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聖剣の正しい使い方と、裏方の流儀

魔王領を目前に控えた国境の地下迷宮、通称『試練の門』。

ジメジメとした薄暗いダンジョンの中を、私たちは松明の灯りを頼りに進んでいた。


「ははっ! 雑魚ばっかりで退屈ッスね! もっと歯ごたえのある奴はいないのかよ!」


ハルトくんが、手にした立派な剣を肩に担いで大声で笑う。

女神様から授かったというその剣は、刀身から常に淡い光を放つチート武器、聖剣『ルミナス』だ。


斬れ味は抜群、持っているだけでステータスが底上げされるという反則級の代物。

だが、後ろを歩く私の目には、その宝の持ち腐れっぷりが痛いほど見えていた。


(あーあ。剣の重心ガン無視で力任せに振り回すから、刃筋が全然通ってない。あれじゃただの『光る鈍器』だよ)


いくら聖剣が優れていても、使い手が素人なら本来の力は発揮できない。

とはいえ、彼は毎日宿屋の庭で、見よう見まねの素振りを欠かさずやっている。チートに頼りきりとはいえ、その努力だけは本物だ。


(掌にマメもでき始めてるし、基礎はちゃんと育ってるんだけどね。……おっと)


私がハルトくんの手元を観察していた、その時。


ズズズンッ……!


ダンジョンの最奥、巨大な鉄の扉を抜けた先の広間で、地響きと共に「それ」が立ち上がった。

全身を黒光りする超硬金属で覆われた、身長5メートルを超える迷宮の主『アダマンタイト・ゴーレム』だ。


「きゃあっ! なによあのでか物!」

「……エルフの魔法、効かない。硬すぎる」


エルヴィーラが放った風の刃が、ゴーレムの装甲に当たってキンッと弾き返される。

物理も魔法も通さない、まさに鉄壁の番人だ。


「へっ、ちょうどいい的ッスね! 俺の『聖剣』の力、見せてやるッス!」


ハルトくんは全く怯むことなく、聖剣ルミナスを両手で上段に構え、一直線にゴーレムへと突っ込んでいった。

チート級の脚力で跳躍し、脳天に向かって力任せの一撃を振り下ろす。


(……あ、ダメだ。あんな大振りじゃ、硬い表面で剣が滑って弾き返される。最悪、ハルトくんの腕の骨が折れちゃう)


私がそう判断したのは、剣がゴーレムの装甲に触れる0.5秒前。


「……ま、いっか」


私は誰にも聞こえない声で呟き、落ちていた小石を拾って親指でピンッと弾いた。


ヒュッ……!


音速を超えた小石は、ゴーレムの装甲の継ぎ目――首元の『絶対的な重心の支点』に極小のヒビを入れた。

そして同時に、私の指先から放った見えない魔力の糸が、ハルトくんの剣の柄にそっと絡みつく。


力任せでブレブレだった刃筋を、ほんの数ミリだけ強制的に修正する『軌道補正サポート』。

直後。


ズバァァァァァァァァァッ!!


「うおおおおおっ!?」


ハルトくんの放った一撃は、ゴーレムの装甲をまるで豆腐のように真っ二つに両断し、そのまま背後のダンジョンの壁まで綺麗に叩き割ってしまった。


凄まじい轟音と共に、アダマンタイト・ゴーレムが左右に崩れ落ちる。


「……ははっ! 見たか! これが俺と聖剣のフルパワーだぜ!!」


ハルトくんがドヤ顔で剣を天に掲げる。

実際は、私が装甲の脆い部分を石で破壊し、剣の軌道を完璧な『型』に修正したからこそ生まれた威力だ。だが、そんなことを知る由もない勇者は、自分のチートっぷりに大満足の様子である。


「す、すごい……! あの超硬金属を、一刀両断するなんて……!」


エルヴィーラが呆然と呟く。

だが、彼女の長い耳はピクピクと不審げに動いていた。


(おかしいわ。ハルトの剣、当たる直前に不自然に軌道が変わった。それに、ゴーレムの装甲から一瞬だけ『魔力で内部破壊された』ような痕跡が見えた……。まさか、またあの女が……!?)


エルヴィーラがジロリと私を睨んでくる。


「……ヤエ、今、石投げた? ゴーレムの急所、壊した?」

フェリスも私の服の裾をクンクンと嗅ぎながら、小声で聞いてくる。


「……あの凄まじい剣術の補佐。もしや王家に伝わる秘伝の剣技……? やはり、只者ではありませんわ」

アナスタシアも一人で何やら納得している。


(……やれやれ。これだけ派手にやれば、そりゃ疑われるよね)


私は首の後ろをトントンと叩きながら、三人の視線を笑顔でスルーした。


「ヤエさん! 見たッスか俺の勇姿! もう魔王なんて一指し指で余裕ッスよ!」


ハルトくんが鼻息荒く駆け寄ってくる。


「ええ、お見事でしたよ。でも、まだまだ素振りの練習は必要ですね。剣ダコがしっかり固まるまで、私がビシバシしごいてあげますから」


「げっ!? このチートパワーがあるのに、まだあの地味な素振りやらなきゃダメなんスか!?」


「当たり前です。借り物の力だけじゃ、いつか痛い目を見ますよ?」


私が笑いながらハルトくんの背中をバシッと叩くと、彼は「いててっ!」と大げさに痛がりながらも、なんだかんだ嬉しそうに笑っていた。


こうして、私たちはついに魔王領への扉を開いた。

……だが、崩れ落ちたゴーレムの残骸の奥に、『王国軍の紋章が刻まれた最新鋭の武器箱』が隠されていることに、この時の私はまだ気づいていなかったのだ。

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