第2.5話 私はね、君をずっと覚えているの
春休みのある日。
私、大広玲夏はいつものように部活を終えて帰路につく。
あれだけお空のてっぺんで意地を張っていたお天道様も緩やかに弧を描いて下り、入道雲や建物の壁までも徐々に暗く、赤く染めていく。
どこかしらから飛んできた桜の花びらを含んだ程よい風にゆらゆらと気持ちよく揺られながらアスファルトの上を歩いていく。
家に着いた。
いつもと変わらない門構えは陽光のせいか、温かみを帯びている。
差し込んだ鍵をひねると、扉がガチャリと小気味良い音を立てる。
「ただいまー!」
ちょっと待ってみたけどおかえりーって聞こえてこない。
なんでかな、って首を傾げたけどそういえばお母さんは買い物に行くから夜帰ってくるとか言ってたっけ。
靴を揃えて玄関に上がった後、みしみしと木の音を響かせながら階段を上がり、手前にある部屋のドアを開ける。
シューズが入った手提げカバンをベッドにポイしてお風呂に入ろうと部屋を出る直前、机に備え付けの本棚からバサっと物音がした。
何か落ちてきたみたい。
「あ、幼稚園の時のアルバムだ」
つい声に出してしまい照れ臭くなる。
さくら組の集合写真のページを開くと底抜けの笑顔を見せている彼の姿は確かにそこにあった。私は彼の顔をそっと触れながら呟く。
「“ゆうと”君。また会えるかな。」
泣いてばっかりだった私に、君はいつも「だいじょうぶ?」って声をかけてくれた。名字は忘れちゃったけど、あの優しい笑顔だけは鮮明に覚えている。
もうすぐ私も高校2年生。
10年も前のことだから、君はきっともう私のことは覚えていないかな。
……でも、もしどこかでゆうと君のことを見かけたらどうしよう?!
大学のサークルとか、社会人になった後とか、もしかしたら道でばったり会っちゃうかも!
思い出してくれたら嬉しいけど、ずっと気づかれなかったらさびしいな。
でも自分から「私のこと覚えてる?!」とか言いだしたら引かれちゃうかもしれないし、うーん難しい。
……これ以上空想に浸るのはやめにしとこ。
アルバムを元の場所にそっと戻し、足を踏み外さないように手すりをしっかり掴んで階段を降りた。
今日の夜ご飯はなんだろうな、なんて。
そんな他愛もないことを考えながら私は今日も湯船に体を預けた。




