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第11話 デートから最も遠い状況

 事情を悟られないように心を落ち着けた後、教室に戻るといつものように姫乃や黒水、八坂が塾の宿題をしながら談笑していた。

 寺井は部活があると言っていたか、教室にはいなかった。


 ただ、もしかしたら……と思っていたが、そこに大広の姿はなく、部活道具の入ったカバンとリュックだけが残されていた。


「あれ、れいかちゃんは?」


「……ああ、後から来るらしい」


 姫乃の呼びかけに対して当たり障りのない言い訳で誤魔化して、俺は再び廊下に出ようとする。早く大広を探さないと。

 そう前のめりになった俺の肩にぐっと力がかかり、廊下に出かかった体が引き戻される。


「なんかあったんだろ」


 黒水の声を背に受ける。

 あれだけザワザワしていた教室が静まり返っている。

 でも、顔を見せたくない。


「なんもないよ」


 自分への苛立ちが少し漏れてしまうように、強い口調でつい言い返してしまった。


「そんなに俺たちのことが信用できないのか?」


 思わず振り返る。

 黒水の顔に苛立ちや怒りだけではなく、戸惑いや悲しみを含んでいるのを感じて、はっとする。

 姫乃も同様だ。

 八坂は澄ました顔でこちらを見つめている。


「信用はしてる、でも俺のせいなんだ」


 彼らに目を合わせることができない。


「何があったのよ、佑人」


 でも、無責任に大広を傷つけた俺に、抱えられるものなんてない。


「……ちょっと話がある、来てくれないか」


 そういうと三人は頷いてくれた。


-☆-


「あんた、最低じゃん」


 人気の少ない階段の踊り場。

 ことの顛末を話し終えると姫乃は単刀直入にそう告げた。

 その言葉に反論する術も気持ちもなく、ただ受け入れるよりない。


「それにしても、いくつか引っかかるところがあるよね」


 八坂は思いの外冷静に言う。


 引っかかるところ?


 正直今の俺にはこれまでの出来事を整理して考える余裕なんかないから、生返事を返すことしかできない。


「そんなの考えるのは後でいいだろ。とりあえずあいつを探さないとな」


 黒水の言葉に皆頷く。

 俺たち3人は別れて学校内を探し始めた。

 荷物が教室に置いたままだと言うことは、大広はまだ学校からは出ていないはず。

 

 いつもバレー部の活動が行われている体育館

 バレー部の部室

 もう一度屋上に戻ってみたりもした。


 でもなかなか見つからない。

 一応みんなラインしてみたものの既読もつかない。

 探している最中にもひどく悲しそうにして俺を屋上から出ていくように促した大広のあの顔。

 そして、屋上から飛び出してきた大広の涙。それが何度も蘇ってきて胸がはち切れそうになる。

 

「見つかったか?」


 俺たち4人のグループラインに黒水のメッセージが送られてきた。

 すぐにそのメッセージの下に「既読3」の小さな文字がつく。

 「まだ」と端的に返信して、まだ探していない場所を考えようとした矢先、携帯が鳴る。


 表示された名前は「水瀬咲夜」


 望んでいた名前ではなくてついため息をついてしまう。


「もしもし、ごめんけど今忙しくて――」


「いたわよ、大広さん」


 俺の言葉を遮るようにして咲夜はそう端的に告げた。


「え?」


「大広さん探してるんでしょ?」


 状況が飲み込めない。なんで咲夜が……

 ――けど、考えている暇はない。


「……どこにいる?」


「3階のテラス」


「すぐ行く」


 そう言ってスマホをポケットに突っ込み、俺はテラスに向かって駆け出した。



-☆-


 電話を切り、私は昇降口へと向かう。グラウンドでは野球部の威勢ある掛け声が響いている。

 中学のとき、孤立していった私。友達だと思っていた子たちもだんだんと離れていった。

 そんな私にただ一人、手を差し伸ばし続けてくれた君。私にとってその姿はあまりに眩しかった。

 でも私のせいで君も孤立していくうちに、その輝きが徐々に曇りがかっていく様に感じて。

 私はそれが嫌だったからあんなふうに振る舞って、君のその純真な優しさに蓋をしてしまった。

 

 あのことについて、今更話題に出すことはもうない。

 君も出さないでくれている。

 君はあれ以来、あの優しさを胸に潜めている。

 けど、君があのときの様にまた誰かに手を差し伸べてくれるなら――


-☆-



 息を切らしながら階段をのぼり、俺はテラスに出た。

 敷地を囲うようにして並ぶベンチに彼女の姿はない。

 一周ぐるっと回っていると、その隅に寄りかかるようにして大広は体育座りをしていた。

 太ももの上にちょこんと乗せられた顔を見る限り、眠っているようだった。


 俺はそんな彼女の姿を捉えて思わず駆け出しそうになるが、本能的に足が止まる。

 

 もう、大広は俺の顔なんて見たくないんじゃないか。


 そう思うと屋上でのあの出来事に至るまでの自らの過ちが頭の中を反芻してきて自己嫌悪する。

 でも、仮に大広が俺のことを嫌いになっていたとしても、謝らなければならないだろう。


 俺が距離を近づけていくと、大広はゆっくりと瞼を開いた。両手を上の方に伸ばした後、こちらの方を見て目をぱちくりさせている。


「ゆうとくん、どうしてここにいるの?」


 その表情はいつもの温和な大広そのもの。でも瞳は赤い。俺の罪悪感が加速していく。


「大広さん、さっきは本当にごめんなさい」


 そう頭を下げることしかできなかった。

 俺の頭の中には大広を傷つけてしまったことへの申し訳なさでいっぱいだった。


 何を言われてもしょうがない。

 そう思っていた。


 寝起きだからだろうか、俺の言葉を飲み込むに時間がかかったからだろうか。

 数秒の間をおいて大広は返事をくれた。

 

「れいかって呼んでくれるんじゃなかったの」

 

 予想外の言葉に驚いて大広の顔を見ると、いたずらっぽく微笑み、それでいてどこか悲しそうだった。

 どう返したらいいか分からず、俺は黙ってしまう。

 大広は一度目を伏せて、どこか覚悟を決めたような目つきでこちらを再び見て立ち上がり、口を動かした。

 

 それは、俺の予想から最も遠い場所にある言葉だった。




「ただゆうとくん。今からデートしようよ」

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