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魔王城下町の休日(後編)〜祭りの夜、裏方は舞う〜

魔王領の収穫を祝う『常闇祭』。

街中が幻想的な魔石の灯りに包まれ、魔族も人間ハルトたちも入り混じって賑わう中、ハルトくんは鼻息を荒くしていた。


「見てくださいよ、ヤエさん! あの串焼き、一本300魔ルクだって! 安すぎッス!」


「いいからハルト、あっちの射的もやるわよ! あのエルフの秘宝っぽい景品、絶対落として見せるんだから!」

「……ハルト、わたあめ。あっち」

「わ、わたくしもあそこの金魚……ならぬ金魔魚すくいに挑戦したいですわ!」


ハルトくんを真ん中にして、ヒロインたちが腕を引いたり服の裾を引っ張ったり。

完全に「爆発しろ」と言いたくなるような青春全開の光景だ。


「はいはい、みんな仲良くね。ハルトくん、女の子たちをしっかりエスコートするんだよ?」


私は保護者のような微笑みを浮かべて彼らを見送った。


「ヤエさんは一緒に行かないんスか?」

ハルトくんが不思議そうに振り返る。


「ええ、私は少し『落とし物』を探しに行かないといけないから。後で合流するね」


私がひらりと手を振ると、ハルトくんは「了解ッス!」と元気よく人混みの中に消えていった。


……直後。私の表情から、のんびりとした温度が消える。


「……さて。お祭りの邪魔をする不粋な客人は、どこかな?」


私は路地裏へスッと足を踏み入れた。

そこには、一般の魔族に化けて潜伏していたはずの、王国軍直属『神罰騎士団』の精鋭たちが十数人、音もなく集結していた。


「……予定通りだ。祭りのクライマックスで広場に爆晶石を投げ込み、混乱を引き起こせ。恐怖した魔族たちが暴徒化すれば、勇者ハルトの正義感は頂点に達する。その勢いのまま、奴に魔王を『処刑』させるのだ。全ては王が描いたシナリオ通りに……!」


「残念。そのシナリオ、今シュレッダーにかけちゃったよ」


闇の中から私が声をかけると、騎士たちが一斉に抜剣した。


「貴様、何者だ!? どこから入った!」


「何者って言われてもねぇ……。ただの通りすがりの、お節介な裏方だよ」


私は懐から、お祭りで買ったばかりの『綺麗な扇子』をパサリと開いた。

騎士たちは「女一人で何ができる!」と一斉に飛びかかってくる。


「……不作法だね」


私は優雅に一歩踏み出し、扇子を横になぎ払った。

その瞬間、私の周囲の空気が絶対的な真空へと変貌し、騎士たちの剣が、鎧が、そして彼らの意識が、衝撃波に呑まれて一瞬で吹き飛んだ。


「な……っ、ば、バケモノ……っ」


首領格の男が壁に叩きつけられ、震える声で呻く。


「バケモノは失礼だなぁ。私はただ、可愛いリリィの誕生日も兼ねたお祭りを、汚されたくないだけなんだから」


私は気絶した彼らの懐から、証拠品となる王国の指令書を抜き取り、ゼノスに念話を送った。

(ゼノスくん、裏路地のお掃除完了。ハルトくんを焚き付けようとしていたネズミたちは全員捕獲したよ。後で回収しておいて。一人も殺しちゃダメだよ。生かして王様に送り返すのが、一番の嫌がらせになるからね。彼ら、リリィを殺すための『引き金』にハルトくんを利用しようとしてたみたい。……本当に、趣味が悪い王様だね)


(……御意。師匠、相変わらず慈悲深い(恐ろしい)ことで……)


仕事を終えた私は、再びのんびりとしたお姉さんの顔に戻り、屋台が並ぶ大通りへと戻った。


「あっ! ヤエさん、遅いッスよ! 見てください、フェリスが射的で特大の魔獣のぬいぐるみを獲ったんスよ!」


ハルトくんが、山のような景品を抱えて駆け寄ってくる。その後ろには、顔を赤らめたエルヴィーラと、金魔魚の入った袋を大事そうに持つアナスタシア。


「……ヤエ、これ。半分こ」

フェリスが、自分の食べていたリンゴ飴を私の口元に差し出してきた。


「ありがとう、フェリス。甘くて美味しいね」


私はリンゴ飴を齧りながら、平和そうに笑う彼らを見つめた。

今夜、この街に流れるはずだった血は、一滴もこぼれなかった。


「ヤエさん。俺、やっぱり魔王を倒すだけじゃなくて、この街の平和も守りたいって思ったッス。みんな楽しそうに笑ってるし、これを壊すなんて間違ってるッスよ」


ハルトくんが、遠くに見える魔王城を見上げて、真剣な声で呟いた。


「……そうだね。その気持ちがあるなら、君はきっと大丈夫だよ」


私は彼の背中をそっと叩いた。

王国の悪意に踊らされていた少年が、自分の意志で「平和」を望み始めた。

接待プレイのゴールは、もうすぐそこだ。


「さあ、お祭りの最後は花火だよ! 最高の特等席で見ようか!」


夜空に大輪の魔石花火が打ち上がる。

その光に照らされた私たちの旅は、いよいよ明日、第1章のフィナーレを飾る『魔王城』の門を叩くことになる。

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