こうとしていた剣を握ったまま固まる。


もう一人の門番に至っては、ハルトくんの方をチラチラと盗み見ながら、「えっと、次は……あ、これか」と小声で呟いた後。


「あ、あいたたー。ゆうしゃさまの、あまりのイケメンぶりに、こころが、おれてしまったー。さあ、門を、あけるので、どうぞ、おとおりくださいー」


門番はそう言うと、自分から「よっこらしょ」という掛け声と共に重厚な門をギギギ……と手動で開き始めた。

そして、門を開けきると同時に、これ見よがしにバタリと倒れ、「し、しんだ……(棒)」と呟いて動かなくなった。


「…………」

「…………」

「…………」


静寂。

魔王城の入り口に、かつてないほどの気まずい沈黙が流れる。


(……絶句。……ねえゼノスくん、私の教え方が悪かったのかな? それともあの子たちが独創的すぎるのかな?)


私は自分のこめかみを押さえ、天を仰いだ。

接待しろとは言った。だが、ここまで露骨な「死んだふり」をしろとは言っていない。


「……ねえ、エルヴィーラ。今の、どう見ても自分から壁に当たりに行ってたわよね?」

「……うん。ヤエが顔を伏せた瞬間、門番、ウィンクしてた。ヤエに『今のよかった?』って顔してた」


「あ、あの……ヤエ。今の、何かの呪いか、それともハルト様の『覇気』が私たちの目に見えないほど高度な次元に達した……ということでよろしいのかしら……?」

アナスタシアが、もはや現実逃避気味に私に問いかけてくる。


「え、えー……と。そうですね、ハルトくんの存在そのものが、魔族にとってはあまりにも恐怖だった……んじゃないかなぁ……? あはは……」


私は力なく笑うしかなかった。


「……よ、よし!! よく分かんねーけど、俺の力にビビって戦意喪失したってことッスね! ラッキーッス!」


一番のバカ……もとい、純粋な勇者ハルトくんだけが、一瞬の困惑を振り切って再びドヤ顔を取り戻した。

彼は聖剣を肩に担ぎ、全開になった門の先へと意気揚々と進んでいく。


「さあ、みんな! 魔王はもうすぐそこッスよ! 俺たちの勝利は確定ッス!」


勇ましい勇者の背中を追いかけながら、ヒロインたちは死んだふりをしている門番の横を通り抜ける。

その際、倒れている門番の指が、私に向かってこっそり「グッジョブ(親指)」を立てているのを、私は見逃さなかった。


(後でゼノスくんと一緒に、あの子たちには『自然な演技指導』を叩き込んでおかないとね……)


私は深く、深ーいため息をつきながら、いよいよ城内へと足を踏み入れた。

魔王城攻略――ある意味で、今までで一番胃が痛くなる戦いが、今始まったのである。

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