表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/46

計画外のルート

「明日、僕がこの街の『裏ルート』、案内しましょうか? ガイド料は……そうですね、帰りに美味しいコーヒーを一杯ご馳走してくれればいいですから」

翌日、私は高橋さんたちに「今日は一人で回るから」と断りを入れ、彼——リョウくんと待ち合わせた。


普段の私なら、事前にGoogleマップで最短ルートを調べ、レビューの高い店を予約して動く。それが一番「効率的」だからだ。

けれど、古い自転車を漕いで現れた彼は、「こっちです!」と、地図にも載っていないような細い未舗装の道へ私を誘った。


「見てください、あそこの木。光の入り方が、舞台の照明みたいで綺麗でしょう?」

彼が指さす先には、ただの木漏れ日があった。

いつもなら「照度不足で作業には向かないわね」と切り捨ててしまうような、生産性のない光。

けれど、彼の隣で立ち止まって眺めていると、不思議とそれが「必要なデータ」のように思えてくるから不思議だ。


「木内さんって、仕事してる時、すごく格好いいんでしょうね。さっき、一瞬だけ見せた横顔、厳しいプロジェクトをやり遂げた騎士ナイトみたいでしたよ」

彼は、私の手にできたマウスだこや、スマホを見る時の鋭い視線を「欠点」ではなく「物語」として解釈してくれる。

オフィスでは、誰からも感謝されない「動いて当たり前」の裏方仕事。

それを、彼は「格好いい」と全肯定した。


私の心の中で、何かが音を立ててアンインストールされていく。

「完璧でいなければならない自分」という重いOSが終了し、軽やかな「ただの私」が立ち上がる感覚。

「ねぇ、リョウくん。コーヒーだけでいいの? 私、もっとお礼がしたいんだけど」

気づけば、自分から「追加コスト」を払おうとしている私がいた。

普段なら「契約外の作業スコープクリープ」には絶対に応じない私が。

その夜、彼に誘われるまま入った小さなビストロで、彼が「財布を寮に忘れてきちゃって……」と困った顔をした時も、私は笑ってカードを出した。

「いいのよ。今日は私が、あなたのスポンサーになるわ」

それが、後に致命的なシステムエラーを引き起こす「バグの混入」だとは、その時の私はまだ、露ほども思っていなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ