勇者のパーティーは色々とおかしすぎる
馬車に揺られながら、勇者ハルトくんは意気揚々と自分の身の上話を語っていた。
「いやー、思い出すなぁ。俺、ニホンの道路でトラックに轢かれかけて、気づいたら真っ白な空間にいたんっスよ」
手元の剣をピカピカに磨きながら、彼はドヤ顔で空を見上げる。
「そこで女神様から『世界を救ってほしい』って泣きつかれて。全属性魔法適性と、規格外の魔力……最強の『チート』をもらって転生してきたってわけッス!」
「へえ、すごいねぇ。女神様に選ばれるなんて、ハルトくんは特別なんだね」
私は適当に相槌を打ちながら、持参した水筒のハーブティーを彼に手渡した。
世界を脅かす邪悪な魔王を討伐するため、異世界から召喚された勇者。
それがこの国――いや、この世界における彼に対する共通認識だ。
女神の加護を受けた彼は、まさに歩く戦略兵器である。
(……まあ、その邪悪な魔王ちゃんから、毎晩泣きつかれてるのがこの私なんだけどね)
心の中でこっそり突っ込みを入れつつ、私はにこやかに微笑む。
「でもさ、俺一人じゃやっぱり限界があるッスからね。女神様が導いてくれた最高の仲間がいるんスよ!」
「あ、見えてきたよ。あの子たちだね」
辺境の村の出口。
そこには、どう見てもこの田舎村には似合わない、強烈なオーラを放つ美少女が三人、腕を組んで待っていた。
「遅いわよハルト! 辺境のギルド長ごときを迎えに行くのに、どれだけ時間をかけてるの!」
金髪を揺らしながらツンケンと怒っているのは、エルフのエルヴィーラ。
彼女の言う通り、表向きの私はただの『雇われギルドマスター』だ。高位の魔導士である彼女からすれば、下っ端もいいところだろう。
「……主様、その女、誰。……殺す?」
ハルトくんの背中に隠れるようにして私を睨みつけているのは、奴隷少女のフェリス。
獣のような警戒心で、今にも私の首に噛み付いてきそうだ。
「こらこら、フェリス。ヤエさんは今日から俺たちのガイドをしてくれるんだ。仲良くしろよ?」
ハルトくんがフェリスの頭を撫でると、彼女はグルル……と喉を鳴らしながら一歩下がった。
そして、最後の一人。
「初めまして。私はアナスタシア。この国の王女にして、女神様に仕える聖女ですわ」
純白のドレスに身を包んだ彼女は、表面上は丁寧にお辞儀をした。
しかし、その瞳の奥には明確な『見下し』の色がある。
「……辺境の泥臭い案内など、本当は必要ありませんのに。お父様……国王陛下も過保護ですわね」
(なるほどね。見事なまでのテンプレパーティーだ)
私は内心でため息をつく。
プライド激高のツンデレエルフに、警戒心MAXの奴隷少女、そして世間知らずの王女様。
ハルトくんは「俺のハーレムだぜ!」と鼻の下を伸ばしているが、彼女たちをまとめるのは骨が折れそうだ。
「まあまあ、そう言わずに。これから長い旅になるんですから、よろしくお願いしますね」
私はにっこりと笑い、持っていたバスケットから急須と茶器を取り出した。
「少し休憩にしましょう。辺境の粗茶ですが、よろしければ」
「ふん、どうせ安物の……え?」
アナスタシアが言葉を失った。
私は、茶葉を蒸らし、お湯を注ぐ。
その一連の動作には、一切の無駄がない。
洗練された指先の動き。完璧な姿勢。お茶を注ぐ時の、水滴一つこぼさない流麗な所作。
それは、王宮のトップマナー講師すら裸足で逃げ出すほどの、極め抜かれた『型』だった。
「……な、なんて美しい所作ですの……!? 王宮の茶会でも、あんな完璧な手前、見たことがありませんわ……!」
アナスタシアが目を丸くして震えている。
……おっと、無意識に昔のクセが出ちゃったかな。
「……お茶、美味しい。この人、すごい」
警戒していたはずのフェリスも、一口飲んだ途端、目を輝かせて尻尾をパタパタと振っている。
「な、なによ! お茶の淹れ方が少し上手いからって……調子に乗らないでよね!」
エルヴィーラは顔を赤くしてプイッとそっぽを向いたが、ちゃっかりおかわりを要求してきた。
「あはは、ヤエさんすげー! みんなあっという間に手懐けちゃったッスね!」
何も分かっていないハルトくんが、能天気に笑う。
(……まあ、道中の世話焼きくらいはお安い御用だよ)
私は一人、お茶をすすりながら息を吐いた。
だが、のんびりとしたお茶会は長くは続かなかった。
ズシンッ、ズシンッ……!
突如、地面を揺らす重い足音が響き渡り、森の奥から巨大な影が姿を現した。
全長10メートルはあろうかという、凶暴なAランク魔物『フォレスト・ゴーレム』だ。
「きゃあっ!?」
「なっ、こんな辺境にAランク指定の魔物が!?」
ヒロインたちが慌てて武器や杖を構える。
しかし、ハルトくんは余裕の笑みを浮かべて前に出た。
「へっ、ちょうどいい肩慣らしッスね! 俺のチート魔法『極炎』で、森ごとチリにしてやりますよ!」
彼の手から、規格外の魔力が膨れ上がる。
……あ、それダメなやつだ。
その魔法、火力がエグすぎて、ゴーレムどころか後ろの私たち、下手したら村まで巻き込んで消し飛ぶ威力のやつだ。
「ハルト、やめなさい! 距離が近すぎるわ!」
エルヴィーラが叫ぶが、もう遅い。ハルトくんは満面の笑みで魔法を解き放とうとしている。
(……仕方ないなぁ)
私はそっとお茶を置き、誰にも気づかれないように――首の後ろをトントンと叩いた。
さあ、第1回、地獄の接待プレイの開幕だ。




